
「またAIのニュースか...」 スマホを見るたび、そんな気持ちになっていませんか?
ChatGPTが話題になり、職場でも「AI導入」の声が聞こえ始める。まわりは「便利だ」と言うけれど、正直なところ「自分の仕事は大丈夫なのか?」「取り残されるのでは?」という不安のほうが大きい。
でもじつは、その不安こそがあなたの強みなのです。
なぜなら、AIの提案を「本当に正しいのか?」と疑問に思うその感覚——それこそが、AI時代に最も重要な「協働力」の土台になるから。
これからのビジネスで差がつくのは、AIと上手に協働できるかどうかです。
本記事では、なぜ協働力が重要なのかを解説し、その核となる「直感力」の鍛え方を具体的にお伝えします。あなたの不安を、AI時代を生き抜く武器に変えていきましょう。
AIと人間の強みを「協働」視点で理解
認知科学と生物医学情報学の統合研究を牽引する専門家、Jiajie Zhang氏は、AIと人間の特徴を次のように説明しています。*1
AIの特徴:
- 見つけたり見分けたりする守備範囲が広く、精密である
- 焦点を合わせながら、全体も見渡せる注意の配分ができる
- タスクごとに特化した処理ができる
- 必要に応じて拡大できる巨大な記憶領域をもつ
人間の特徴:
- 状況に合わせて柔軟に適応できる
- 背景の文脈を読み取れる
- 感情の深さを判断に生かせる
これらを「協働」の視点で見直すと、以下のように理解できます。
- AIの強みは「精密なツール能力」
- 人間の強みは「状況に応じた制御と舵取り」
たとえば、100ページの契約書をAIは数秒で読み込み、要点を抽出することが可能です。しかし「この条件は相手に不利すぎて、信頼関係を損なうかもしれない」という判断は、人間の直感と経験によるもの。
AIが提供する情報を、どう解釈し、どう活用するか
——その判断こそが人間の役割なのです。

AIと協働する力=「直感」の正体
意思決定研究の第一人者で、ポツダム大学ハーディング・リスク・リテラシー・センター所長のGerd Gigerenzer氏は、
人間の直感を「不確実で変化が激しい状況」に対処するうちに磨かれた「無意識の知性」だと主張しています。*2
この「不確実で変化が激しい状況」は、まさにAIの出力を評価・判断する場面そのものではないでしょうか。
AIは膨大なデータから最適解を導き出します。しかし、それが「いまこの瞬間、この文脈」で本当に適切かどうかは、人間の直感に委ねられるはず。
また、2002年にノーベル経済学賞を受賞した心理学者のDaniel Kahneman氏は、
直感を、「明示的な意図や努力なしに心に浮かぶ印象」と説明。
チェスの達人が素早く最善の一手を指す、消防士が現場で瞬時に最適な判断を下すなど――熟達者の直感は、複雑な状況でも一瞬で「最善に近い手」へ導く力があるといいます。*3
これをAI時代に置き換えると――AIツールを使いこなす専門家が
- 「このAIからの提案は採用すべき」
- 「ここは人間の判断を優先すべき」
と瞬時に見極める力が、現代版の「熟達者の直感」になるはずです。

AI×直感 協働シナリオの具体例
では、具体的にどんな場面でAIと「人間の直感」が協働できるのでしょう? 以下に例を示します。
ビジネスシーンの例
- 企画書作成:AIが市場データを分析し、トレンドを提示
→人間が「うちの顧客には響かない」と直感で判断し、切り口を調整 - 採用面接:AIが候補者のスキルマッチ度を数値化
→人間が「データは完璧だけど、チームの雰囲気に合わなそう」と総合判断 - 顧客対応:AIが過去の対応履歴から最適な返答を提案
→人間が「今日の相手の声のトーンからすると、もっと共感的な対応が必要」と微修正
日常生活の例
- 情報収集:AIが関連情報を整理
→人間が「この情報源は偏っている」と見抜く - 買い物:AIが最安値や評価を提示
→人間が「いまの自分には必要ない」と判断
重要なのは、AIを「答えを出すもの」ではなく、「判断材料を提供するパートナー」としてとらえることです。

「AI協働直感」を鍛える方法
これまでの内容をふまえると――私たち人間がこれから鍛えるべきは「AI協働直感」といったところでしょうか。
その際、参考にするメソッドは、エグゼクティブコーチのMelody Wilding氏が紹介する「スナップ・ジャッジメント・テスト」がおすすめです。*4
Wilding氏は、直感を信じて迷わず決断するコツは、「瞬時の判断や評価に頼ることだ」として、このメソッドを紹介。「即断即決」を試すためです。やり方は次のとおり。*4
- 紙とペンを用意して質問を書く
- その下に「YES」と「NO」の文字を書く
- 数時間後、その紙とペンを前に即回答
→「YES」と「NO」のいずれかに丸をつける
ただし、今回はAI時代向けとして、以下のようにアレンジしてみました。
言うなれば、「AI協働直感」を鍛えるための「AI判断テスト」です。手順は次のとおり。
AI判断テストの手順
- AIに相談や質問をして提案を受ける
- 「この提案をそのまま採用すべきか?」と紙に書き、すぐ下に「YES」と「NO」の文字を書く
- 数時間後、「YES」と「NO」のいずれかを即座に選ぶ
- AIの提案・自分の状況・判断を検証
- 気づきを得る
では、この手順をもとに実践例をシミュレーションしてみましょう。
実践例:転職相談のケース
以下は、「転職についてAIに相談した場合」の実践例です。
- 転職についてAIに相談し、提案を受ける
例)AIより「市場価値から見て転職すべき」という分析結果を得る - 「この提案をそのまま採用すべきか?」と紙に書き、すぐ下に「YES」と「NO」の文字を書く
- 数時間後、「YES」と「NO」のいずれかを即座に選ぶ
例)「NO」を選択。 - AIの提案と、自分の状況や判断を検証。
例)AIは客観的データを整理してくれたが、私の現在の人間関係や成長実感までは理解していない。データは参考にしつつ、最終判断は自分の価値観を信じよう。 - 気づきを得る
もしかしたら、いま最も優先したい価値観はここ(現職)にあるのかも……?
このテスト式のトレーニングを重ねることで、AIの提案を適切に評価・活用する直感が磨かれていくはずです。
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AIの進歩は、人間の仕事を奪う脅威ではありません。むしろ、人間の直感力の価値を高める要因となるでしょう。
したがって、私たちのライバルはこれまでどおり人間――ただし、「AIとよりよく協働する人間」です。
あなたもAI時代をリードする一歩を、いまここから踏み出してみませんか?
*1: UTHealth Houston|Artificial Intelligence versus Human Intelligence: Which Excels Where and What Will Never Be Matched
*2: BCG HENDERSON INSTITUTE|The Intelligence of Intuition with Gerd Gigerenzer
*3: Association for Psychological Science – APS|What Was I Thinking? Kahneman Explains How Intuition Leads Us Astray
*4: DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|決断に迷ったら、考えすぎずに自分の勘を信じ抜く
上川万葉
法学部を卒業後、大学院でヨーロッパ近現代史を研究。ドイツ語・チェコ語の学習経験がある。司書と学芸員の資格をもち、大学図書館で10年以上勤務した。特にリサーチや書籍紹介を得意としており、勉強法や働き方にまつわる記事を多く執筆している。