普通に間違いを指摘したつもりなのに、部下を落ち込ませてしまった……。
商品を一生懸命売り込もうとしたら、なぜかお客様が怒りだしてしまった……。
新人をトレーニングしていると、よく泣かせてしまう......。
こんなとき、「最近の若いやつは根性がない」「あのお客さん面倒くさい」と考える前に、少し立ち止まってみてください。相手の気持ち、想像できていますか?
仕事をする仲間も、取引をする相手も、同じ人間。相手の気持ちを想像できないでいると、仲間や取引先の信頼を気づかないうちに失い、営業成績が伸び悩んだり、プロジェクトがうまく進行しなくなったりするかもしれません。
ぜひこの記事を読んで、自分は相手の気持ちをわかろうとできているか、確認してみてくださいね。
相手の気持ちがわからない理由1:「感情の壁」に支配されている
自信のある商品について、一生懸命営業トークをしたのに、買ってもらえなかったことはありませんか。はたまた、チームリーダーを任されたとき、周りを引っ張ろうと頑張りすぎて、空回りしてしまった経験はないでしょうか。
多摩大学大学院特任教授の田坂広志氏によると、優秀な人は自分の感情に支配されて他人の心がわからなくなる「感情の壁」に突き当たることがあるそうです。具体的に田坂氏が挙げている例を見てみましょう。
- 「営業成績を上げたい」という気持ちに駆られて商品のPRばかりしてしまい、目の前の顧客の気持ちが読めなくなってしまう。
- 自分がリーダーを務めるプロジェクトを予定通りに進めなければという思いから、厳しいスケジュールばかりをメンバーに要求する。しかし、進行に気を取られて、メンバーの不満がたまっていることには気がつけない。
このように、自分が成果をあげることに気持ちが支配されてしまって、相手の気持ちを考えられなくなってしまっている状態を、田坂氏は「感情の壁に突き当たっている」と表現しています。意欲や責任感の強い優秀な人ほど、知らず知らずのうちに、この感情の壁に突き当たる可能性が高いそうです。
いまいち部下の信頼を得られていない。頑張っているのに営業成績があがらない。このように感じている方は一度、自分が感情の壁に突き当たっていないかを振り返ってみてはどうでしょうか。
相手の気持ちがわからない理由2:相手の行動の背景や理由を考えない
エグゼクティブ・コーチ和気香子氏の著書『人の気持ちがわかる人、わからない人』のによると、「相手の気持ちがわからない人」は、いわば「相手の行動の背景や理由を考えない人」なのだそうです。
たとえば、入社したての新入社員のミス対して、研修の進度も把握せずに責めたてる人がいます。もちろん、自分からしたら考えられないような凡ミスもあるかもしれません。しかし、その新入社員は仕事のやり方をまだ教わっていない可能性もありますし、業務に必要な情報を引き継いでいなかったのかもしれません。理由や背景をきちんと問いたださずに非難の気持ちだけが先走ってしまっては、相手を苦しめるだけになってしまいます。
自分にとっては信じられないと思うようなことでも、別の人にとっては当然かもしれません。和気氏は「そこには理由や背景がある」と言います。ミスや不適切な言動を叱りつける前に、理由や背景を考えられているでしょうか。
相手の気持ちがわかる人になる方法1:感情系脳番地を鍛える
相手の気持ちがわからないと、どうやら人望や営業成績、チームの士気にまで関わりそうだとわかりました。それでは、「相手の気持ちがわからない人」を脱却するには、具体的にどうすればいいのでしょうか。
脳科学者の加藤俊徳氏によると、脳の「感情系脳番地」を鍛えれば、相手の表情や仕草から気持ちの変化を察することができるようになるそうです。「感情系脳番地」とは、その名の通り、喜怒哀楽などの感情表現に関与する脳の部位のことを指します。
感情系脳番地は、脳の側頭葉に位置しています。右脳と左脳にそれぞれ感情系脳番地があり、右脳側が、社会の中で他人の気持ちを推しはかろうとする役割を果たすそうです。それを鍛えるには、他人の感情に関する情報のインプットと、他人の感情についての自分の見解のアウトプット、両方が必要なのだとか。
