アメリカ元大統領バラク・オバマ氏が、8年間も同じタキシードスーツを着続けていた理由をご存じですか?
妻であるミシェル氏によると、オバマ氏はタキシードの身支度が10分程度で済むことを誇りに思っており、準備に時間がかかるミシェル氏に「キミは一体何分かかったんだい? 僕はこんなに早く準備できたよ」と冗談を言っていたそうです。*1
オバマ氏だけでなく、スティーブ・ジョブズ氏やマーク・ザッカーバーグ氏も、同じ服を着続けたことで有名です。
彼らが同じ服を着続けたのには科学的な理由がありました。
それは、「決断疲れ」を防ぐためです。
フロリダ州立大学のロイ・バウマイスター教授の研究により、人は1日に最大35,000回もの決断をしており、決断すればするほど精神的に疲れ、重要なことに集中できなくなることが判明しています。
あなたも毎日、服選び、朝食選び、通勤ルート選択で貴重な脳のエネルギーを浪費していませんか?
科学が実証する「判断疲れを防ぐ仕事術」で、本当に重要な決断に集中できる脳を取り戻しましょう。
「決断疲れ」が仕事のパフォーマンスを低下させる
「残業しているわけでも、移動が多かったわけでもないのに、夕方にはヘトヘトになっている……」
これは「意志の力」を使い果たしてしまったせいかもしれません。
フロリダ州立大学の社会心理学教授ロイ・バウマイスター氏によると、すべての決断は「意志の力」を消費するのだそう。*2
この「意志の力」の消耗は心身の疲労につながり、パフォーマンスを低下させるのです。
たとえば次のような些細な場面でも「意志の力」が働きます。
- 昼食になにを食べるか
- 朝早く目が覚めて、そのまま起きるかもう少し寝るかどうか
- 話したいのを我慢して聞き役に徹するかどうか
- 誘われた飲み会を断るかどうか
- SNSを見たいのを我慢して勉強をするかどうか
さらに以下の研究では、「意志の力」の消耗――つまり「決断疲労」がパフォーマンスを低下させると明らかになりました。
【実験内容】
被験者をふたつのグループに分け、体力テストを含むさまざまなテストを受けさせる。
グループA:色やブランドなどさまざまな選択肢のなかから日用品を選ぶ
グループB:選択肢は与えられず、日用品を受け取るのみ
実験の結果、どのテストにおいてもグループAよりグループBがいい成績をとりました。*3
肉体疲労と違い、決断疲れは自覚しにくいのが問題です。
知らないうちに「意志の力」を使い果たし、重要な局面で納得のいく判断を下すのが難しくなりかねません。
仕事でパフォーマンスを発揮し続けるためには、「決断疲れ」を甘く見ないことが重要です。
成功者の「選択肢削減戦略」とその科学的根拠
多くの成功者は重要な決断の精度を下げないために、あえて選択肢を減らす工夫をしています。
なぜなら、決断疲れによる脳のパフォーマンス低下を重く受け止めているからです。
コロンビア大学教授のシーナ・アイエンガー氏の「買い物客とジャムの研究」で、以下のような結果が出ました。
店頭に並べたジャムが6種類:買い物客の40%が試食に立ち寄り、試食した客の30%がジャムを購入
店頭に並べたジャムが24種類:買い物客の60%が試食に立ち寄り、試食した客の3%がジャムを購入
*4よりまとめた
この結果から、選択肢が少ないほうが購入の決断を下す確率が高いとわかります。
選択肢が多いのはいいことだと思われがちですが、実際には選択肢が多いほど決断に使う脳のエネルギーが増大し、「選択麻痺」に陥ってしまうのです。
「選ぶ」という行為は思っている以上に脳に負担をかけており、その影響を最小限に抑えるために、成功者たちは意図的に「選ばなくていい状況」をつくっています。
その具体例を紹介いたしましょう。
アメリカ元大統領のバラク・オバマ氏は大統領在任中、灰色か青色のスーツのみを着用する理由を、「私は決断する回数を減らそうとしている。食べるものや着るものについて、決断したくない。他に決断すべきことがあまりに多いから」と公言していました。*5
FacebookのCEOマーク・ザッカーバーグ氏も、グレーのTシャツを毎日着用しています。
それは、着用する服を選ぶ時間やエネルギーを節約したぶんだけ、仕事に力を注ぐためです。*3よりまとめた
アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏のプレゼンテーションでの黒いタートルネックにジーンズにスニーカーという装いは、みなさんもご存じのとおりでしょう。
ジョブス氏は「カジュアルでシンプルな服装」の「ノームコア」を取り入れ、日々の些細な決断を減らしていました。*3よりまとめた
このように、選択肢を減らす工夫は単なるライフハックではなく、「意志の力」という有限資源を守るための戦略です。
