
毎日企画書や資料作成に追われ、脳はフル回転。ようやくアイデアがひらめいた! と思っても、いざメモをとろうとすると手が止まってしまう……。
「きれいに書こう」
「あとでわかるように整理しよう」
そう考えた瞬間に、脳内の思考スピードが急ブレーキを踏んでいませんか。
じつはその「きれいにメモをとろうとする行為」こそが、あなたの思考を鈍らせ、せっかくのアイデアを台無しにしている原因かもしれません。
この記事では、脳に浮かんだモヤモヤとした思考を瞬時に「汚メモ」として書き出し、あとから驚くほどスッキリ整理できる「爆速思考整理術」を、筆者の実践報告も交えて解説します。
「きれいに書こう」とした瞬間、思考は止まる
仕事で「整理整頓された美しいアウトプット」を求められることは、誰もが経験することでしょう。最終的な成果としてはもちろん重要です。しかし、思考の初期段階では「きれいに整えよう」とする意識は、じつはあなたの創造性を大きく妨げている可能性があります。
なぜ「きれいなメモ」がアイデアを邪魔するのでしょうか。
それは、脳が「表現すること」と「整理すること」を同時に処理しようとしてしまうからです。
京都大学での船橋氏と渡邊氏の研究で「2つのことを同時にしようとすると、どちらも中途半端になる 脳の仕組み」*1 が解明されました。
この研究では、サルの前頭連合野の神経活動を記録し、2つの課題を同時に行なおうとすると、エラーが増えたり、反応時間が長くなったりする人間の脳内のメカニズムを明らかにしました。この現象を二重課題干渉(dual task interference)と呼ぶそうです。
つまり、完璧な文字で書こうとすると脳のリソースが分散され、結果として思考の停滞やアイデアの損失につながるというわけです。
実際、マッキンゼー出身の人材戦略コンサルタントで「一流のノート術」を研究する大嶋祥誉氏も、「マッキンゼーの人やコーチングのクライアントであるエグゼクティブでも、実はノートが汚い人は多い」*2 と述べています。
ですからみなさんも、「きれいに書こう」から、まずは「汚くてもいいから、とにかく情報を書き出す」という意識へと変えてみてください。
爆速で書き出す「汚メモ」ステップ
「なかなかいいアイディアが浮かばない」と頭のなかで考えが堂々巡りして、いつまでも具体的な形にならないことはありませんか。じつはこれ、筆者もよく陥る悩みです。
そこで今回は、実際に「汚メモ」で思考を可視化するための3ステップに挑戦します。ここから、具体的なやり方と実践してみた感想、コツをご紹介していきます。
【ステップ1】制限時間を設けて、とにかく箇条書き・矢印・図形を使って荒く書き出す
まず、タイマーを5分にセットします。そして、頭の中に浮かんできたアイデア、キーワード、疑問、連想などを、とにかく自由に、そして速く書き出していきます。
この時、「きれい」である必要は一切ありません。あとから読めなくても、意味が分からなくてもOK。箇条書きはもちろん、矢印で関係性を示したり、図形やイラストを交えたりするのも効果的です。
筆者は「人と人とが理解しあうには何が必要?」について書き出してみました。
この段階では思考は断片的で、全体像も見えていません。しかし、脳内のモヤモヤが可視化され、次のステップに進むための土台ができたといえます。
メモの「汚さ」は気にしなくてよいため、連想される言葉や疑問が湧き出て止まることがありませんでした。図形やイラストは得意ではないので、文字の箇条書きが一番取り組みやすい方法でした。
(画像は筆者にて作成)
【ステップ2】必要な部分だけをあとから整理
一通り書き出したら、今度は冷静になってメモを見返します。ぐちゃぐちゃに見えるメモのなかから、「これは使えそうだ」「気になる」と感じるキーワードやアイデアに印をつけていきます。蛍光ペンでマークしたり、丸で囲んだり、付箋を貼ったりする方法がよいでしょう。
このとき、完璧に整理する必要はありません。あくまで「気になる種」を見つけ出すことが目的です。
筆者は大きく4つにわけ、グルーピングしてみました。
(画像は筆者にて作成)
【ステップ3】メモのなかから「使える種」をチェック
印をつけたキーワードやアイデアを、さらに深掘りしていきます。たとえば、「理解と同意は関係ある?」というキーワードに印をつけたなら、「なにを以て理解とする?」といった問いを立て、さらにメモを書き足していくのです。
この段階で初めて、論理的な思考や構造化を意識します。先ほどまでバラバラだったアイデアの断片が、少しずつ形になり始めたのを感じられます。
これにより、「ただの殴り書き」が行動や企画につながるアイデアリストへと変化するのです。
(画像は筆者にて作成)
実践の効果と感想
実際に「汚メモ」を実践してみて、いくつかの発見がありました。
思考の流れにスピードが生まれた
普段、メモを取る際には「なにを」「どう書くか」を考えすぎて、手が止まってしまうことがあります。しかし、「汚メモ」ではとにかく書き出すことに集中するので、思考が途切れることなく、次から次へとアイデアが湧き出てくる感覚がありました。まさに、脳内の情報が淀みなく流れていくようなイメージです。
あとからの整理が圧倒的にラクに
「汚メモ」で一旦すべてを吐き出してしまうため、あとから見返した時に、必要な情報とそうでない情報が明確に区別できるようになりました。ゼロから整理するよりも、すでに書き出されたメモから「種」を見つけるほうが、圧倒的に効率的です。
意外な連想が生まれた
制限時間を設けて焦りながら書き出すことで、普段は意識の奥底に眠っているような連想が引き出されたのは驚きでした。これは、思考の枠を外す効果があると感じました。
結果的に筆者の「頭の中で堂々巡りしてアイデアが形にならないという悩み」が解決できて、気分も明るくなりました。いろんなテーマで試してみたいと前向きになったのも驚きです。
紙とペンがあればすぐにできるため、手軽に挑戦できます。
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「汚メモ」はあなたの脳内にある、無数のアイデアの種を爆速で紙の上に吐き出すためのものです。美しさは必要ありません。もしあなたが、なかなか考えがまとまらない、あるいは考えすぎて思考停止に陥ってしまうと感じているなら、ぜひ一度、「汚メモ」を試してみてください。
*1 渡邉慶, 船橋新太郎. 二つのことを同時にしようとすると、どちらも中途半端になる脳の仕組みを解明. 京都大学 研究成果. 2014 研究成果発表(船橋)
*2 ダイヤモンド・オンライン| 元グーグル社員のノートはなぜ「汚い」のか | 一流のノート術 |
橋本麻理香
大学では経営学を専攻。13年間の演劇経験から非言語コミュニケーションの知見があり、仕事での信頼関係の構築に役立てている。思考法や勉強法への関心が高く、最近はシステム思考を取り入れ、多角的な視点で仕事や勉強における課題を根本から解決している。