多忙なビジネスパーソンは、限られた時間で効率的に学ぶことが求められます。しかし、実際には「学んでも、しばらくすると内容を忘れてしまう」といった悩みに直面する人も多いでしょう。
そこで、本記事では、文字で書かれた情報と、イラストや図表などの視覚情報を組み合わせて学ぶデュアルコーディングをご紹介します。
デュアルコーディングは、学習内容の定着が促進されるだけなく、モチベーションの維持にも役立つ、社会人にはぴったりの勉強法です。詳しく説明しましょう。
なぜ「視覚情報」をあわせると覚えやすいのか?
もしかして、あなたには、次の例と似た経験があるのではないでしょうか。それは、デュアルコーディングの効果を無意識に体験した例と言えるかもしれません。
- 歴史の授業で「フランス革命」について学んでいたとき、「民衆がバスティーユ牢獄を襲撃する絵」がなんだか怖かった。でも、授業内容は意外と覚えられた気がする。
- ふと目にしたポスターに書かれた言葉は、知らない英単語だったが、その表情があまりにもおかしかったので印象に残り、その英単語を覚えることができた。
- 「〇〇料理のつくり方」を料理上手な友人が詳しく書いてくれたが、イマイチ流れをつかめなかった。しかし、そのレシピにビックリするほど適当な絵を付加してくれたら、不思議とすぐに理解できた。
デュアルコーディングとは、カナダの心理学者アラン・パイヴィオ氏が提唱した、情報を言語と視覚の2形式で脳にインプットし、記憶と理解を強化する方法です。*1
「本田式認知特性研究所」の立ち上げメンバーで、実業家、作家の粂原圭太郎氏によれば、デュアルコーディングが効果的なのは、「言葉」と「視覚情報」が脳内で別々に処理されるため、どちらか一方よりも記憶を呼び出しやすくなるからです。*1
この手法は、認知心理学者の Megan A. Sumeracki(旧 Megan Smith)氏らが2018年の論文で、「効果的な6つの学習戦略」のひとつとして紹介しました。同氏らも、「同じ情報を言葉と視覚の2形式で得ることは、思い出す手がかりが2つになる」と説明しています。*3
ちなみに Sumeracki 氏らは、デュアルコーディングで言葉を視覚的に表現する方法として、以下の方法を挙げています(カッコ内は筆者が補足)。*3
- インフォグラフィック(イラストや図、表などを用いて情報やデータを視覚的に整理したもの)
- タイムライン(出来事を時系列で示したもの。年表など)
- グラフィックオーガナイザー(情報を視覚的に整理し、関係性を示す図。マインドマップやコンセプトマップなど)
- 漫画
- 図表
そして、デュアルコーディングは以下の段取りで行なうといいます。参考書などを読む場合を想定し、3ステップにまとめてみました。*3
- 【ステップ1】:文字と視覚情報(絵、図表、グラフィック等)の比較
┗その視覚情報を、言葉はどのように表現しているか?
┗その言葉を、視覚情報はどのように表現しているか? - 【ステップ2】:オリジナルの視覚情報をつくる
┗まず、視覚情報を自分の言葉で説明。
┗今度は、文字情報にあわせて独自のビジュアルを作成。
┗そのビジュアルが、しっかりと文字情報を表しているか確認。 - 【ステップ3】:学習後の復習
┗参考書などを見ずに、内容を思いだしながら書き出す。
┗それに合わせて、視覚情報を描いてみる。
┗以上ができるようになるまで続ける。
では、現在資格勉強中の筆者も、デュアルコーディングに挑戦してみましょう。
「デュアルコーディング」をやってみた
今回筆者がデュアルコーディングで勉強した内容は、「イギリスにおける社会福祉の歴史」です。
【ステップ1】:まず、参考書の本文を読んだあと、挿入されている年表を確認。本文と年表を比較しながら、何度か読み込みました。
この過程で、年表に含まれていない情報も把握し、それをどう視覚化するかを検討しました。
【ステップ2】:次に、年表だけを見て、それを自分の言葉で説明。そのあとは文字情報をもとに、オリジナルの視覚情報を作成しました。
このような感じです。
作成のポイントは以下のとおり。
- 年表の形式をベースにしながら、マンガのコマふうに情報を整理
- 簡単なイラストを添えたり、ペンの色を変えたりして視覚的な強調を工夫
- 年表では省略されていた内容を追加し、より豊富な情報として整理
そうして、できあがったノートがこちらです。
年表の構造を活かしながら、自分にとって見やすく、かつ内容も豊富なオリジナルの視覚情報ができたと感じました。年表のみに頼らず、本文の情報もしっかりと盛り込んだからです。
そして、復習は後日、以下のように行ないました。
- 目を閉じて、学んだ内容を説明できるか試す。
→ 作成したノートを思い出しながら、文字情報を書き出す。 - その文字情報に合わせて、視覚情報も再現できるか試す。
→既存および独自のビジュアルを思い出しつつ再構成。 - 可能なら、視覚情報と文字情報を組み合わせて記憶から再現する。
3つめの「すべて再現する過程」では、一部の情報はスムーズに想起できたものの、抜け落ちた部分もありました。でも、これで次回補強する箇所が決定できたと思います。
「デュアルコーディング」をやってみた感想
以前の筆者は、年表や図は参考程度と思い、さらっと目を通して終わりにしていました。ですが今回は、本文と年表を照らし合わせながらじっくりと読んだので、早い段階で理解を深められた気がします。
さらに、自分で描いたオリジナルの視覚情報があると、記憶を引き出しやすくなることも実感。たとえば「エリザベス救貧法」の内容を思い出そうとすると、「左上のコマに書いたな」「人のイラストを3つ描いたな」などとビジュアルが思い浮かび、それをきっかけに内容を引き出すことができました。
ただ、「絵や図を描くのが苦手だから私には無理」などと思ってしまう方もいるでしょう。でも、そこは問題ありません。筆者が行なったように、コマのなかに文字を書き込んだり、文字の代わりに記号(矢印や〇など)を使ったりすることで、十分な視覚情報を描けるからです。
「きれいに描くこと」よりも「文章とは異なるアプローチで情報を表す」という意識で描けば、デュアルコーディングが成功するはずです。
デュアルコーディングを取り入れる際の注意点
なお、前出の粂原氏は、文字情報や視覚情報の「どちらかに偏るのではなく、バランスよく情報を取り込む」ことの重要性を伝えています。*1
ついビジュアル化に夢中になり、視覚情報ばかりに偏ってしまわないよう、文字とのバランスも考慮して行ないましょう。
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単調な文字情報だけを見るよりも、イラストや図、年表といった視覚情報をセットで見て学習するほうが、楽しさも感じられます。そのため、学習のモチベーションが下がってしまったときにも、デュアルコーディングはおすすめです。ぜひ、試してみてください。
*1: ダイヤモンド・オンライン|記憶が強化される勉強法「デュアルコーディング」
*2: SpringerOpen|Cognitive Research: Principles and Implications|Teaching the science of learning
*3: The Learning Scientists|Learn How To Study Using... Dual Coding
こばやしまほ
大学では法学部で憲法・法政策論を専攻。2級FP技能検定に合格するなど、資格勉強の経験も豊富。損害保険会社での勤務を通じ、正確かつ迅速な対応を数多く求められた経験から、思考法やタイムマネジメントなどの効率的な仕事術に大変関心が高く、日々情報収集に努めている。