相手と信頼関係を築くために必要な 「SBI」とは?

スーツ姿の若手社員3人のポートレート。中央の男性が前に立ち微笑み、背後に男女が並ぶチームのイメージ

「伝えたつもりなのに、なぜか伝わらない……」

新入社員や後輩への指導で、こんな悩みはありませんか? せっかくアドバイスをしたつもりでも、どこか納得していない様子。フィードバックをすると微妙な表情をされる。

じつはこの問題、「信頼関係が十分に築かれていない」ことが原因かもしれません。

そこで本記事では、信頼関係を深めながらフィードバックを伝える「SBI」について解説します。今日から使えるシンプルな方法で、部下との関係が劇的に変わる秘訣をお伝えします。

SBIを使ったフィードバック

SBIの3要素とは

SBIとは、Situation - Behavior - Impact(状況 ・行動・影響)の頭文字をとったもので、相手の行動を適切に観察し、効果的にフィードバックするためのフレームワークです。

Situation(状況)
いつ、どこで、誰が、何をしたのかなど、具体的な状況を客観的事実で説明します。

Behavior(行動)
観察された特定の行動を具体的に説明。主観的な解釈を含めず、事実のみを述べます。

Impact(影響)
当事者の行動が周囲に与えた影響を具体的に示します。

では、SBIを実際の現場でどう活かせるのか、筆者の体験をご紹介します。

オフィスラウンジで、長机を囲んだ4人がノートPCとマグカップを前に笑顔で打ち合わせしている

実践!筆者が体験したSBIの効果

後輩の早口プレゼンを改善した事例

先週のチーム会議での出来事です。信頼している後輩のBさんが、新規案件についてプレゼンをしました。スライドは丁寧に作り込まれ、内容も充実していましたが、緊張からか、話すスピードがどんどん速くなり、最後のほうは何を言っているのか聞き取れないほどでした。

以前の私なら、こんな風に伝えていたでしょう。

「Bさん、ちょっと早口だったかな。もう少しゆっくり話したほうがいいよ」 でも、これでは具体性がなく、Bさんも「どのくらいゆっくり?」「どの部分が早かった?」と疑問が残ってしまうのです。

SBIで伝えた結果

そこで、SBIを使って、情報を整理して伝えることにしました。

S(状況) 「今日の14時からのオンライン会議で、新規案件のプレゼンをしてくれたよね」

B(行動) 「スライドの構成は素晴らしかったんだけど、特に後半の5分間、話すスピードがかなり速くなっていて、重要なポイントが聞き取りづらかった」

I(影響) 「実際に先方から『最後のコスト削減の部分、もう1度説明してもらえる? 聞き逃してしまって』と質問があったよ。せっかくの良い提案なのに、伝わりきらなくてもったいと思った」

そして、伝えるだけでなく改善策もセットで提案しました。

「次回は、スライドごとに3秒間、時間をつくることを意識してみて。あと、プレゼン前に1度スマホで録音して聞き返すと、自分のペースが分かるからおすすめだよ」

このようにBさんに伝えてみると、こんな予想外の反応が返ってきました。

「えっ、私、そんなに早口だったんですね! 自分では全然気づいていませんでした。〇〇さんに聞き返されたのも、内容が難しいからだと思っていました。録音して確認する方法、さっそく試してみます!」

そして翌週のプレゼンでは、Bさんは見違えるような落ち着いた話し方でプレゼンをしていました。適度な間もとれていて、参加者全員が内容をしっかりと理解できたのです。*1

では、効果を実感したSBIの科学的根拠について見ていきましょう。

室内で握手を交わすビジネスパーソンの手元のクローズアップ

なぜSBIが効果的なのか? 科学的根拠

信頼関係がないと、どんな言葉も届かない

じつは、信頼関係が薄い相手からは、ポジティブなフィードバックさえ受け入れたくないという心理が働きます。

「もう少し声を大きく」と伝えても改善されない。何度言っても変わらないのは、こうした原因があるのです。

信頼関係のカギは「観察」

観察とは「相手の行動や言動を丁寧に注意深く見ること」です。私たちは「自分の考えを伝えること」に意識を向けがちですが、「相手を理解すること」に重点を置くことで、信頼関係を築いているのです。*2 

