「コミュ障」や「コミュ力」という言葉が当たり前に聞かれるほど、コミュニケーション能力が重視される現代。みなさんはコミュニケーションが上手な方ですか? 友達と親しく話せることはできても、プレゼンなどで考えを伝え、聞き手を動かすほどのコミュニケーション力というとなかなか難易度が高いですよね。
相手に自分の真意を伝えたい、できれば同意・応援してもらいたい、というとき、自分の体験を話すことについて意識したことはありますか? 実はストーリー(物語)をスピーチに取り入れることで、相手を説得しやすくなるのです。 今回は説得の場面におけるストーリーの役割について考えてみましょう。
人を動かすための三要素
古代ギリシアの哲学者、アリストテレスをご存知でしょうか? 彼は数々の学問を修めていたことから「万学の祖」と呼ばれ、またアレクサンドロス大王の家庭教師をしていたことでも有名ですね。そんな彼は、人を動かすための要素は、「ロゴス(論理)」、「パトス(共感)」、「エトス(信頼)」の三つが必要である、と説いています。
1.「ロゴス」:論理(ロジック)。相手の話を「正しいと判断」するから動く 2.「パトス」:情熱(パッション)。相手の話に「共感」するから動く 3.「エトス」:信頼。話している相手自身の「人としての魅力」があるから動く
(引用元:INVENIO LEADERSHIP INSIGHT|人を躍動させる『物語力』)
確かに論理が破綻していたり、そもそも情熱が欠けていたら論外。さらに、その二つは問題が無かったとしても、人間性的に問題があったりしたら、どんなに大層なことを言われても腹落ちしないですよね。 この3つのうちで最も大切なのは“共感”ではないでしょうか。相手や相手の話に強く共感すると、話者が魅力的に見えてきたり、論理がある程度飛躍していても気にならなかったりしませんか? どうしてスピーチにストーリーを取り入れるとよいのか。それはストーリーに共感を呼ぶ力があるからなのです。
ストーリーは共感を呼ぶ
ストーリーが共感を呼ぶ。きっとあなたも経験があるはず。 例えば、歴史の勉強をする際、年表で出来事を列挙されるよりも、失敗談も含めた歴史上の偉人たちの伝記のほうが彼らをより近くに感じられますよね。 実はこのこと、脳科学的に実証されているのです。
複数の科学者の分析の結果、ストーリーは聞き手の脳にコルチゾール、オキシトーシン、ドーパミンなどの脳内物質の分泌を促すことがわかってきた。その作用により内容が記憶に鮮明に刻まれやすくなるというわけだ。
(引用元:東洋経済ONLINE|人を感動させるスピーチには黄金法則がある)
ポイントはオキシトーシンの分泌が促されるという点。オキシトーシンは女性ホルモンの一種で、親しみや共感を感じたときに分泌されます。ストーリーが聞き手のオキシトーシン濃度が上昇する、つまりストーリーは共感をもたらしていると考えられるのです。
人に気持ちを伝えるための「セルフ・アス・ナウ」
私たちに共感を生んだ最近のスピーチでは、黒人初のアメリカ合衆国大統領となったバラク・オバマ氏の一節が思い出されます。“Yes, we can.”のスローガンは、多くの人々に大きな影響を与えましたよね。そんな彼を選挙参謀として支援したマーシャル・ガンツ氏もスピーチにおけるストーリーを大切にしています。具体的には次の三つのストーリーを盛り込むとよいのだそう。
1、セルフ(私の物語) 自分の活動の背景 2、アス(私たちの物語) 相手と共有する価値観 3、ナウ(今の物語) 今行動する理由
(引用元:クローズアップ現代|シリーズ未来をひらく2 “物語”の力が社会を変える)
何かを主張したい、この考えに共感して欲しいと思っても、一方的に主張だけを伝えたところで人の心は動かせません。今まで私が何をしてきたのか、それが聞き手の何と同じなのか、このつながりを明確にすることで強い共感を呼ぶことができるでしょう。 ストーリーを効果的に使うことができれば、オバマ大統領のようにスピーチで多くの人を動かせるようになるかもしれませんね。
(参考) ナースのヒント|専門医が教える!幸せホルモン「オキシトシン」にあふれる生活の過ごし方 Wikipedia|アリストテレス PHP Online 衆知|「脳の疲れ」がスーッととれる!“癒しホルモン”オキシトシンの増やし方 INVENIO LEADERSHIP INSIGHT|人を躍動させる『物語力』 東洋経済ONLINE|人を感動させるスピーチには黄金法則がある クローズアップ現代|シリーズ未来をひらく2 “物語”の力が社会を変える