「好き・嫌い」で判断が狂う?感情ヒューリスティックの正体

「好き」「嫌い」を親指を立てたマークで表現した画像

「感情で動いて失敗したことがある」

「人間関係や仕事で冷静に判断したいのに、感情に流されてしまうことが多い」

そんなお悩みをもつ人は、感情ヒューリスティックが強いのかもしれません。

感情ヒューリスティックとは、「好き・嫌い」などの感情が意思決定の裏で大きな影響を与えていることです。

本記事では、感情が私たちの意思決定にどのように影響を与えるのか、そしてその影響が強まるふたつの状況についてお伝えしていきます。

ぜひこの記事を参考に、感情に振り回されない対策をしてみてください。

きっと、あとで後悔しない冷静な判断ができるようになるはずです。

感情が合理的な判断を阻む

ちょっといい加減だけど馬が合う部下、仕事をきっちりこなすけど好きになれない部下。

仕事をどちらに任せようと考えたときに、前者に任せてしまう――このように、自分の感情に意思決定が左右されてしまった経験はないでしょうか。

その背景には、感情ヒューリスティックがあります。

感情ヒューリスティックとは、「人が『感情的な要素』で判断してしまい、そこに付随するメリットやリスクも感情によって判断してしまう傾向」のことだと説明するのは、東北大学特任教授の村田裕之氏。 *1

「ヒューリスティック(heuristic)」とは心理学用語で「経験則や先入観に基づく直感で素早く判断すること」であり、感情ヒューリスティックとは合理的な判断をすることを感情が阻んでしまうことなのです。 *1

先の例で言えば、馬が合う部下となら円滑なコミュニケーションをとりながら仕事を進めていけるメリットがあるでしょう。

しかしいくら馬が合うといっても、いい加減に仕事を進めてしまう部下であるなら業務に余計な手戻りが発生してしまうリスクがあるかもしれません。

つまり、感情を手がかりにした意思決定にはリスクがあるということを認識しておく必要があるのです。

以下に、「感情が意思決定にどのような影響を及ぼすのか」について、具体的事例を見ながら説明いたします。

にこにこマークのなかにある不機嫌マーク

判断が合理的であるか見極める必要性

感情が私たちの合理的判断を阻むということが明らかになった実験を紹介します。

感情ヒューリスティックを提唱した心理学者のポール・スロビック氏は、次のような実験を行ないました。

  1. 被験者に「水道水へのフッ素添加」「化学プラント」「食品の防腐剤」「自動車」などのテーマを提示し、それぞれに対して「好き・嫌い」を答えてもらう
  2. 各テーマのメリットとリスクを書き出してもらう

この実験の結果、好きと答えた対象にはメリットばかりを挙げ、嫌いと答えた対象にはリスクばかり挙げるといった傾向が現れたのです。 *2をまとめた

つまり、無意識のうちに感情というフィルターをとおして物事を解釈し、判断を歪めてしまっているということです。

ほかにも、私たちの日常には好き嫌いが意思決定に影響するシーンが多くあります。

たとえば次のような状況です。

  • 好きな先輩が困っていたら力になりたいと思うが、嫌いな先輩が困っていてもそうは思えない
  • 人間関係のトラブルに遭遇したときに、事実関係を確認せずに、自分が好印象を抱いている人の話のみを聞いて状況を判断してしまう
  • 仕事で使うガジェットを選ぶ際、デメリットを考えずに自分が贔屓にしているメーカーのものを購入する
  • 得意分野ばかり勉強を進めて、苦手分野は後回しにする

このように、好きか嫌いかが意思決定に影響するのです。

些細なことであっても一度立ち止まり、自分の判断が合理的かどうかを見極める必要性を感じていただけたのではないでしょうか。

見極めるようにカメラをじっと見つめるビジネスパーソン

時間的な余裕のなさが感情ヒューリスティックを強める

前出のスロビック氏が行なった実験から、私たちは時間に制約がある状況ほど「感情ヒューリスティック」により強く頼ってしまうことが明らかになっています。

先述の実験において、被験者を「時間制限あり」と「時間制限なし」のグループに分けたところ、時間制限がある場合はヒューリスティックの傾向が強まるという結果になったのです。*2を参考にした

