中学生の頃、誰もが英語の授業で習う「時制」。「現在の話では現在形で、過去の話は過去形で……」と習った人も多いのではないでしょうか。しかし実は、「現在形=現在の話」「過去形=過去の話」という理解の仕方をしていると、時制を正確に使いこなせないこともしばしばあるのです。
そこでこの記事では、「時制という文法の裏にある意図」をご紹介! 文法を「人間の認知能力」から研究する、「認知言語学」をベースにした書籍『英語秒速アウトプットトレーニング』(Gakken) から一部抜粋、再編集してお届けします。
兵庫県出身。神戸市外国語大学外国語学部英米語学科卒。米国ルイジアナ州チューレン大学にて国際政治を学ぶ。落語家の弟子、ラジオパーソナリティなどを経て、予備校では20 年以上にわたり大学受験生を教える。東京言語研究所にて西村義樹東京大学准教授(当時。現教授)、尾上圭介東京大学教授(当時。現名誉教授)らのもとで言語学を学び、2010年、同所で理論言語学賞を受賞。現在(株)スタディーハッカー・シニアリサーチャー。同社制作のYouTubeチャンネル「時吉秀弥のイングリッシュカンパニーch」にて英文法の解説を発信。著書に『英文法の鬼100則』(明日香出版社)『英語脳スイッチ!』(ちくま新書)など。
現在形=「今」ではない!
まずは現在形について。現在形といえば「今」の話と考える人も多いかもしれませんが、実はそうとも限りません。例えば「彼は私の兄弟です(He is my brother.)」というのは現在形の文なのですが、よく考えるとこれは 「今」だけではなく「いつもそうだ」という「現実」を表しています。「太陽は東から昇る」や「私は毎朝 7 時に起きる」といった文もそうです。つまり現在形は「今」だけではなく「いつもそうだよ」形ということになるのです。
過去形は「今/現在とは離れている」という感覚!
また過去形は「過去」の話と考えられがちですが、特に英語では「今じゃなくてあの時のことだよ」という「現在から離れている感覚」を強くもちます。
この「現在から離れている感覚」は助動詞の丁寧表現にも応用されます。英語で依頼をする時、Could you~?やWould you~?という表現を使うことがありますが、なぜ過去形になるのか疑問に思ったことのある人もいるのではないでしょうか。
これはCan you ~?や Will you ~?でお願いするよりも、過去形の Could you ~?や Would you ~?にしたほうが「相手との距離」を表現することができ、これによって敬意を表すことができるためです。このように「現在から離れている」過去形の距離感が、丁寧表現にも役立つのです。
進行形=「動作の途中で、まだ終わってないよ」形
続いては進行形。これは「今やっていること」と学んだ人も多いと思いますが、より踏み込んだ理解をするなら、「動作の途中であってまだ終わってないよ」を表す形と考えましょう。
ここまで紹介した現在形や過去形は動作の開始から終了までの一通りが行われることを表しますが、進行形は動作の途中で、まだ終わっていないことを表す点が異なります。
進行形になるのは動作を表す動作動詞です。動作動詞は、例えば下の図の「渡り始め・渡っている最中・渡り終わり」のように、動作に「開始・途中・終了」の 3 つの変化の段階があることを示します。進行形はこの途中を表すというわけです。
進行形は「やっている途中」というニュアンスから「もうすぐ完成」という意味も持ちます。例えば「今作っているとこだよ!」と言われたら「もうすぐできるよ」のような意味合いが読み取れるので、進行形は近い未来を表すこともできるということです。
状態動詞・知覚動詞はなぜ進行形にできない?
