「心の理論」知っていますか? “相手の気持ちがわからない” を解決できる2つの意外な習慣。

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「Theory of Mind」「心の理論」を意味します。心の理論とは、相手の気持ちを推し量る機能のことです。社会的な交流をスムーズにするにあたって重要だと言われています。

「心の理論」は幼児・児童教育の場などで重要視されてきましたが、2000年代の中頃から、大人を対象とした研究も行なわれるようになったといいます 。「すぐ目先の利益に走ってしまう」「どうもコミュニケーションがうまくできない」といった悩みを抱える方は、「心の理論」の強化をおすすめします。ビジネスにおいても大いに役立つはずですよ。説明しましょう。

心の理論(Theory of Mind)について

哲学者のダニエル・デネット氏は、心の理論を持つにあたって、他者が間違った思い込みに従って行動することへの理解が必要だと説きました。

たとえば、Aさんがボールを「赤い箱」に入れて部屋を出たあと、Bさんがこっそりボールを「青い箱」に移したとします。そのあと戻ったAさんは、最初にどこを探すでしょう? Aさんはボールが移動されていることを知らないので、「赤い箱」を探すはずですよね。

しかし、心の理論の発達が遅れている人は、実際にボールが入っている「青い箱」と答えてしまいます。他者がどう考えるかではなく、自分が見たままの事実に従ってしまうのです。

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心の理論と「自制心の強化」

心の理論は「相手の気持ちを推し量る」以外に、「自制心の強化」「他人の利益を考慮する能力」にも関わっています。

以前より神経生物学では、脳の前頭前野が自制心を司ると考えられてきました。しかし、2016年10月19日付で『Science Advances』に掲載された研究によると、「将来のために今は我慢する自制心」を強化するのは、心の理論と密接な関係を持つ脳領域の「側頭頭頂接合部(以下TPJ)」なのだそう。

「将来のために今は我慢する自制心」とは、たとえば現時点で5千円をもらうか、数ヵ月後に1万円をもらうかのどちらかを選ぶ場合、数ヵ月間は我慢して多くもらうほうを選ぶ自制心のことです。

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心の理論と「他人の利益考慮」

また、心の理論は「他人の利益を考慮する能力」にも関わっているようです。理研CBSの中原裕之氏らが複数の報酬ルールで実験を行なったところ、以下のような脳活動が見られたそう(2019年4月18日『Journal of Neuroscience』に掲載)。

  • 自分へのボーナスが提示されると→左背外側前頭前野に脳活動
  • 他者へのボーナスが提示されると→左背外側前頭前野に加えて右TPJにも脳活動

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「心の理論」に大きな影響を及ぼすもの

「相手の気持ちを推し量る」ことや、「自制心」「他人の利益を考慮する能力」は、社会やビジネスにおいても重要です。これらにかかわる心の理論は、どう鍛えたらいいでしょう?

心の理論を鍛えるには、「実行機能」に着目するとよいようです。実行機能とは、不要な情報をふるいにかけて決定を行なう能力のこと。

長崎大学・前原由喜夫准教授による2015年の論文「心の理論の生涯発達における実行機能の役割」によると、大人が「心の理論」を使用している最中、脳の実行機能などが重要な働きをしている可能性があるそう。

前原准教授は、高齢者の心の理論が低下していることには、実行機能の影響が大きい可能性があると推測。高齢者の社会的能力の低下は、実行機能を介した「心の理論」の低下が一因かもしれないとのことです。

そして前原准教授は、 「心の理論」向上に有効なものとして実行機能トレーニング法の探究をすることは、決して無駄ではないとしています。心の理論を鍛えたいなら、実行機能のトレーニングをするのが有効なようです。

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実行機能を強化する習慣とは?

では、実行機能のトレーニングとして何をすればよいのでしょう? まずひとつは、外国語の学習です。

留学先から日本に帰ってきた直後、たとえば「登録」「電子レンジ」といった簡単な日本語が出て来ず、「register」「microwave」と英語で言ってしまうような経験はありませんか? 心理学者のジュディス・クロール氏によれば「外国語の環境にどっぷりつかっていると、母国語を見つけるのに一苦労します」とのこと。言語のスイッチをうまく切り替えられず、1つ1つの単語に対して「英語では何というんだったか」「日本語では何というんだったか」と判断を下している状態です。

そして、「話す単語1つひとつを選択するのは、脳が重量挙げをしているようなもの」なのだそう。脳に負荷がかかるので、実行機能の向上につながるとのことです。

また、東京学芸大学教育学部准教授・関口貴裕氏の論文によれば、子どもたちが学校でマインドフルネス・トレー ニングを行なったところ、実行機能の向上などが見られたと、海外で多数報告されているそうです。

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したがって、実行機能を鍛えて、「心の理論」の強化が期待できる活動は以下の2つ。

  • 外国語の習得
  • マインドフルネス

よろしければ、ぜひトライしてくださいね!

***
アメリカの哲学者たちは「心の理論(Theory of Mind)」を、哲学と科学をつなぐパイプとして考えてきたそうです。ビジネスにも役立てていきましょう。

(参考)
前原由喜夫(2015),「心の理論の生涯発達における実行機能の役割」心理学評論, 心理学評論刊行会, Vol.58, No.1, pp.93-109.
関口貴裕(2015),「マインドフルネス・トレーニングは実行機能の何を変えるのか:―田中・杉浦論文へのコメント―」, 心理学評論, 心理学評論刊行会, Vol.58, No.1, pp.153-159.
Science Advances|Brain stimulation reveals crucial role of overcoming self-centeredness in self-control
認知機能の見える化プロジェクト|認知機能とは|社会的認知機能
AASJホームページ|10月30日:自己中心的な衝動を乗り越える(10月19日号Science Advances掲載論文)
AASJホームページ|10月10日 Theory of Mind (10月7日号Science掲載論文)
理化学研究所|他人の利益を考慮する意思決定の脳回路
WIRED.jp|バイリンガルな人の「脳の構造」についての最新報告
Wikipedia|心の理論

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