「毎日継続して勉強しているのに、想定よりも成果が出ない……」
「資格試験日までに、計画していた勉強量を消化できないかもしれない……」
努力をしても空回り――そんな現実に直面していませんか? それは「頑張らなくてもいい」ポイントを見過ごしているせいかも。
今回の記事では、勉強効率を上げたい人が “減らしても大丈夫” なことをご紹介します。いままでやりすぎていた “あの割合” を減らして、勉強の効率化に役立ててみてください。
1. 復習の割合を減らそう
記憶に定着させようと、「テキストを何度でも読み返す」というやり方で復習をしていませんか? もし、テキストの再読に時間がかかり、スケジュールが圧迫されているのであれば、「間隔を置く」ことで復習回数を減らしてみてはいかがでしょうか。
米国の心理学者マーク・マクダニエル氏らによる共著『使える脳の鍛え方 成功する学習の科学』では、テキストを繰り返し読む方法は非効率だと指摘されています。その理由として挙げられている問題は、以下の3つ。
- 時間がかかる
- 記憶を長く保持できない
- 読み慣れると「理解した」と錯覚してしまう
マクダニエル氏を含む研究者らが2009年に発表した研究論文によると、テキストの再読は効果が限定的とのこと。
研究では、被験者を以下2グループに分けて試験の成績を比較しました。
- A. 教材を一度読んだあと、すぐ再読するグループ
- B. 教材を一度しか読まないグループ
その結果、すぐ試験を受けた場合のみ、Aの再読グループがわずかに成績がよかったものの、期間を置いて試験を受けてみると、AもBも成績は変わらなかったのだそう。
つまり、“繰り返し読む” 復習法では、テスト直前に詰め込む場合のみ効果が現れ、長期的に記憶する効果は見込めないということ。
しかし、じつは例外があります。この研究では、数日置いてから再読するグループについても調査しました。すると、そのグループの被験者は好成績を出し、再読の効果が示されたそうなのです。
参考書などを再読して復習するなら、「回数を増やす」よりも「日数を置く」ことがポイントと言えるでしょう。
では具体的に、復習の間隔はどれぐらいの日数を空けるとよいのでしょう。以下に、脳科学者らが提案する復習頻度と復習間隔をご紹介します。
おすすめ1:復習回数を「4回」に減らす
東京大学教授で脳研究者の池谷裕二氏は、個人差はあるものの「復習は4回」あれば十分だとしています。池谷氏いわく、記憶の保存期間は1か月程度なので、1か月以内に復習を行なうのがポイントだそう。
<理想的な復習スケジュール>
- 復習1回め……学習した翌日
- 復習2回め……1回めから1週間後
- 復習3回め……2回めから2週間後
- 復習4回め……3回めからさらに1か月後
おすすめ2:復習回数を「3回」に減らす
公立諏訪東京理科大学教授で脳科学者の篠原菊紀氏がすすめる復習回数は、「1日後・1週間後・1か月後」の3回。このやり方を、Day・Week・Monthの頭文字をとって「DWM法」と呼ぶそうです。
<DWM法による復習スケジュール>
- 復習1回め……学習した翌日
- 復習2回め……1回めから6日空けて1週間後
- 復習3回め……2回めから3週間空けて1か月後
たとえば、いままで教科書を10回読むというスタイルで復習していたのなら、日数を置くことを意識したうえで、回数を3割、4割に留めてみませんか? 復習の回数を減らせば、効率よく勉強を進められるはずですよ。
2. インプットの割合を減らそう
「まだ理解もできていないし、覚えてもいないから……」と、参考書の読み込みに力を入れ続ける――そんなインプットばかりの勉強を、いつまでもやっていませんか?
