朝、生成AIに仕事のプランを立ててもらい、夕方にはAIにまとめてもらったレポートを提出する——。
たしかに便利な毎日ですが、ふと「これ、自分で考えてるって言えるのかな」と不安になる瞬間はありませんか?
ビジネスパーソンがAI時代を生き抜くには、「自分で考える力」を磨くことが欠かせません。しかしAIに頼りっぱなしでいると、私たちの考える力は静かに衰えていきます。
では、どうすれば「自分で考える力」をキープし続けることができるのでしょうか?
この記事では、今日から実践できる「自分で考える筋肉」の鍛え方を、具体的なアクションとともに紹介します。
AIに任せるだけでは危ない——「考えない人」にならないために
いま、私たちのまわりにはAIが急速に浸透してきています。
情報収集は一瞬でできるようになり、チャットボットに相談すればなんでも答えてもらえるようになりました。文章や資料のたたき台も数秒で生成できます。
仕事も学びも、かつてないほど効率的にできる時代に突入したのです。
しかし、その便利さに身を委ねるほど、私たちは「考える」ことをしなくなります。
脳がムダなエネルギー消費を避け、できるだけ楽をしようとする傾向があることは知っている方も多いでしょう。
AIによって「それっぽい」答えを目の前に示されると、私たちは深く考えず「そういうものか」と受け入れてしまいます。
そのほうが、「考える」というエネルギーを消費する行動をしなくてすむからです。
とはいえ、考える力が失われていくのは困りますよね。
特にビジネスパーソンは、複雑な状況に立ち向かい、まだ見ぬ問いを立て、新しい価値を生み出す能力——つまり「考える力」が求められます。
AIに使われるのではなく、AIを使いこなして社会に価値を生み出すためにも、「自分で考える筋肉」を鍛えることが重要なのです。
たとえば、生成AIが出した回答に対して、「なぜこの答えが導かれたのか?」「ほかの選択肢はないか?」「この背景にある前提は正しいか?」と問い続けること。
あるいは、複数のツールから情報を引き出し、それらを自分なりに組み合わせ、新しい視点をつくり出すことなどです。
「考える力」を意識的に鍛え続ける人だけが、AI時代でも独自の存在感を持ち、キャリアを切り拓いていけるのです。
では、具体的にどうすれば「自分で考える筋肉」を鍛えることができるのでしょうか?
次章では、いまからできる具体的なアクションを紹介します。
「自分で考える筋肉」を鍛えるための3つの習慣
ここからは、「自分で考える筋肉」を鍛えるため、今日から取り入れたい3つの習慣を紹介します。意識的に取り組むことで、思考力を鍛えることができますよ。
習慣1:情報を見極め、自分で判断する
AIがなんでも瞬時に答えを示してくれますが、それらをすべて鵜呑みにするのは危険です。
大切なのは、「この情報は本当に信頼できるか?」「自分にとって必要か?」を見極める力です。
「確証バイアス」という言葉を聞いたことはありませんか?
これは、「自分でも気づかぬ間に、自らの思い込みや仮説に合う証拠を選び取り、優先する」偏った認知特性のこと。*1
人間の脳は、つい自分に都合のいい情報ばかりを信じてしまう傾向があるのです。
AIは、こちらに寄り添った回答を提示しやすいからこそ、意識的に「出典を確かめる」「意図を読む」習慣をもつことが不可欠なのです。
◆いますぐできるアクション
- データや統計を見たとき、「誰が、どの目的で出した数字か?」をチェックするクセをつける。
- SNSやニュースを読んだとき、「この情報は自分にとって必要か?」と一歩引いて考えてみる。
習慣2:ケア・共感・ユーモアを重視する
どれだけAIが高度になっても、他者を思いやる心、共感する力、ユーモアを楽しむ感性は人間だけがもつ特別な力です。
これらの力を育てることで、本当に届けたい人にフィットするビジネスアイデアを思いついたり、顧客とのあいだに確かな信頼関係を築いたりすることができます。
特に「エンパシー(異なる価値観の相手であっても、その立場に立って、気持ちや状況を理解し、共感する能力)」は、近年ビジネスで重視されています。
学校経営者として、世界の起業家たちと仕事をしている、スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長の星友啓氏も「エンパシーの効いた思いやりのビジネススタイルが、弱肉強食のシリコンバレーを生き抜く作法の根本にあった」と語っています。*2
AIの時代だからこそ、人との関わりの土台となる感性を重視することが大切なのです。
◆いますぐできるアクション
- 同僚やチームメンバーに「最近どう?」と一言声をかけ、小さな変化に気づくようにする。
- ミスやハプニングが起きたとき、責めるのではなく、ユーモアを交えて場を和ませることを試みる。
習慣3:調べる前に、自分の意見を必ずもつ
なにかを見終わったとき、SNSでほかの人の感想を眺めて「自分もそう思った」と満足してしまったことはありませんか?
近年、自分自身の意見を確認する前に、誰かの意見に自分を投影して済ませることが増えてきています。
さらにAIで感想文や論文を代わりに書かせることができるようになり、自分の意見を表現することも省略されるようになってきました。
ですが、「本当の自分はどう感じているのか」を確認すること、そしてそれを「自分の言葉で表現すること」は、ビジネスパーソンとして絶対に必要な力です。
自己認識に詳しい、組織心理学者のターシャ・ユーリック氏は、自分について明確に認識している人は以下のような特徴があると述べています。*3
- 自信がある
- 創造的
- 適切な判断を下せる
- 強い人間関係を築き、コミュニケーション能力が高い
- 嘘をついたり、騙したり、盗んだりする可能性が低い
- 仕事のパフォーマンスが優れ、昇進しやすい
- 有能なリーダーであり、その部下の満足度は高く、会社の収益向上に貢献する *3
人の言葉に自分を委ねるばかりでは、自分自身の輪郭が曖昧になってしまいます。
自分の意見を確認し、それを表現する訓練をすることで、自己認識がはっきりし、仕事にもいい影響を与えるのです。
◆いますぐできるアクション
- 本を読み終えたら、3行で「自分の意見・感想」をメモする。
- 会議やディスカッション後に、「自分ならどう提案したか」を振り返る習慣をつける。
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AIに頼るだけでは、自分で考える力は鈍ってしまいます。
この記事で紹介した実践方法を取り入れ、AI時代でも独自の価値を発揮できる人材を目指しましょう。
*1 心理学用語集サイコタム|確証バイアス
*2 ダイヤモンド・オンライン弱肉強食のアメリカで「モテるCEO」がいちばん大切にしている成功の秘訣
*3 ハーバード・ビジネス・レビュー|「マインドマップ」で頭の中を見える化する
*4 マインドマップの学校|リーダーに不可欠な「自己認識力」を高める3つの視点
柴田香織
大学では心理学を専攻。常に独学で新しいことの学習にチャレンジしており、現在はIllustratorや中国語を勉強中。効率的な勉強法やノート術を日々実践しており、実際に高校3年分の日本史・世界史・地理の学び直しを1年間で完了した。自分で試して検証する実践報告記事が得意。