みなさんは、「意思決定」をするにあたりどのような要素を判断材料としているでしょうか。その最大の要素を考えると、おそらくメリットとデメリットになるはずです。メリットが小さくデメリットが大きいことを、わざわざ実行しようとは誰も考えないからです。しかし、「識学」という組織運営理論をベースにした経営・組織コンサルティングを行なう安藤広大さんは、「デメリットの扱い」について注意を促します。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
【プロフィール】
安藤広大(あんどう・こうだい)
1979年生まれ、大阪府出身。株式会社識学代表取締役社長。2002年、早稲田大学を卒業後、株式会社NTTドコモを経て、ジェイコムホールディングス株式会社(現ライク株式会社)のジェイコム株式会社で取締役営業副本部長等を歴任。2013年、「識学」という考え方に出合い独立。識学講師として、数々の企業の業績アップに貢献。2015年、識学を1日でも早く社会に広めるために、株式会社識学を設立。人と会社を成長させるマネジメント方法として、口コミで広がる。2019年、創業からわずか3年11か月でマザーズ(現グロース市場)上場を果たす。2024年9月現在で、約4,400社以上の導入実績があり、注目を集めている。著書にシリーズ累計160万部を突破した『リーダーの仮面』『数値化の鬼』『とにかく仕組み化』(ダイヤモンド社)がある。
人間の脳は、「デメリット」を重く感じるようにできている
自炊をすれば食費というコストは抑えられますが、調理をする時間と労力というコストは必要になります。そのように、あらゆる物事は表裏一体の関係で成り立っており、メリットもあればデメリットもあるのです。
ただ、デメリットはかなり厄介な存在です。なぜなら、「意思決定」においては大きな障壁となりえるものだからです。人間という生き物は、デメリットを重く感じるようにできています。それはおそらく生存するための防衛本能によるのでしょう。
「損失回避バイアス」を知っていますか? 損失を避けるためにリスクをとらない傾向にある脳の特性の一種です。たとえば、「1万円を得る喜び」よりも「1万円を失う痛み」のほうが、人にとっては大きく感じられます。脳が、「失うこと」を恐れるようにできているのです。
そういった脳の特性もあり、デメリットについて人は無限に思いつくことができます。用事があって出かけなければならないときに、移動手段を選択する場面をイメージしてみてください。
- 電車:人身事故が起こるかもしれない
- 自転車:チェーンが外れたりタイヤがパンクしたりするかもしれない
- 自動車:事故や渋滞に巻き込まれるかもしれない
- 徒歩:道に迷ってしまうかもしれない
ちょっと極端な例かもしれませんが、デメリットはいくらでも考えられます。でも、だからといって、用事があるのにずっと家にいるわけにはいきません。ですから、デメリットを正しくとらえたうえで、一定のリスクを受け入れながら意思決定をする必要があるのです。
デメリットは、「取り返しがつくかどうか」で判断する
では、そのデメリットをどのようにとらえるべきでしょう? 先に挙げた損失回避バイアスのような脳の特性を知り、それに流されないようにして冷静に判断することも有効な手段でしょう。また、デメリットに関する判断軸として、「取り返しがつくかどうか」というものも挙げられます。
失敗のなかには、「取り返しがつかない失敗」というものも存在します。たとえば、いくらリスクをとるとしても、「給料の全額をギャンブルに突っ込む」といった決断は、賢明な意思決定とは到底言えません。でも、生活費を確保したうえでお小遣いの範囲でギャンブルをするのならどうですか? 仮にギャンブルに失敗しても生活に支障は出ませんから、それは「取り返しがつかない失敗」ではありません。
もちろん仕事に関わることにも、「取り返しがつかない失敗」は存在します。たとえば、体調を崩しているのに無理をして仕事を続けるという意思決定をした結果、大きな病気を患ってキャリアを継続できなくなるようなことは避けなければならないでしょう。
でも、若いビジネスパーソンは例外的とも言えます。いま挙げたような個人の健康に関わることでなければ、仕事において「取り返しがつかない失敗」と言える失敗はほとんど起こるものではありません。経営者であれば話は別ですが、一会社員がなんらかの失敗によって会社に損失を与えたとしても、誠実に働いたうえでの結果なら、上司や会社が必ずフォローをしてくれますよね。
私は、著書や取材記事などを通じて、「失敗は大事だ」と言い続けています。なんらかのアクションの結果として成功できるに越したことはありませんが、たとえ失敗に終わっても、そこから気づきを得て成長につなげられるからです。なによりも避けるべきは、失敗を怖がるあまりに意思決定をせず停滞することなのです。止まっている状態からでは、なにも生まれません。
「取り返しがつくかどうか」という判断軸が重要なものであるのは確かですが、若い読者のみなさんは、その判断軸によって過度に不安がらず、積極的に素早く意思決定をして行動を起こすことを優先してください。
「機会損失」を意識して、デメリットを怖がりすぎない
そのことに通じるものとして、若いみなさんには「機会損失」について強く意識してほしいと思います。「本来得られるはずだった利益を逃すこと」を指すこの概念は、「目に見えづらいデメリット」と言ってもいいでしょう。
行動を起こさなければ、成功しない代わりになにも失わないと思うかもしれませんが、そうではないのです。たとえば、「自分にはまだ早い」「自信がない」と感じて新規プロジェクトへの参加を避けた結果、本来得られたはずの昇進やスキルアップのチャンスを逃してしまうかもしれません。これは、紛れもない「損失」です。
セールスパーソンを例に挙げれば、将来的に大きく成長するような若い企業と丁寧に付き合っておけば、のちに「起業直後からお世話になったから」と、いい関係性を続けることだってできるでしょう。
とはいえ、その企業が成長するかどうかを100%見抜くのは至難の業です。でも、その不確実性がある段階から時間や労力を投資するからこそ、大きなリターンとなるのです。これは、機会損失に着目するからこそ成し得ることと言えます。
「いまやっておかないと、将来的に損をすることとは?」――この視点をもって、日々取り組むことを決定していきましょう。デメリットを認識しながらもそのデメリットを必要以上に怖がらずに、「不確実性とともに前進する勇気」をもってください。
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清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。