現代人の多くが抱える深刻な悩みがあります。それは「表面的な関係は築けるのに、なぜか本当に信頼できる人がいない」というもの。
コロナ禍を経て「人とのつながり方」が大きく変わったいま、多くの人が感じているのは「浅い関係ばかりで、深いつながりが築けない」という違和感です。
「職場の人間関係は良好。でも、プライベートでは誰とも深い話ができない」
「人当たりはいいと言われるのに、なぜか信頼関係が続かない」
もしこんな経験に心当たりがあるなら、その原因は意外なところにあるかもしれません。
本記事では、公認心理師や精神科医の知見をもとに「第一印象は良好なのに、なぜか関係が深まらない人」が抱えがちな3つの特徴とその対策を紹介します。
特徴1:自分自身について話さない
人当たりはよく、誰とでも当たり障りなく話すことができる。それなのに、なぜか人との距離が縮まらない……。こうした悩みを抱える人に共通しているのが、「自分自身について話さない」ということです。
本人は「相手に迷惑をかけたくない」「プライベートな話は控えめにしよう」と周囲に配慮しているつもりなのですが、受け取る側は「この人、何を考えているかわからない」「なんだか壁がある」と感じてしまうのです。
公認心理師の川島達史氏は、人間関係における「自己開示の返報性」について次のように解説しています。
自己開示の返報性とは、自己開示をされると、こちらも自己開示したくなる心理を意味します。たとえば、初対面で、自分の出身や好きなことを話せば、相手も同じよう自分のことを話したくなります。*1
つまり、先に自分自身について少し話すことで、相手は「この人は心を開いてくれている」と安心感を抱き、同じように自分のことを語りたくなるのです。この相互のやり取りこそが、信頼関係を築く土台となります。
対策:一言だけ自己開示する
とはいえ、普段自分のことを話し慣れていない人にとって、いきなり自己開示をするのはハードルが高いもの。そこでおすすめなのが、日常会話のなかに「話題の提供につながる簡単な自己開示」を一言だけ織り込む方法です。
ビジネスコミュニケーションに詳しいコンサルタントの安田正氏は、たとえ天気の話でも、一言だけ自己開示すると、話題が深まり距離を縮められると述べています。*2
たとえば……
B「そうですね」
(ここで会話が終わってしまいがち)
B「ですね。うちの猫が朝からずっと窓辺で日向ぼっこしてて、ちょっと羨ましかったです」
A「猫を飼っているんですか。じつは私も猫が好きで……」
このように、「いい天気」という当たり障りのない話題から、自分の日常のささいな出来事を一言だけ加えるだけで、会話に深みが生まれます。
相手は「この人はペットを飼っているんだ」「家での様子を教えてくれた」という情報を得ることで親近感を覚え、自然と会話が続いていくのです。たった一言の自己開示なら、「話しすぎた」という心配もなく、無理なく実践できるのではないでしょうか。
特徴2:親密になると距離をとっている
「最初は楽しく話していたのに、気づけば自分から距離をとっていた」
「仲良くなりかけると、重く感じたり、面倒になってしまう」
こんな経験はありませんか?
表面的な関係には慣れていて、初対面でも感じよく振る舞える。けれど、相手がこちらに関心を持ち始めたり、関係が深まりそうになると、なぜか恐れや違和感、不安に似た感情が湧いてきて、つい距離を置いてしまう……。
精神科医の岡田尊司氏は、こうした「人との感情的な親密さを避ける」傾向を、「回避型」の愛着スタイルと説明しています。*3
このような人は、自分に自信がなく、傷つくことを恐れているため、一定以上距離が縮まるとブレーキをかけてしまいます。相手を嫌いになったわけではないのに、「このまま近づきすぎたら、息苦しくなりそう」と不安になってしまうのです。
ちなみに岡田氏は、近年「世界的に回避型の人が増えていると言われており、ヨーロッパの調査では若者の3割程度との研究結果もある」と述べています。*3 回避型の傾向をもつことは、現代社会ではそこまで珍しいことではなくなってきているのです。
対策:自分のつくる壁の必要性を見直す
公認心理師が所属する東京カフェカウンセリングでは、以下のような手順で、普段自分がつくっている境界線を見直すことをすすめています。
まず、「人と距離を置くために、つい自分がしてしまう行動」を具体的に書き出してみましょう。
例:
- 仲良くなってきた相手とのやりとりが、ある日突然わずらわしく感じて、返信をやめる
- SNSやグループLINEでのつながりにしんどさを感じ、フェードアウトする
- 相手から好意や信頼を示されると、「それに応えなきゃいけない気がして重たい」と感じ、避けるようになる
これらを、「絶対に譲れないもの」から順に、順位づけします。
例
順位 | 内容 |
---|---|
1 | プライベートのことを聞き出そうとされたら、すぐに距離を取る |
2 | お茶しよう、飲みに行こうなど、外での関わりを求められると関係を断つ |
3 | 自分の日ごろの行動をいちいち言いたくない |
4 | SNSやグループLINEをすぐ退会・アカウントを消す |
順位の低い(譲歩しやすい)ものから、以下の基準で客観的に見直してみます。
◇見直す基準
- 本当にそれをしなかったら見捨てられてしまうか?
