読者の皆さまはこれまで、色々な勉強法を取り入れてきたと思います。ですが、「いまいち自分には合わない」とか「この勉強法では効率的ではない」などと感じている方もおられるでしょう。これから紹介する“少しユニークな勉強法”の中に、あなたに合う方法を見つけていただければ嬉しいです。
勉強の効率を上げるための基本
ユニークな勉強法をご紹介する前に、勉強や暗記に取り組むうえで押さえておくべき、基本的なことをお伝えします。
「エビングハウスの忘却曲線」というものを聞いたことがある方は多いでしょう。ドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウスが明らかにした、人の記憶力に関する曲線のことです。
エビングハウスは、「子音・母音・子音」から成る無味な3文字の羅列を記憶し、それを思い出す実験をしました。そして、2回目以降に覚え直すときに、1回目に覚えたときと比べて、覚えるのにかかる時間をどれぐらい短くできるかを示す「節約率」を導きました。2回目に覚えるタイミングと節約率の数値は、次の通りです。
1時間後:44%
約9時間後:35%
1日後:34%
2日後:27%
6日後:25%
1ヶ月後:21%
この数字の見方は、「1日後に覚え直せば、1回目に覚えたときに要した時間を34%節約でき、66%の時間で覚えられる」ということです。(よくある勘違いで、「1日後には34%しか覚えていなかった」というものがありますが、忘却率と節約率は違います。)
忘却曲線に基づけば、1回覚えたことを復習すれば、覚え直すのにかかる時間は短くて済むということが分かります。しかし、タイミングが後になればなるほど節約率は低くなり、覚え直すのにかかる時間は長くなっていきます。復習のタイミングが後になりすぎるのは良くないのです。
つまり、短期間のうちに復習を繰り返すことが有効だということになります。それでは、学んだことを繰り返し復習するユニークな方法をご紹介しましょう。
エアー授業
「エアー授業」とは、自分が先生になったつもりで架空の生徒相手に授業をする勉強法です。
この方法が効率的である理由は「アウトプット」にあります。精神科医で、『学びを結果に変えるアウトプット大全』の著者である樺沢紫苑氏によると、人間の脳は、多くの情報の中から「重要な情報」を選んで長期記憶として残しているそう。「重要な情報」というのは、「何度も使われる情報」だとのこと。インプットした後で繰り返しアウトプットした情報は、重要度が高いとみなされ、記憶として優先的に定着していくのです。
学んだことを先生になったつもりで話すエアー授業は、アウトプットにもってこい。京都大学法学部出身で「高学歴芸人」として知られるロザンの宇治原史規氏も、エアー授業を推奨しており、その効果について次のように解説しています。
「エアー授業」は、すごく意味がある勉強法。自分が何を理解していて、何を理解していないかがはっきりとわかるんです。インプットをしているだけでは、気づけません。
こうして、エアー授業を続けていると、「覚える」から「わかる」に変わってきます。覚えたことは忘れてしまうけど、わかったものは忘れません。だから、使える知識になるんですね。
(引用元:PHP Online 衆知|高学歴芸人ロザンの必勝勉強法・「エアー授業」とは!?)
