脳の「ワーキングメモリ」を鍛える方法。仕事の能力、勉強の効率アップには、ワーキングメモリの強化と解放が効く!

脳の「ワーキングメモリ」を鍛える方法。仕事の能力、勉強の効率アップには、ワーキングメモリの強化と解放が効く!

近頃、仕事の処理能力が低下している。うっかりミスや度忘れがなくならない。若いころに比べて記憶力が落ちた。集中力が続かず、仕事や勉強の効率が上がらない……。

上記のような認知能力に関するお悩みは、脳の「ワーキングメモリ」を鍛えることによって解消することができますよ。仕事・勉強の効率を上げるための、ワーキングメモリの鍛え方をご紹介します。

ワーキングメモリとは

ワーキングメモリ (working memory)とは、一時的に情報を脳に保持し、処理する能力です。短期記憶・長期記憶という言葉をご存じの方は多いでしょう。ワーキングメモリは、短期記憶よりもさらに短いあいだに情報を記憶する能力を指し、ワーキングメモリは脳の前頭前野が担っています。

ワーキングメモリは、作業記憶・作動記憶とも呼ばれ、以下の3つで構成されていると考えられています。

  • 言語的短期記憶:数、単語、文章など
  • 視空間的短期記憶:イメージ、絵、位置情報など
  • 中央実行系:注意の制御や、処理資源の配分といった高次の認知活動

そして中央実行系が、ほかの2つの短期記憶にそれぞれ組み合わされると、

  • 言語的短期記憶+中央実行系=「言語性ワーキングメモリ」
  • 視空間的短期記憶+中央実行系=「視空間性ワーキングメモリ」

となります。ワーキングメモリは、会話や読み書き、計算の基礎といった、日常生活や仕事・学習を支える重要な能力なのです。

ワーキングメモリは容量が少ない

ワーキングメモリとは具体的にどのようなものを指すのか、例で説明しましょう。

電話をかけるために電話番号を記憶する場面を想像してください。電話番号を見て電話番号をサッと覚え、電話を手に取りプッシュするまでの数秒間は電話番号を記憶することができますよね。ですが、電話を終えた途端に(あるいは電話番号をプッシュし終えた途端に)、かけたばかりの電話番号をすっかり忘れてしまう、というのはよくあることではないでしょうか。

電話番号の例から分かるように、ワーキングメモリは、ごく短い間だけ情報を記憶する能力です。ワーキングメモリでは、新たな情報が入ってくると古い情報はどんどん消されていきます。 また、ワーキングメモリに記憶しておける情報の数は「7±2」個や「4±1」個などといわれており、ワーキングメモリの容量は非常に少ないのです。情報量がワーキングメモリの容量を超えると、ワーキングメモリに蓄えられた情報は次から次へと押し出されてしまいます。

ワーキングメモリは容量が少ない

ワーキングメモリの働きの低下によって起きること

もともとの容量がとても少ないワーキングメモリ。もしワーキングメモリの働きが低下すると、何が起きてしまうのでしょうか。

「何かを取りに来たはずだが、何が目的だったか忘れてしまった」という経験はありますか? 典型的な“ワーキングメモリがうまく働いていない状態”です。

似たようなことは仕事中にも起こりえます。たとえば、資料を作成しているとき。参考資料Aを見て、気になったことを参考資料Bで調べているうち、そもそも参考資料Aの何を気にしていたの忘れてしまい、参考資料Aを最初から読み直しているような状態。あるいは、長い英文を読んでいるとき。分からない英単語を調べているうち、調べていた単語が文中のどこにあったのか忘れてしまい、英文を最初から読み直しているような状態です。

つまり、ワーキングメモリの働きが低下すると、目的を達成するため保持していた複数の情報のうち、最初に保持していた情報から失われやすくなるわけです。先に紹介した「電話番号を忘れる」程度なら問題ないかもしれません。ですが、仕事の処理速度が落ちたり、ケアレスミスが頻発したり、何度も同じ作業を繰り返してしまったり、覚えておきたかったことをすぐに忘れてしまったりしたらどうでしょう? 仕事や勉強の効率に悪影響が出るのは必至です。

仕事や勉強に励むビジネスパーソン・学生なら、ワーキングメモリをできるだけうまく働かせたいですね。ワーキングメモリの働きが向上すれば、仕事や勉強の効率が向上するはずです。ワーキングメモリの働きをよくするアプローチとして挙げられるのは次の2つ。「ワーキングメモリを鍛えること」そして「ワーキングメモリを解放すること」です。ワーキングメモリを鍛える方法・解放する方法を解説します。

