あなたのまわりにも、「図々しい」「自分勝手だな」「距離感が近すぎる」などと感じる人がひとりやふたりはいるはずです。彼ら彼女らは、心の境界線を突破してくる「バウンダリーバスター（境界線を壊す人）」かもしれません。著書『人間関係に「線を引く」レッスン 人生がラクになる「バウンダリー」の考え方』（ディスカヴァー・トゥエンティワン）を上梓した精神科医の藤野智哉先生に、バウンダリーバスターのタイプとそれぞれの対処法を解説してもらいました。
構成／岩川悟 取材・文／清家茂樹
【プロフィール】
藤野智哉（ふじの・ともや）
1991年生まれ、愛知県出身。精神科医、産業医、公認心理師。秋田大学医学部卒業。幼少期に罹患した川崎病が原因で心臓に冠動脈瘤という障害が残り、現在も治療を続ける。障害とともに生きることで学んできた考え方と精神科医としての知見を発信しており、メディアへの出演も多数。精神科医勤務と医療刑務所の医師を務めるかたわら、著述業にも精力的に取り組む。シリーズ累計７万部突破の『「誰かのため」に生きすぎない』『「そのままの自分」を生きてみる』（ともにディスカヴァー・トゥエンティワン）のほか、『頑張れない日の休み方レッスン』（ワニブックス）、『子どもの折れない心の育て方』（世界文化社）、『不機嫌を飼い慣らそう』（主婦の友社）、『「あなたの居場所」はここにある』（徳間書店）など著書多数。
「支配者タイプ」にはしっかりと自分の意思を伝える
人間関係を良好な方向に導くための重要な要素に、心理学で「バウンダリー」と呼ばれる概念があります。これは、「自分と他者を区別する心理的な境界線」のことで、この境界線が曖昧だと、不要な仕事を押しつけられたり、逆に他人の領域に踏み込みハラスメントにつながったりと、人間関係の問題が生じてしまうのです（『上司や同僚に振り回されない！ 成果を出す人が身につけている「バウンダリー思考」』参照）。
しかし、いくら自分自身ではバウンダリーを意識していても、相手の側から自分の領域にずかずかと入ってくる人もいます。そういう人を、私は「バウンダリーバスター（境界線を壊す人）」と呼んでいます。ただ、ひとことでバウンダリーバスターと言ってもいくつかのタイプがあり、主に以下のような4タイプに分類できます。
- 支配者タイプ
- バウンダリーに気づいていないタイプ
- 依存型タイプ
- おせっかいタイプ
それぞれの特徴とあわせて、その対処法を解説していきましょう。「1. 支配者タイプ」は、「ここからは相手の領域だ」「こういうことをしたら相手は嫌がる」とわかったうえで、あえて踏み込んでくるタイプであり、上司がこのタイプだとかなり厄介です。「部下をコントロールしたほうが便利だ」と考えて自分の権利を強く主張し、出世など自分のエゴのために部下を利用しようとします。
こういうタイプの人から怒鳴られたような場合には、「お叱りの内容は真摯に受け止め反省しますが、怒鳴るという行為に関してはやめてほしいです」のように、きちんと自分の意思を伝えなければなりません。そうしないと、支配者タイプの人は意図的に侵略を続けるからです。もしそれでも改善されないのなら、社内のコンプライアンス部門や人事部に相談してください。
「バウンダリー」の存在とその重要性について教える
一方、そもそも「2. バウンダリーに気づいていないタイプ」も存在します。自分と相手との心理的距離感を認識するのが苦手で、悪気なくバウンダリーを越えてくるような人です。
こういう人はバウンダリーの存在を知らないだけですから、対処法は比較的簡単です。バウンダリーというものが存在すること、それを侵略されることは大きなストレスを生むこと、バウンダリーを守ることでお互いの関係はいい方向に向かうといったことを伝えます。そのうえで、「私はこういうことを大事にしているから、こういうことはしてほしくない」のように、「ここからは私の領域ですよ」と「立て看板」を立てれば、「え、そうだったの？」「もっと早く言ってよ」と納得してくれることもよく見られます。
「3. 依存型タイプ」は、相手の罪悪感を引き出して被害者ぶるような人です。支配者タイプのように高圧的に相手をコントロールしようとするわけではありませんが、「あなたがこれをしてくれないと、私がこんな困った状況に陥ってしまう」、つまり「あなたがいないと駄目なんです」といった具合に相手に依存し、利用しようとします。
依存型タイプに対しても、支配者タイプに対するのと同じように自分の意思をきちんと伝えなければなりません。加えて、このタイプはこちらに依存をしているわけですから、「そうするのは長い目で見たときにあなた自身のためにならない」というように説得する手もあります。また、このタイプの人とは共依存に陥りがちですが、彼ら彼女らは「これ以上搾取できない」とわかると思いのほかあっさりと離れ、また別の依存できる対象に依存先を移していきます。
自分を大切にしてくれない人を大切にする必要があるか
最後の「4. おせっかいタイプ」は、たとえば「あなたのためにもこういう勉強をしたほうがいい」「その仕事はこうしたほうが成果につながるから、私も手伝ってあげる」というように、自分の「べき」を押しつけてくるような人です。バウンダリーを越えられた側からすると、「余計なことをしないでほしい」と、文字通りおせっかいでしかありません。
しかし、このタイプの人は「よかれ」と思ってそうしていますから、そのまま「おせっかいだ」とだけ伝えてもなかなか納得してくれないのです。ですから、「ご提案はありがたいのですが」などとクッション言葉を挟んだうえで、「でも、私はこうします」というように、自分を主語としたいわゆる「Iメッセージ」で自らの考えをしっかりと伝える必要があります。
しかし、このようにそれぞれのタイプに合わせて対処をしてもなおバウンダリーを越えてくる人もいるのが実情です。その際に考えてほしいのは、「自分を大切にしてくれない人を大切にする必要があるのか？」ということです。
バウンダリーを引くことは、「お互いがお互いの大切にしたい領域をきちんと認識し、気持ちよく一緒に長く付き合っていくための作業」です。でも、自分を大切にしてくれない人とは、気持ちよく付き合えませんよね？ 仕事の兼ね合いもあり関係を完全に断つことはできないかもしれませんが、そういう人に対しては仕事のうえで最低限必要なやり取りにとどめるなど、心理的距離を広げることを考えてもいいでしょう。
【藤野智哉先生 ほかのインタビュー記事はこちら】
上司や同僚に振り回されない！ 成果を出す人が身につけている「バウンダリー思考」
「頼まれ仕事」にNOを言える人は強い。ビジネスを円滑にする“クッション言葉”の力
清家茂樹（せいけ・しげき）
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
