うまくいかないのは環境のせい? 成長を阻む『自己奉仕バイアス』との付き合い方

自己奉仕バイアスが働いているビジネスパーソン

このような思考パターンに心当たりはありませんか?

 
 

「上司に評価されたのは、成果をきちんと出したから」
「評価されなかったのは、上司が見る目ないから」

 
 

「バズったのはセンスがよかったから」
「伸びなかったのはアルゴリズムのせい」

仕事に真剣に向き合う人ほど、成果へのプライドも強くなる傾向があります。そのぶん、失敗や批判を素直に受け止めるのは簡単ではありません。

こうしたとき、私たちの脳は自分を守る方向へと解釈を傾けてしまいます。

  • 「悪かったのは自分ではない」
  • 「うまくいかなかったのは環境のせい」

──そんな思考に、気づかないうちに引っ張られてしまうのです。

この心理的な働きは「自己奉仕バイアス」と呼ばれます。自尊心を守ってくれる反面、放置すると、成長や信頼関係を損なうリスクがあります。

本記事では、自己奉仕バイアスのメリット・デメリットや、このバイアスと向き合いながら、健やかに成長するためのヒントをご紹介します。

「守る思考」だけで終わらせず、「伸ばす思考」へ──自分の内側にある成長の芽を、見つけにいきましょう。

自己奉仕バイアスのメリット・デメリット

自己奉仕バイアスとは、以下のように考えてしまう、私たちの心のクセのことです。

  • 成功したとき⇒「自分の努力や能力のおかげ」
  • 失敗したとき⇒「他人や環境のせい」

このクセには、いい面と、悪い面があります。

自己奉仕バイアスのネガティブ面とポジティブ面を表したイメージ

ポジティブ面:自己肯定感を保てる

認知心理学者の栗山直子氏によれば、自己奉仕バイアスには「防衛機制として働く面」があります。つまり、自分の心を守ってくれるのです。*1

たとえば、上司から厳しいフィードバックを受けたとき、「自分が悪い、自分がダメなんだ」とばかり考えていたら、精神的なダメージを受けてしまいます。

しかし、「上司の指摘はちょっと理不尽だったよね」と考えられたら、ひどく落ち込むことはないでしょう。

このように自己奉仕バイアスは、自己肯定感を保つためには有効だとされています。*1

ネガティブ面:成長や改善の機会を見失ってしまう

しかし、その一方で、自己奉仕バイアスが過剰に働くと、私たちの成長を妨げてしまう可能性があります。

たとえば営業目標を達成できなかったときに、「同僚が〇〇できなかったせい」「市場環境が悪かったせい」「競合他社の価格戦略のせい」と、外部要因ばかりを挙げていたとしましょう。

そうすれば、過度に落ち込むことはありませんが、自分のアプローチ手法や提案力を振り返る、貴重な機会も失ってしまいます。

また、そうなると建設的なフィードバックを受け入れず、改善のチャンスを自ら手放してしまうのではないでしょうか。

前出の栗山氏はこのように指摘します。

自分を客観視できないことで、現実の認識がゆがむこともあります。たとえば、自分のことを買いかぶり過ぎて失敗したり、失敗しても自分は悪くないと思っているので、同じことを繰り返したりし、改善にはつながりません。*1

また、グロービス経営大学院 教員、グロービス 出版局長の嶋田毅氏は、次のように述べています。

自己奉仕バイアスは、ビジネスの様々なシーンでも登場し、円滑なビジネス運営を妨げる原因となることがあります。*2

つまり、「自分を守る」はずのメカニズムが、「自分を育てるチャンス」「出世のチャンス」まで遠ざけてしまうことがあるのです。

建設的な振り返りのヒント

そこで今回は、自己奉仕バイアスに足を引っ張られないためのヒントとして、ふたつのシミュレーションをご用意しました。いずれもビジネスシーンでありがちなケースです。

 
 

ケース1:プレゼンでの失敗

【出来事】 新商品の社内プレゼンを任された。しっかり準備したつもりだったが反応はいまひとつ。質疑応答も盛り上がらず、上司からは「もっと説得力がほしかった」というフィードバックを受けた。

✖【自己奉仕バイアスの影響】 「会議の時間帯が悪かった」「そもそも、このメンバーに私のプレゼンは響かない」と考える。

📌【建設的な振り返り】 自分に問い直す。

  • 聴衆に合わせた伝え方ができていたか?
  • 想定問答の準備は十分だったか?
  • プレゼンの構成や資料の見せ方は工夫されていたか?

【結果】 単なる失敗が「次に活かせる学び」へと変わる。

 
 

ケース2:新人メンバーの不調

【出来事】 チームリーダーとして、新人メンバーの育成を担当。しかし数か月経っても成果が上がらず、本人も “ややモチベーションを失っている” 様子だった。

✖【自己奉仕バイアスの影響】 「本人の能力が足りない」「最近の若手は受け身だ」と考える。

📌【建設的な振り返り】 自分に問い直す。

  • 目標の共有や進捗確認の方法は適切だったか?
  • 相手の性格や学び方に合わせた指導ができていたか?
  • フィードバックの仕方は効果的だったか?

【結果】 自分自身の関与に目を向けることで、よりよいリーダーシップの在り方を模索できる。

このように、自己奉仕バイアスの悪影響を避けるためには、事実と向き合う視点と、自分に問いかける習慣がカギとなります。

「なぜうまくいかなかったのか?」ではなく、「自分に何ができたのか?」と問い直すことで、失敗はただの後悔ではなく、次の成長につながる “糧” へと変わっていくでしょう。

***
失敗や思い通りにいかないことが起きたとき、自己奉仕バイアスは私たちを守ってくれます。

しかし、いつも「環境のせい」「相手のせい」と原因を自分以外にばかり求めていては、学びや成長の機会を逃してしまいます。

自分のなかに目を向けることは、ときに勇気がいるものです。でも、その内省こそが次の一歩を生む原動力になります。

ですから、大切なのは「自己奉仕バイアスを完全になくすこと」ではなく、それに気づき、冷静に距離をとることです。そして、失敗やうまくいかなかった経験に対して、「自分に何ができたか?」「次はどうするか?」という視点をもつこと。

小さな気づきの積み重ねが、確かな成長につながっていくのではないでしょうか。

【ライタープロフィール】
こばやしまほ

大学では法学部で憲法・法政策論を専攻。2級FP技能検定に合格するなど、資格勉強の経験も豊富。損害保険会社での勤務を通じ、正確かつ迅速な対応を数多く求められた経験から、思考法やタイムマネジメントなどの効率的な仕事術に大変関心が高く、日々情報収集に努めている。

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