些細な判断に脳のリソースを奪われないようにすることで、より重要な判断に集中できる――それこそが、成功者たちが高いパフォーマンスを維持し続けられる理由のひとつなのです。
実践方法:科学的な「判断疲れ防止」システム
では、「決断疲れ」から自分を守り、大切な判断に集中するにはどうすればよいのでしょうか? 科学的に効果のある3つの方法をご紹介します。
1:重要な判断は午前中にする
新規事業の企画、重要な会議などは、「意志の力」を使いきっていない午前中のうちに行なうのがいいでしょう。
時間帯によって判断力が変化することは、次の研究からも明らかになっています。
心理学者ジョナサン・レバーブ氏とシャイ・ダンジガー氏らが仮釈放審査委員会における1112件の判決を分析し、1日を通しての仮釈放決定の割合を調べたところ、次のようなパターンが明らかになりました。
- 1日の始まり:仮釈放を認められたのは65%
- 食事休憩になる頃:仮釈放決定の割合はゼロ近く
- 食事休憩後:仮釈放を認める割合が向上
- 休憩後も審査を続けていくうちに、仮釈放を認める割合は低下し、ほぼゼロで終わる *6を参考にした
この例から、重要な判断を1日の終わりの頃に行なおうとするべきではないことがわかります。
夕方にはもう「意志の力」が残っていないからです。
夜中にネットショッピングをしていて、つい衝動買いしてしまった経験はありませんか?
これも、「意志の力」が消耗された状態によるもの。
「本当に必要なものか?」と検討する余力が夜遅くには残っていないためです。
仕事でのパフォーマンスを維持・向上させるために、時間帯を味方につけてみるのはいかがでしょうか。
2:休憩をはさむ
先述した刑務所の判事の決断の調査にもあるとおり、休憩後は「意志の力」が回復することがわかっています。
そのため、午後に短い仮眠をとって脳を休ませるのもおすすめです。
15〜20分程度の仮眠をとるだけでも脳の疲労が回復します。*7
実際に、GoogleやNASAでも仮眠制度が取り入れられています。 *8
机に突っ伏したり、椅子に腰をかけたまま目を瞑るだけでも大丈夫。
少しでも脳を休ませる工夫が大切です。
3:場所を変える
状況によっては、仮眠をとりたくてもとれない場合もあるでしょう。
そんなときは「場所を変えてみる」という方法もあります。
レバーブ氏とカナダのヨーク大学シューリック・スクール・オブ・ビジネスでマーケティングの准教授をしているニコール・ミード氏が行なった研究によると、「環境を変えることが、決断疲れを回復させるのに一定の効果がある」と明らかになりました。*9
- ミーティングでなかなか結論が出ないなら、別の会議室に移動して仕切り直しをする
- タスクによっては、自宅やカフェで作業する
このように、「場所」もうまく活用してみるとよさそうです。
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「選択肢を減らす」「重要な判断は午前中に行う」「適切な休憩や環境の変化でリセットする」――脳のエネルギーを守る小さな工夫が、集中力と判断力を向上させます。あなたも今日から試してみませんか?
※引用の太字は編集部が施した
*1 FRONTROW|夫人が告白「オバマ前大統領は8年間同じスーツを着ていたのに気づかれなかった」
*2 The New York Times|Why You Need to Sleep On It
*3 ダイヤモンド・オンライン|決断が多いほど疲労する?ジョブズやザッカーバーグに学ぶ「思考のミニマリスト化」
*4 日経BOOKプラス|「選択の科学」 選択肢は多いほどよい、わけではない
*5 フォーブス ジャパン|米国の歴代大統領に学ぶ、時間の有効な使い方
*6 DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー |どの「時間帯」に行動するかによって、 意思決定とパフォーマンスは大きく変わる
*7 STUDY HACKER|いつもネガティブな人に朗報。自己肯定感が高まる、朝イチと日中の “意外な習慣” があった。
*8 Business Insider Japan|三菱地所が導入した仮眠制度。15分から30分の仮眠はこんなに集中力が回復する
*9 NIKKEIリスキリング|買い物で「決断疲れ」感じたら… 消費者の賢い対処法
澤田みのり
大学では数学を専攻。卒業後はSEとしてIT企業に勤務した。仕事のパフォーマンスアップに不可欠な身体の整え方に関心が高く、働きながらピラティスの国際資格と国際中医師の資格を取得。日々勉強を継続しており、勉強効率を上げるため、脳科学や記憶術についても積極的に学習中。