なお、進行形は「~している」という意味だと考える人も多いのですが、「~している」と訳せても、「変わらず続く状況 (住んでいる、知っているなど)」を表す状態動詞は進行形にできません。進行形は動作動詞のみに起きる現象なのです。
先にも少し触れましたが、動作動詞は「動作の開始→途中→完了」という 3 つの変化の段階を持ち、進行形は「変化していく動作の途中の段階にいる」ことを意味します。しかし状態動詞はこの変化の段階を持たず、「状態が変わらず続く」ことを意味する動詞です。つまり「変化していく途中の段階」がないので進行形にできないのです。
また see や hear などの知覚動詞も進行形にはできません。これは知覚動詞が「一瞬の気づきの動作」であり、「気づく途中にある」とは意識できないためです。
現在完了=「完了した状態を今持っている」
続いて現在完了を学びます。過去形との違いは「今、完了した状態を持っている」のか、「あのときの話であって今は関係ない」かになります。例えば日本語で「桜が咲いたね!」と言えば普通は「花が咲いた状態を今持っている」という意味です。このように「動作が完了した状態(=過去分詞)を今持っている(= have)」のが英語の現在完了の完了用法で、それゆえにhave+過去分詞の形で表します。
一方同じ「咲いた」でも「去年の桜は例年より早く咲いた」と言えば、「今ではない去年の話」です。これが英語の過去形の感覚です。
なお、「動作が完了した状態の出来事」をこれまでの人生の中で (いくつか) 持っている、という場合、これは現在完了の経験用法(~したことがある)にあたります。
現在完了の継続用法は「過去のある時点から今に至るまでずっと~している」ことを表します。一般に状態動詞が現在完了になると、継続用法になります。状態動詞は「ある状態が変わらず続く」ことを表すので、これを現在完了にした場合、「過去のある時点から今に至るまでずっとある状態が続く」という意味が出るのです。
また進行形を現在完了にしたものとして、現在完了進行形というものもあります。進行形は「動作の途中の状態が変わらず続いている(例:泳いでいる=泳いでいる最中の状態が変わらず続いている)」ということなので、これを現在完了にした現在完了進行形は「過去のある時から今に至るまでずっと~している『最中』にある」という意味になるのです。
過去完了=「過去より一つ古い時間」ではない!
続いてご紹介するのは過去完了。これは「過去より一つ古い時間を表すもの」と教わることが多いかと思います。しかし「過去のある時点で既に抱えていた状況・状態」を表すのだと考えた方が、格段に使いやすくなります。
過去完了の文は多くの場合〈過去完了の文+物語の舞台の時点を表す情報〉という組み合わせの英文になることが多いです。例えば「私が来た時には皆もう食べ終わっていた」という文なら「私が来た時」が「物語の舞台の時点」を表す過去形の文、「皆もう食べ終わっていた」が「その時点で既に抱えていた状況」を表す過去完了の文で表されます。
また、過去完了の進行形、つまり過去完了進行形〈had been ~ing〉というものもあります。こちらは「以前から、過去のその時点に至るまでずっと行われている『最中』だった行為」を表します。
Willとbe going toは同じではない!
未来の出来事を表す時はwill や be going to を使うと習うこともありますが、機械的に使うのは良くありません。それぞれの言葉に「どういう感じで未来を見つめているのか」の意味の違いがあるのです。
will は「意志(するつもり)」と「予想(だろう)」が基本の意味です。「心がパタンと傾いて」その場で意思決定したり予想したりする感じです。この「思っているだけ」の will に対し、be going toは「状況があることに向かって進行中」ということを表します。つまりwill よりもbe going toの方が「確実に起きる」感じが強くなるのです。
■ 時吉秀弥『英語秒速アウトプットトレーニング』紹介記事
第1回:STUDY HACKER|SVOCの丸暗記は無意味!? 「文法アレルギー」の人にこそ知ってほしい「文型」の真意とは
第2回:STUDY HACKER|「過去形」=「過去の話」と考えるのは誤り!?時制がわかれば英語がわかる!
第3回:STUDY HACKER|なぜ疑問文はDoから始まるか説明できますか?英文法の「意味」がわかれば、英会話にも効果抜群!(近日公開)
※引用の太字は編集部が施した