- 本当にそれをしなかったら追い詰められるか? *4
たとえば、SNSやグループLINEを完全に断ち切らなくても、「通知をオフにする」「見る頻度を減らす」「ミュート機能を活用する」など、段階的に距離感を調整する方法は数多く存在しますよね。
重要なのは、「壁をつくる行動を少し緩和しても、実際はそれほど悪いことは起きなかった」という成功体験を積み重ねることです。小さな変化から始めることで、周囲との距離感も自然に近づいていくはずです。
特徴3:自己開示の方法を間違えている
特徴1では自己開示の重要性について述べましたが、ただ自分のことを話せばよいというわけではありません。自己開示には「適切な方法」があり、これを間違えると、かえって相手との距離を広げてしまうことがあります。
「自分のことはちゃんと話しているつもりだ」
「むしろ、相手よりも先にいろいろ開示している」
それでも、なぜか相手からは「壁がある」と言われてしまう。あるいは、関係が深まりそうになると、相手が引いていってしまう——このような場合は、自己開示の方法が間違っているのかもしれません。
公認心理師の小倉広氏は、自己開示について以下のように説明しています。
間違った自己開示:自分の個人情報や、相手が話す内容と似た「自分の体験談」を一方的に披露すること
正しい自己開示:話し手と聞き手が存在している「今この瞬間」に、聞き手である自分の中に湧き起こる「感情」を率直に伝えること *5
特徴1で説明した通り、まったく自分のことを明かさないのはたしかに不信感につながります。しかし、ある程度相手と会話ができている関係であれば、自分の情報ばかり一方的に与えたり、相手の話を途中で遮って自分の体験談にすり替えたりしてしまうのは、正しい自己開示とはいえません。
効果的な自己開示とは、相手の話を受け止めて、その瞬間に自分の心に生まれた感情を素直に伝えることなのです。小倉氏は、次のように説明しています。
- 自己開示をした相手は、勇気を出して心の内を明かした、いわば「裸になったような状態」にある
- 「相手にリスクテイクを求めるのであれば、こちらもリスクテイクしなければ平等ではない」ため、聞き手も同じように心を開く必要がある
- その方法が、「相手の『エピソード』や『感情』に触れて、自分の中に湧き起こった気持ちを伝えること」である *5
つまり、相手が勇気を出して心を開いてくれたことへの敬意として、こちらも率直に感情を共有する。このような相互の信頼こそが、深い人間関係の基盤となるのです。
対策:相手の話を聞いて感じたことを率直に伝える
目の前の相手が話すことに真摯に耳を傾け、その話から自分が感じたことを素直に言葉にしてみましょう。
「この人はこんなふうに感じるんだな」「こんな価値観を持っているんだな」と相手に理解してもらうことが、あなた自身のパーソナリティを伝える最も効果的な自己開示になります。
- 「それを聞いてこっちまでうれしくなったよ。頑張っていたのを知っていたから、余計にグッとくる」
- 「正直に言うと、今の話を聞いていて少しドキッとしました。なんだか同じような焦りを抱えてる気がして」
- 「私も同じような経験をしたことがあります。そのときは……」(体験談への置き換え)
- 「私の場合は……」(話題の横取り)
- 「それで思い出したんだけど……」(自分の話への強引な転換)
あくまでも、相手の話に寄り添うこと。この姿勢こそが、真の信頼関係を築くための自己開示なのです。
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深い信頼関係を築くには、自分の内面を少しずつ相手に見せていくことが欠かせません。小さな一歩から関係性を育てていきましょう。
*1 ダイコミュ|返報性の原理,法則の意味
*2 ダイヤモンド・オンライン|相手との距離を縮める「プチ自己開示」とは?
*3 telling,|音信不通の彼氏、回避型愛着スタイルかも。精神科医・岡田尊司さんに聞く対処法は
*4 東京カフェカウンセリング|回避依存症
*5 ダイヤモンド・オンライン|「自己開示」をして、かえって嫌われる人の「勘違い」ワースト1
柴田香織
大学では心理学を専攻。常に独学で新しいことの学習にチャレンジしており、現在はIllustratorや中国語を勉強中。効率的な勉強法やノート術を日々実践しており、実際に高校3年分の日本史・世界史・地理の学び直しを1年間で完了した。自分で試して検証する実践報告記事が得意。