ワーキングメモリの働きの低下によって起きること

ワーキングメモリを鍛える方法

ワーキングメモリの容量は少なく限界がありますが、ワーキングメモリを鍛えて容量を増やせることが分かっています。ワーキングメモリを鍛える方法をいくつかご紹介します。

楽しいことを考える

ワーキングメモリを鍛えるために、できるだけ楽しいことを考えながら日々を過ごしてみましょう。

脳機能に関する学術雑誌『NeuroImage』オンライン版に掲載された、定藤規弘教授(自然科学研究機構・生理学研究所)らの研究によれば、幸福度が高い人ほど「吻側前部帯状回(ふんそくぜんぶたいじょうかい)」という脳領域の体積が大きかったそう。吻側前部帯状回の大きさは、ポジティブな出来事に接したときの活性化度合と関連していたそうです。

吻側前部帯状回とは、「ACC」(脳の前部帯状回/前帯状皮質)と呼ばれる領域の中で最も前方の部分。ACCとは、大阪大学名誉教授の苧阪満里子氏による別の研究において、ワーキングメモリの働きが優れた脳で顕著に活動していたと報告された領域。つまり、ポジティブな出来事で活性化する領域=優れたワーキングメモリを有する脳で顕著に活動する領域の一部ということです。

定藤教授は、「脳は鍛えれば(特定の脳領域の体積が)大きくなるので、楽しい記憶の想起や、明るい未来を想像するといったトレーニングにより、持続的な幸福が増強する可能性が示された」といいます。すなわち、楽しいことを思い出したり想像したりすることで、脳の特定の領域が大きくなり、活性化する可能性があるということ。ワーキングメモリの増強にもつながりそうです。

イメージングをする

日常的にワーキングメモリを鍛えるため、生活に「イメージング」を取り入れるのも効果的です。

イメージングとは、「頭の中にイメージを思い浮かべる訓練」。苧阪教授によれば、覚えるべき単語をイメージして絵にすると、脳内でACCが活動するそう。ACCを活動させれば、ワーキングメモリを鍛えられる可能性があります。

本を読んだり、ラジオドラマや落語のCDを聴いたりして、情景をイメージするのもよいかもしれません。複数の食材から作る料理をイメージするのも有効です。

ワーキングメモリを鍛える方法:イメージング

デュアルタスクを行なう

ワーキングメモリを鍛えるには、「デュアルタスク」を実践するのもおすすめです。

デュアルタスクとは、運動と知的作業の2つを同時に行なうこと。2つの作業を同時に行ない脳を混乱させると、脳は混乱を整理しようと働きます。混乱を整理しようという働きが脳の活性化につながり、ワーキングメモリを強化することにもなるのです。

篠原菊紀教授(諏訪東京理科大学)をはじめとする専門家らは、デュアルタスクによって脳を鍛えることをすすめています。デュアルタスクの例は次のとおり。いわゆる「脳トレ」のように、遊び感覚で、ワーキングメモリを鍛えてみてはいかがでしょう。

  • 「ウォーキング」&「計算」:「100-8=92」「92-8=84」「84-8=76」……と同じ数を引き続ける単純な計算を、歩きながら行う。
  • 「シャンプー」&「昨日の食事を思い出す」:手を動かしてシャンプーしながら、昨日の3食の食事内容を思い出す。

普通の生活を健全に送る

ワーキングメモリは、日常生活を送るだけでも鍛錬することができます。苧阪教授によると、ワーキングメモリは会話や料理、買い物などで使われているので、健全に日常生活を送っていれば十分に鍛えられるとのこと。適度に体を動かしなつつ、料理をしたり、掃除をしたり、人と楽しく話したりしてください。食事の際にかむ回数を多めにするのも効果的だといわれています。

「日常生活を健全に送る」くらい、ごく当たり前にできていると思うかもしれません。ですが、仕事が忙しいあまりに日々の生活がおろそかになっていませんか? 仕事に打ち込んでばかりではワーキングメモリは育たないようです。仕事力アップのために、日常生活を大事にするという視点も持ってみてくださいね。

前頭前野を活性化させる

ワーキングメモリを鍛えるために、前頭前野の活性化という方法を取ってみてはいかがでしょう。

ワーキングメモリを担っている前頭前野は、論理的・合理的に考えたり、記憶したり、感情をコントロールしたり、判断したりする働きをします。前頭前野がしっかり働くことは、ビジネスパーソンにとって非常に重要なことですよね。

以下の方法で前頭前野を刺激・活性化させ、ワーキングメモリの向上を図りましょう。神経内科医の米山公啓氏が提唱する、ワーキングメモリを鍛えるための7つの方法です。

1.新聞を読解し、印象に残った単語を4つあげる。
2.電車の吊り広告を見て覚え、単語を思い出す。
3.会話中の内容を記憶するように聞く。
4.新曲を覚えカラオケで歌詞を見ずに歌う。
5.読書や音楽鑑賞の際に、頭のなかでイメージをつくり出す。
6.いずれも出来事すべてではなく、3つだけを記憶する。
7.いずれも記憶する際、楽しく記憶しドーパミンを出して脳を元気にする。