この方法は、どんな科目を勉強するときでも使うことができます。例えば、マーケティングを勉強しているときなら、
先生役「広告の配置において重要なことは、できるだけ多くのお客様に見てもらうことですね。そのため、お金に目処をつけなければ渋谷の駅に広告を配置することは良い選択肢だと考えられます。では、あなたの会社の今の予算を考えて、適切な広告の配置先はどこでしょう?」
生徒役「私の会社の予算を考えると、適切な駅はA,B駅です。」
という風に、一人二役をこなしながら自問自答を繰り返してみましょう。このようにアウトプットを繰り返すことが、知識を自分のものにするためには大変有効なのです。
アクティブリコール勉強法
「アクティブリコール勉強法」とは、後で復習するときに使うことを前提とした一問一答の問題を自作しながら勉強するという方法です。
この方法が効率的な理由は、自分で一問一答を作っている間と、その後一問一答を解き直している間の両方で、インプットとアウトプットを繰り返し行うことができるという点です。上の「エビングハウスの忘却曲線」のところでお伝えした通り、復習を繰り返せば繰り返すほど、記憶に定着しやすくなります。
また、「問題を解く」という行為自体に効果があるようです。2006年にワシントン大学の認知心理学者らにより発表された研究で、情報を書いたり読んだりするよりも、記憶の中から検索して思い出すほうが、記憶が強化され忘れにくくなることが分かったのだそう。これは「テスト効果」と呼ばれています。
「アクティブリコール勉強法」の具体的なやり方は次のとおりです。
- 本やテキストを一通り読みながら、一問一答を作成する
全体を網羅できるよう、各項目で最低5個は一問一答を作成します。 - 問題を解く
1で作った一問一答を解いていきます。 - 本やテキストを見ながら答えあわせをする
一通り解き終えたら、答えあわせをします。 - 間違えたところを中心に本やテキストを読み直す
間違えた問題の周辺にも、記憶漏れがある可能性があります。よく見直しましょう。 - 2~4を何度も繰り返す
自分で作った一問一答は、それ自体が記憶を引き出す鍵になります。ただ単に本やテキストを読み返して復習するよりも、効率的な復習媒体になりますよ。
アクティブ・リコール勉強法について、詳しくは『「思い出す」という負荷をかけろ! 記憶の定着に効果絶大な『アクティブ・リコール勉強法』。』という記事でも紹介されていますので、ぜひ読んでみてください。
ずるい暗記術
「ずるい暗記術」とは、問題を解く前に答えを見るという勉強法です。
この方法が効率的なのは、時間を節約できるから。問題演習をする際、何を問われているのかを考えながら問題を解き、結果を答え合わせするというのが普通のやり方ですが、この勉強法では、問題を見るより先に答えを見て、答え自体を覚えます。問題の解法を考える時間を削り取ることで、効率アップが図れるというわけです。
この勉強法は、高校時代の偏差値30から司法試験に一発合格するまでに急成長した、弁護士の佐藤大和氏が編み出した方法です。佐藤氏は著書『ずるい勉強法―――エリートを出し抜くたった1つの方法』の中で、「理解しながら暗記する」という従来の勉強法は、特に資格試験などの新たな勉強を始めた人にとってハードルが高いやり方だと言います。「分からない」というステップを挟んでしまう分、勉強への意欲が失われてしまうからです。
「試験に合格する」ことが目的なら、試験問題の答えを暗記するのが最短の道。理解はいったん置いておいて、答えから学ぶのが最速です。600個以上の資格を保持している “資格のスペシャリスト”の鈴木秀明氏も、問題を「解く」より、「解説と答えを覚える」ことを推奨しているそう。試験に合格するためには、問題演習で正解したり間違ったりするプロセスよりも、正答するための考え方を丸ごと覚ええてしまうほうが効果的だというわけです。
また、試験に通るためには、試験の本番で、知識を素早く思い出すことも必要です。そのために佐藤氏は、答えを覚えた後は、「問題を見て、パッと答えを思い出す」というトレーニングを積むと良いと言います。例えば、1時間の試験なら50分で解くようにしておくといいでしょう。そうすれば、試験本番で時間に余裕が生まれるため、緊張してしまっても調整が効きます。
百聞は一見にしかずと言いますが、100回テキストを読むよりも、答えを見ながら学ぶ方が効率的なのですね。
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「繰り返す」という勉強の基本を押さえつつ、勉強の効率をさらに上げる方法をご紹介しました。アウトプットを重視し、目標から逆算して、繰り返し勉強することがコツです。こちらの記事『「勉強に飽きた」と思ったら……。ちょっとユニークでおもしろい勉強法3選』にも、少し変わった勉強法が紹介されています。よかったらぜひ参考にしてみてください。
(参考)
Wikipedia|忘却曲線
PHP Online 衆知|高学歴芸人ロザンの必勝勉強法・「エアー授業」とは!?
佐藤大和(2016),『ずるい勉強法―――エリートを出し抜くたった1つの方法』,ダイヤモンド社.
StudyHacker|「勉強に飽きた」と思ったら……。ちょっとユニークでおもしろい勉強法3選
StudyHacker|「思い出す」という負荷をかけろ! 記憶の定着に効果絶大な『アクティブ・リコール勉強法』。
StudyHacker|“たった17分間の工夫” で記憶を1ヶ月キープできる魔法のテクニック。
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【ライタープロフィール】
渡部泰弘
大阪桐蔭高校出身。テンプル大学で経済学を専攻。外出時は常にPodcastとradikoを愛用するヘビーリスナー。