資格試験対策をオンラインで提供する「資格スクエア」の創業者・鬼頭政人氏は、「インプットの比率が高い人ほど、合格から遠ざかる」と警鐘を鳴らします。なぜなら、勉強とは “問題を解いて間違えること” だから。
間違えて初めて、本当の理解にたどり着けるということ。つまり、インプットの比率を減らし、アウトプットの比率を高めなければ、意味のある勉強にならないのです。
ただし、インプットの比率を減らしたからといって、インプットの量が減るというわけではありません。鬼頭氏によると、アウトプットを繰り返すことで、おのずとインプットの量が増えるのだそう。
問題を解いて間違えれば、「なぜこの答えになるのだろう?」「〇〇という用語は知らなかったな」と、調べることが増えますよね。このように、アウトプットの過程には、「記憶を引き出す」だけでなく、「知らなかったことを知る」という作業も含まれているのです。
さらに脳科学の観点からも、勉強においてアウトプットは必須。
前出の池谷氏は、「記憶力は “出力” をしないと鍛えられない」と述べます。出力とは、問題を解いたり人に説明したりして “思い出す” こと。つまり、効率よく記憶するには、アウトプット重視で勉強することが重要なのです。
では、インプットの割合をどれくらい減らせばいいのでしょうか。
鬼頭氏は、資格試験に向けて勉強する場合、その勉強期間全体で平均して「インプット:アウトプット=1:3」になるのが理想だとしています。
ただし、初期と試験直前期では、理想的な比率は異なるのだとか。試験までの期間を4つのクールに分け、各クールごとの比率を以下にするといいそうです。
- 第1クール → インプット7:アウトプット3
- 第2クール → インプット5:アウトプット5
- 第3クール → インプット3:アウトプット7
- 第4クール → インプット2:アウトプット8
勉強の初期には参考書を重点的に読むことも欠かせませんが、上記を参考に、徐々に問題集を解くなどのアウトプットを増やしてみてください。アウトプットの比率を高めていけば、学習効率は上がりますよ。
3. 一度に集中する時間の割合を減らそう
「せっかくとれた勉強時間。一気に集中しよう!」そう決めて、休憩をとることさえ忘れてはいませんか? じつは、一度に長時間集中するよりも、短時間集中を繰り返したほうが効率は上がるのです。
脳科学では、「集中力が下がるひとつの目安は40分」と言われているそう。
その根拠は、集中しているときに脳の前頭葉から出る「ガンマ波」の高さです。池谷氏によれば、集中力が高いとガンマ波が高い一方、40分が経過すると、急激にガンマ波は下がっていくのだとか。
しかし、休憩をとると、集中力は回復します。池谷氏いわく、ガンマ波の特徴は「初頭効果が高く、何度も出る」こと。つまり、気が散るようになったら休憩を挟み、再び勉強を開始すれば、集中力が持続すると言えるのです。
また、東京外国語大学教授で教育学者の岡田昭人氏は、学習には適宜「クールダウン」が必要と述べます。
勉強しているあいだ、脳内では神経細胞どうしが強固につながり、思考活動が活発化します。しかし、神経細胞の数には限りがあることから、知識を詰め込み続けるといずれオーバーヒートしてしまうのだそう。結果、それ以上情報を記憶するのが難しくなるというのです。
そこで岡田氏は、短時間の集中と休憩を繰り返す「ポモドーロ・テクニック」を取り入れることを推奨しています。
- 25分勉強したら5分の休憩をとる
- 1のセットを4回繰り返す
- 4回繰り返したら、15~30分の休憩をとる
- 1~3のサイクルを繰り返す
このプロセスで勉強する習慣が身につけば、こなせる勉強量や、勉強にかかる時間を把握できるようにもなるそうです。
なお、岡田氏によれば、再び作業に集中するには「休憩は5分」という短さが適切。長い休憩ではダラけてしまうためです。
いままで2時間も3時間も勉強し続けていたのなら、25分を目安に区切ってみてください。頭を休めながら高い集中力を持続させましょう。
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学習効率を上げるためには、“力を抜いてもいいもの” を押さえるのが鍵。今回の記事を参考に、いまよりも “余裕のある努力” をしませんか?
(参考)
ピーター・ブラウン著, ヘンリー・ローディガー著, マーク・マクダニエル著, 依田卓巳訳(2016),『使える脳の鍛え方 成功する学習の科学』, NTT出版.
ScienceDirect|The limited benefits of rereading educational texts
プレジデントオンライン|「復習4回」で脳をダマすことができる
東洋経済オンライン|脳科学者が推奨!成績をアップする「簡単工夫」
東洋経済オンライン|「資格試験に落ち続ける人」がやりがちな勉強法
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Wedge ONLINE|記憶力を鍛えるのは入力じゃなくて出力です
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【ライタープロフィール】
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。