(引用元:StudyHacker|カギは “楽しさ” を供給すること。脳の「前頭前野」を活性化させて仕事の効率を高めよう。

ワーキングメモリを鍛える方法:前頭前野を活性化させる

ワーキングメモリを解放する方法

ワーキングメモリを向上させるためのアプローチは、ワーキングメモリそのものを鍛えることだけではありません。ワーキングメモリを解放してあげることも有効です。

もともと容量が少ないワーキングメモリに、次から次へと情報が送り込まれると、先に入った情報からどんどん出ていってしまうのでしたね。ワーキングメモリが圧迫されると、大事な情報を思い出せなくなったりミスを犯してしまったりします。言い換えれば、不要な情報を外へ出すことでワーキングメモリに空きを作れるということ。ワーキングメモリをうまく解放すれば、記憶力や仕事の処理能力をアップさせられるのです。

ワーキングメモリを解放する方法を2つ紹介しましょう。

メモを取る

ワーキングメモリを解放するには、メモを取ることが有効です。

カナダのマウント・セントヴィンセント大学が行なった研究によると、人はメモを取った情報を忘れてしまうのだそう。情報を得たとき、「気になるな、あとで調べてみよう」とか「役に立ちそうだからしっかり覚えておこう」などと考えることがありますよね。気になったことをメモせず頭に残しておこうとすると、ワーキングメモリが圧迫されてしまいます。

必要な情報は、できるだけこまめにメモするように心がけましょう。情報を脳内からメモ帳に移せば、情報をワーキングメモリから追い出せ、空きを作ることができます。メモさえ取っておけば、忘れた情報は後で思い出すことが可能です。どんどんメモを取り、どんどん忘れてしまいましょう!

また、仕事がうまくいくか不安だ、人間関係で心配事がある、といったように悩みや不安を抱えている場合、ワーキングメモリは不安で満たされた状態です。ワーキングメモリの容量が不安でいっぱいだと、目の前の仕事や勉強に集中することができませんね。 不安は紙に書き出し、ワーキングメモリから追い出してしまいましょう。ある実験では、心配事や感情的になった出来事について、被験者に数カ月間毎日書き出させた結果、不安が有意に減少したそうです。不安を紙に書き出してワーキングメモリから不安を取り除き、ワーキングメモリを解放してあげましょう。

脳を休ませる

ワーキングメモリを解放するには、脳を休息させることも大事です。

ワーキングメモリ内の情報が過多となり圧迫された脳は、極めて疲れている状態。脳の処理能力を超えるほどの情報が入っていては、脳の機能が低下し、集中力や仕事のスピードが低下したり、ミスをしやすくなったりしてしまいます。頭の中は大事な情報でいっぱいで、次から次に仕事をこなさなければならないのに、どうにも効率が上がらないということはありませんか? 脳疲労を起こしているのかもしれませんよ。

脳を休ませるには、仕事を早めに切り上げじゅうぶんな睡眠をとることを優先してください。ほかに有効な方法として、脳科学者の杉浦理砂氏がディレクターを務める脳トレーニングジム「ブレインフィットネス」が勧めるのが、マインドフルネスです。

脳に疲労がたまってストレスが発散できないとき、休んでいるつもりなのに過去の失敗や余計な不安などが頭をよぎりませんか? 休憩中に嫌なことを考えてしまうときは、脳のデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)という領域が過剰に活動しているのだそう。DMNは脳が使うエネルギーのうち60~80%も消費してしまうため、脳を休ませるにはDMNの活動を抑えることが不可欠。DMNを抑制するのに役立つのがマインドフルネスなのです。

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ワーキングメモリを鍛えたり、ワーキングメモリを解放したりすることによってワーキングメモリの働きを改善すると、仕事や勉強のパフォーマンスが向上します。ワーキングメモリを鍛えるスキルは、ビジネスパーソンにとって必須だといえるでしょう。能力・効率アップをめざすなら、ワーキングメモリを鍛えるスキルを身につけてみてはいかがでしょうか。

(参考)
生理学研究所|幸せと脳との関連が明らかに − 日本国民の幸福度の向上に期待
NIKKEI STYLE|WOMAN SMART|物忘れを防ぎ、記憶力を高める10の習慣
Wikipedia|前帯状皮質
Wikipedia|帯状回
StudyHacker|記憶力アップの鍵は「ワーキングメモリ」の解放。脳の仕組みを生かした記憶術3選
StudyHacker|アタマとカラダを同時に使え! 『デュアルタスク』で脳は鍛えられる。
StudyHacker|TwitterはダメだけどFacebookはOK? 記憶を広げるワーキングメモリの鍛え方
StudyHacker|カギは “楽しさ” を供給すること。脳の「前頭前野」を活性化させて仕事の効率を高めよう。
StudyHacker|脳にだって働き方改革が必要だ! ミスの原因「脳疲労」を解消する “心地いい” 休息法。
StudyHacker|不安や緊張が失敗を引き起こす理由。ワーキングメモリーを不安で満たさないためには

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