これは「時間が限られており、問題に対し思慮する時間がない」ことで、脳が直感的な 感情に頼るからだと考えられています。*3

ビジネスシーンでも、会議や意思決定の場面で時間が限られているときほど、感情による判断の偏りが出やすくなるので注意が必要です。

時間に余裕がないことで感情ヒューリスティックが強まる例:

  • 忙しいときにクレーム対応の電話が入ったが、相手への嫌悪感から「どうせ難癖だ」と決めつけてしまったが、よく話しを聞くとこちら側に非があった
  • 時間がないなか部下の評価を決めていく際に、部下の能力ではなく、部下に対する印象で判断してしまう
  • 出勤に遅れそうで急いでいたところ、道をふさいでいた若者がいて「マナーがなってない」とイライラしたが、じつは具合が悪くて立ち止まっていただけだった

時間がないときほど冷静な判断が難しいと自覚することが大切です。

腕時計を見ながら焦る様子のビジネスパーソン

多過ぎる情報も感情ヒューリスティックを強める

なにかを比較検討する際に、情報が多すぎて選ぶのが面倒になった経験はありませんか?

商品の比較、社内の意思決定、日常のちょっとした選択――気づけば私たちは、あふれる情報のなかで判断に疲れきってしまっています。

このように「情報が多過ぎて十分に処理できない」ときも、感情ヒューリスティックの傾向が強まりやすいと前出の村田氏は述べています。*1

たとえば、次のような状況に思い当たる節はないでしょうか?

  • 社内資料が多すぎて読むのを諦め、発言力のある上司の意見にそのまま従う
  • 新しいサービスの比較検討に疲れて、「なんとなく好きだから」という印象で選んでしまう
  • 業界ニュースやネットの口コミを大量に見て混乱し、「このサービスは危なそう」と具体的な根拠もなく避けてしまう

本来であれば数値やファクトに基づいて冷静に比較・検討すべき場面でも、情報量が多すぎると脳が処理を諦め、印象に頼ってしまうのです。

この印象による決断こそが、感情ヒューリスティックが働いている瞬間。

合理的な判断をしているつもりでも、「たくさんあってよくわからないから、これでいいや」「なんとなく好みだし、これにしておこう」で決めてしまう――そんな場面が、日常のなかにひそんでいます。

どうすれば感情ヒューリスティックを防げる?

では、どうすれば感情ヒューリスティックを防ぎ冷静な判断をすることができるのでしょうか。

まずは「自分が感情に左右されていること」に気づくことが第一歩です。

そのうえで、感情ヒューリスティックを防ぐためには次の4つを意識するといい、と前出の村田氏はすすめています。

 

📌 感情ヒューリスティックを防ぐために

    1. 事実ベースで状況を見極めてから決断する
    2. 判断を急がない
    3. 情報過多を防ぐために、SNSから離れる時間をもつ
    4. 思考を手放す時間を確保する *1を参考にまとめた

つまり、余裕をもって冷静に事実を把握するように努め、情報に飲まれずに思考を整理することが大切なのです。

「自分は感情に左右されているのだ」という認識をもったうえで、冷静な判断をする意識をもちましょう。

余裕の笑顔のビジネスパーソン

***
「好き・嫌い」の感情や、これまで培った経験などからくる直感も重要。ですが、それに頼ることにはリスクがともないます。過度な感情ヒューリスティックを防ぎ、状況に応じたベストな判断ができるように対策していきましょう。

※引用の太字は編集部が施した

【ライタープロフィール】
澤田みのり

大学では数学を専攻。卒業後はSEとしてIT企業に勤務した。仕事のパフォーマンスアップに不可欠な身体の整え方に関心が高く、働きながらピラティスの国際資格と国際中医師の資格を取得。日々勉強を継続しており、勉強効率を上げるため、脳科学や記憶術についても積極的に学習中。

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