具体的に、加藤氏がすすめている鍛え方のひとつが、「まわりの人にその日の印象を伝える」という方法です。
たとえば、会社やプライベートで人と会ったとき、相手の体調や心理状態について気づいたことを伝えてみるのがいいのだそう。「疲れているみたいだね」「機嫌よさそうだけど、いいことあった?」「何か心配事でもある?」といった具合です。
ポイントは、じっくり観察するのではなく、服装、表情、声のトーンなどから一瞬で情報をインプットすること。すばやく情報をインプットしようとすることで、感情系脳番地により大きな刺激が与えられるそうです。
また、相手に印象を伝えるといっても、思ったことをそのまま口にしては、相手が不快になったり、デリカシーがないと思ったりすることもありますよね。相手に適切な言葉選びをするというフィルターを通すことで、感情系脳番地が刺激される効果的なアウトプットが実現できるのです。
相手の気持ちがわかる人になる方法2:良質な本を読む
人事コンサルタントであり、東京大学で「情のあるリーダーシップ」についてのゼミ講師も務める大岸良恵氏によれば、相手の気持ちをわかるには本を読むことが有効なのだそうです。本を通して「情(=他人の気持ちをわかろうとする力)」を磨くことができるのだとか。
もちろん、ただ漠然と本を読むだけでは「情」は育ちません。たくさん本を読んでいるのに、相手の気持ちが想像できないという人は、登場人物たちの気持ちを読もうとするだけではなく、「自分だったらどうするか」「上司だったらどうするか」というような、人を置き換えて想像する視点を持ってみるといいかもしれません。
大岸氏は講義の際、「自分が情のあるリーダーだったとしたら、こんなときどうするだろう」「情のあるリーダーはこのような考え方に賛同するだろうか」と考えながら読んでもらい、簡単なレポートを提出してもらうそうです。なぜなら、「情」というものは誰かに教えてもらえるものではなく、自分で考え、感じることでしか育たないからです。
それを踏まえると、本のチョイスとしては、読んで感じたり考えたりする量が多くなるようなもの、つまり登場人物や語り手の気持ちを深く読み込めるような本がいいでしょう。
たとえば大岸氏は、芥川龍之介氏の『藪の中』を講義で使っているそう。たしかに、ひとりひとりの証言の真偽に明確な答えがない作品なので、「自分だったら」という視点も持ちやすく、証言の背景にある心情も読み解きがいがありそうな作品です。「情」を磨くトレーニングに選ぶ本にはうってつけかもしれません。
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こんな記事を書いておいてなんですが、やはり相手の気持ちはどんなに突き詰めても完全に「わかる」ものではないでしょう。わからないからこそ、私たちは想像し、考え、伝え、お互いをつなぐ言葉を探します。
一番怖いのは、わかったつもりで決めつけること。常に「わからない」という出発点に立って「わかりたい」と試行錯誤し続けることこそが、目の前の相手とつながる第一歩なのではないでしょうか。
(参考)
DIAMONDonline|「仕事はできるが、人の気持ちが分からない人」はいつか必ず転ぶ
和気香子(2014),『人の気持ちがわかる人、わからない人~アドラー流 8つの感情整理術~』,クロスメディア・パブリッシング.
リクナビNEXTジャーナル|折衝力・コミュニケーション力を高めるには?手軽に実践できる「脳」の鍛え方
PRESIDENT Online|人の気持ちがわからない人の致命的理由3
【ライタープロフィール】
月島修平
大学では芸術分野での表現研究を専攻。演劇・映画・身体表現関連の読書経験が豊富。幅広い分野における数多くのリサーチ・執筆実績をもち、なかでも勉強・仕事に役立つノート術や、紙1枚を利用した記録術、アイデア発想法などを自ら実践して報告する記事を得意としている。