仕事や日常生活で人と会話するとき、「自分の考えを適切に表現できない」と感じることはありませんか? 思考をうまく言葉に変換できないのなら、あなたの「語彙力」が不充分な可能性があります。今回は、語彙力を高めるための方法をご紹介しましょう。
語彙力が低いことのデメリット
語彙力(ボキャブラリー)の低さは多くの弊害をもたらします。
1.トラブルを招いてしまう
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事の安藤俊介氏によると、「ヤバい・キレる・ふつう」といった単純すぎる言葉であらゆる感情を表現しようとする傾向は、非常に危険。なぜならば、「ヤバい」や「ふつう」で感情を表現できなくなると「キレる」という言葉を用い、言葉通りに「キレやすく」なるから。人は言葉で表現できなくなると行動で示してしまうのです。
また、ボキャブラリーの少ない人は自分の感情をうまく言い表せないことから、「強い言葉」を使いがちだと安藤氏は述べています。つまり、語彙力の低さは、コミュニケーション上のトラブルを招きやすいということ。怒りを表現するボキャブラリーを増やせば、コミュニケーションを円滑にできるはずだと同氏はいいます。
2.どんどんストレスが溜まる
著作家の中谷彰宏氏は、著書『なぜランチタイムに本を読む人は、成功するのか。』のなかで、「言葉をひとつ知っているだけで世界観が変わる」と述べています。何かに腹を立てたとき、抱いた感情を「むかつく」という言葉以外に言い換えられなければ、ずっと「むかつく」という感情から抜け出せません。つまり、語彙力がなければネガティブな落とし穴にハマり、どんどんストレスが溜まってしまうというわけです。一方、語彙力が高ければ自分の感情を明確に言い表し、論理的に思考することができるので、「むかつく」“ なぜ?”→「こんなことがあって悔しい」“ どうしたい?”→「見返したい」“ どうしたらいい?”→「勉強しよう」といった具合に、論理的思考によって負の感情から抜け出すことができます。
3.仕事の成否を左右する
たとえば上司に企画を提案したとき、「なぜその企画をやりたいのか」と問われたとして、「ずっと、これがやりたかったんです」と言うだけでは何の説得力もありません。語彙力が不充分だと、「なぜ?」と聞かれたとき、質問に明確な答えを返せないのです。
語彙力が低いと稚拙な表現でしか物事を言い表せず、相手に話を理解してもらいにくいうえ、相手の話を理解することも難しくなります。結果として、語彙力は仕事の成否をも左右するのです。
意思疎通ができなければ、ビジネスシーンにかかわらず学校や日常生活においても困難が生じます。語彙力を高めていく努力は誰であっても必要だといえるでしょう。
では、どうすれば語彙力を高められるのでしょうか。
語彙力を高めるステップ1:本を読む
語彙力を高めるためにまず行うべきことは、言葉で紡がれた知識がたくさん詰まっている本を読むことです。読書は発想力や想像力・共感力を豊かにして、コミュニケーション能力を高めてくれます。さらに、大脳の活性化によって記憶力・集中力が高まり、 ストレスも軽減するメリットもあります。
ただし、本を読むのはあくまでもインプット。身につけたボキャブラリーを、自分なりに使いこなせなければ、語彙力が高いとはいえません。ボキャブラリーを使いこなすには、次のステップに進みましょう。
語彙力を高めるステップ2:感情を表現する
日々の生活で生まれる様々な感情すべてを、明確な言葉で表現してみましょう。たとえば「今日のランチはおいしかった」「仕事がいまひとつだった」といった大ざっぱな表現を、「新鮮な野菜と肉汁たっぷりのハンバーグがワンプレートに盛りつけられていた今日のランチはとてもおいしかった」や、「今日の仕事はあまりはかどらなかったうえ、書類の作成をミスしたり、商談をまとめられなかったりしたため、1日を通して60%程度の出来だった」というふうに、具体的な言葉で言い換えるのです。Twitterに投稿するのは、140字という文字数制限のなかで、人の目を意識しながら文章を書く練習になるため、より効果的です。
「なぜ?」という質問に答えるかたちで感情を表現してみるのもよいですね。たとえば「なぜ今回のテストは成果が出なかったのか」という自分自身の問いかけに、「苦手な科目に時間を割き過ぎたので、ほかの科目の勉強が滞ってしまった。『インターリーブ学習法』を用いて交互に勉強していたら、もっと成果を出せたはず」といった具合です。
学んだ語彙をアウトプットして自分なりに使いこなせるようにすることは、語彙力を高めるための重要な練習です。語彙力を高めるだけではなく、思考を整理するのにも役立ちます。
語彙力を高めるステップ3:短い会話のキャッチボールをする
ある研究によると、「語彙力」をつけることは、「会話力」をつけることと結びつくのだそう。短く明確な言葉で会話のキャッチボールを繰り返し、楽しみながら語彙力を鍛えてみましょう。
玉川大学大学院の佐藤久美子教授によると、応答のタイミングが早くて発話時間が短く、明瞭に話しかける母親の子どもは、語彙力が高くなるのだそう。大人にとっても、「レスポンスを早くする」「明瞭な言葉を用いる」と意識して話すことは、語彙力を高めるのに効果的ではないでしょうか。「語彙力をアップしたい」という同じ目的を持った友人と、短い会話のキャッチボールをしてみましょう。
上記の「語彙力を高める」3つのステップは、1回で終わらせるのではなく、1→2→3→1→2→3と何度も繰り返してみてください。安定した語彙力を身につけられるはずです。
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本を読み、感情を自分の言葉で表現し、会話を楽しみながら語彙力を高めることで、たくさんの恩恵を受けられるはずですよ。
(参考)
リクナビNEXTジャーナル|「怒り」をモチベーションにできるアンガーマネジメントを学ぼう
ランキングBOX|イライラ解消!怒りのプロが教えるビジネスシーンで怒られた時の解決法BEST3
中谷彰宏(2015),『なぜランチタイムに本を読む人は、成功するのか。』, PHP研究所.
総合人材サービスのヒューマントラスト|仕事の成否を左右するボキャブラリーの有無
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プレジデントオンライン|子どもの「語彙力格差」は母親との会話に原因がある
梶原秀夫(2003),『語彙力と会話力の相関関係について』, 文京学院大学外国語学部文京学院短期大学紀要, 文京学院大学総合研究所, Vol.2, pp.49-67