専門家が推奨するSBIモデル

立教大学経営学部教授で「フィードバック入門」の著書である中原淳教授の研究によると、SBIモデルには以下の効果があることが実証されています。*3

1.  フィードバックする側の不安が軽減される
具体的な事実に基づいて話すため、「嫌われるかも」という不安が減る

2.  受ける側の防御的態度が和らぐ
客観的事実を示されるため、「攻撃された」と感じにくい

3.  改善行動につながりやすい
何をどう変えればよいのかが明確なため、行動に移しやすい

では、これらの根拠を踏まえて、現場で “今日から” 使えるSBIモデル実践のコツを見ていきましょう。

水辺のベンチでタンブラーを手に笑い合うスーツ姿の若手男性2人

今日から使える!SBIモデル実践のコツ

実践の4ステップ

STEP1 まずは観察から始める
SBIモデルを使うには、日頃から相手の行動を観察する習慣が必要です。ただし、監視ではありません。「相手を理解したい」という気持ちで見ることが大切です。

観察のポイント

  • よい行動も悪い行動も両方見る
  • 結果だけでなくプロセスも見る
  • 本人の表情や様子も含めて観察する

STEP2 事実と解釈を分ける
これが最も重要なポイントです。

  • 事実  会議で一度も発言しなかった
  • 解釈  発言することに消極的だった、緊張していた可能性

フィードバックでは「事実」のみを伝えます。解釈は相手と一緒に考えるものです。

STEP3 ポジティブな面も忘れない
SBIモデルは、改善点を伝えるだけでなく、よい行動をほめるときにも使います。

「今日の顧客対応で(S)、相手の話を最後まで聞いてから提案していたね(B)。お客様が『話をちゃんと聞いてもらえて嬉しかった』と言っていたよ(I)」

このように具体的にほめることで、相手は「何がよかったのか」を理解し、その行動を継続できます。

STEP4 タイミングを大切に
フィードバックは、できるだけ早いタイミングで行いましょう。時間が経つと、相手も状況を忘れてしまいます。ただし、感情的になっているときは避け、冷静になってから伝えることも大切です。

よくある失敗パターンと対処法

失敗1 自分の感情を優先する
「困った」「イライラした」と自分の感情を言葉にするのは適切ではありません。チームや顧客、業務にどんな影響があったのか、事実を客観的に伝えましょう。

失敗2 1度に多くのことを伝えすぎる
1度のフィードバックで扱うのは1 〜 2個の行動までにしましょう。多すぎると相手が混乱してしまいます。

失敗3 改善策を押し付ける
状況を伝えたあとは、「どうすればいいと思う?」と相手に考えさせることも大切です。自ら考えた改善策のほうが、実行される可能性が高くなります。

最初は慣れないかもしれませんが、「状況・行動・影響」3つを意識するだけで、フィードバックの質は確実に変わります。そして何より、相手との信頼関係が深まっていくことを実感できるはずです。

***

今回は、相手とスムーズに信頼関係を築き、効果的なフィードバックを行える「SBI」をご紹介しました。ぜひ、本記事を参考に、明日からのコミュニケーションで活用し、より良い人間関係を築いていきましょう。

【ライタープロフィール】
橋本麻理香

大学では経営学を専攻。13年間の演劇経験から非言語コミュニケーションの知見があり、仕事での信頼関係の構築に役立てている。思考法や勉強法への関心が高く、最近はシステム思考を取り入れ、多角的な視点で仕事や勉強における課題を根本から解決している。

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    「STUDY SMART」をコンセプトに、学びをもっと合理的でクールなものにできるよう活動する教育ベンチャー。当サイトをはじめ、英語のパーソナルトレーニング「ENGLISH COMPANY」や、英語の自習型コーチングサービス「STRAIL」を運営。
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