
📘 新人さんのためのマーケティング講座 Season8
Season7では「なぜこの構造(仕組み)は崩れないのか」を20社の事例で深掘りしました。
Season8でも引き続き、現代のマーケティングの本質を事例で解き明かしていきます。
まだ過去のSeasonを読んでいない方は、そちらからどうぞ。
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原宿と大阪梅田に、今日も長蛇の列ができています。
「@cosme TOKYO」と「@cosme OSAKA」——国内外の女性とインバウンドでごった返す巨大なコスメの聖地です。アイスタイルの2026年6月期第3四半期累計の売上高は596億円(前年比19.7%増)・営業利益は28億円(同23.0%増)と、二桁の増収増益を維持しています。*1
百貨店のコスメ売場が苦戦し、ドラッグストアが値引き競争に疲弊する中で、なぜ@cosmeだけが異次元の購買熱量を生み出し続けているのでしょうか。
- 「失敗したくない」という本音に寄り添う——WEBのクチコミデータが物理的な「棚」になる
- 「物販の利益」に頼らない——メーカーの販促費を吸い上げる「二階建て永久機関」
- 「顧客の声(データ)」を循環させよ——B2CとB2Bを掛け算する視点
- よくある質問(FAQ)
「失敗したくない」という本音に寄り添う——WEBのクチコミデータが物理的な「棚」になる
従来の化粧品売場が抱えていた根本的な矛盾があります。消費者は「色々なブランドを自由に比較して試したい」のに、売場はブランドごとにブースで分断されていて、美容部員(BA)の視線が気になって試しづらい——。
@cosmeはこの矛盾を、データで破壊しました。
WEB上の@cosmeクチコミランキングで「殿堂入り」「ベストコスメアワード受賞」と評価された商品が、そのまま物理的な棚に並んでいます。*2 ブランドの論理ではなく、実際に使った人の声の順番で売場が編集されている。@cosme OSAKA の「セールスランキングタワー」はその象徴で、「今この店で一番売れている商品」をリアルタイムのランキング形式で展示しています。*3
顧客はスマホで見ていた画面(データ)のまま、リアルの売場で自分の手で試し、納得してカゴに入れられます。「絶対に買い物で失敗したくない」という現代の若者インサイトへの完璧な回答です。約500ブランド・約1万2,000点が「自由に試せる環境」として並んでいる——これはもはや化粧品売場ではなく、「クチコミデータが物理化した体験空間」です。*3
| 項目 | 従来の化粧品売場 | @cosme |
|---|---|---|
| 売場の編集権 | ブランドごとの出店(売り手の都合) | WEBの「クチコミランキング」(買い手の声) |
| 購買時の心理 | 美容部員に勧められて(プレッシャー) | みんなが良いと言っているから(圧倒的安心感) |
| 最大の収益源 | 商品を売ったマージン(物販単体) | メーカーからの「広告・マーケティング支援費」 |
| 2026年の価値 | 買い出しの場所・特定ブランドの窓口 | コスメのトレンドを体験・検証しに行く「聖地」 |

「物販の利益」に頼らない——メーカーの販促費を吸い上げる「二階建て永久機関」
@cosmeの真の稼ぎ頭は、商品を売る「B2Cの物販」ではありません。
2026年6月期第3Q累計のマーケティング支援事業の売上高は89億円(前年比27.0%増)。*1 これは化粧品メーカーを顧客とした「B2Bのメディア・マーケティング事業」で、メーカーが@cosmeというプラットフォームに広告を出したり、リアル店舗で「サンプリングやポップアップ」を実施するために支払う費用です。
なぜメーカーが@cosmeに巨額の予算を投じるのか。国内最大のコスメクチコミプラットフォームとして蓄積された膨大な購買・レビューデータを持ち、その場所でリアルな来店客に直接アクセスできるからです。あるメーカーからは「デパートやドラッグストア、専門店ではなく、@cosmeという新たなジャンルができた」という言葉が出るほど、その存在感は別格です。*1
アイスタイルの吉松CEO自身がこのモデルを「リテール事業を拡大してユーザーとの接点を最大化させ、そこで蓄積されたデータをマーケティング支援事業で活用するという好循環」と説明しています。*1
ユーザーが集まるほどデータの精度が上がり、メーカーからの広告費が増え、その予算でさらに魅力的なリアル体験(@cosme NAGOYA・@cosme HONG KONGなどへの新店展開)が作られ、さらにユーザーが集まる——データとリアルが互いを強化し合う「二階建て永久機関」です。

「顧客の声(データ)」を循環させよ——B2CとB2Bを掛け算する視点
@cosmeの事例から学べる最も根本的な問いは、「自社の売場やサービスを、モノと現金を交換するだけの片道切符の場所にしていないか」というものです。
顧客が自発的に残してくれた「声(クチコミ・データ)」を、次の顧客の体験(UX)に還元する——それだけで終わらずに、そのデータに「B2Bの広告価値」を乗せる。ユーザーが集まるプラットフォームはメーカーにとっての最良の広告媒体であり、その収益でさらに優れた体験が作られ、さらにユーザーが集まる。
この掛け算を設計できると、「顧客が増えるほど、メーカーからの収益も増える」という自己強化するビジネス構造が生まれます。
2026年のマーケティングは、商品をアピールすることではありません。顧客の「本音のデータ」を核にして、業界全体のプレイヤー(売り手と買い手)が巻き込まれる巨大な循環メディアをデザインすること——@cosmeの売上高596億円という数字が、その証明です。

【本記事のまとめ】
1. クチコミデータが「棚」になる——「失敗したくない」という本音への完璧な回答
ブランドの論理ではなく実際に使った人の声の順番で売場を編集することで、美容部員のプレッシャーなしに約500ブランド・約1万2,000点を自由に試せる環境を実現。WEBで見ていた「殿堂入りコスメ」をリアルの売場で手に取れるという体験が「絶対に失敗したくない現代の消費者インサイト」に直撃する。
2. 「物販の利益」に頼らない二階建て永久機関——B2Cのデータ蓄積がB2Bの収益を生む
マーケティング支援事業(第3Q累計)は売上高89億円・前年比27%増。国内最大のクチコミプラットフォームとして蓄積されたデータをメーカーへの広告・マーケティング支援として販売し、その収益で新店展開(NAGOYA・HONG KONG等)を加速する。ユーザー増→データ精度向上→メーカー広告費増→体験向上→さらにユーザー増という自己強化サイクルが回っている。
3. B2CとB2Bを掛け算する視点——顧客の声を「循環する資産」に変えよ
売場をモノと現金の交換場所で終わらせず、顧客の本音データを次の顧客のUXに還元し、そこにB2Bの広告価値を乗せる設計。顧客が増えるほどメーカー収益も増えるという自己強化するビジネス構造こそが売上高596億円・二桁増収増益の源泉だ。
よくある質問(FAQ)
@cosmeはなぜメーカー(ブランド)から嫌われないのですか?
@cosmeはメーカーにとって「競合」ではなく「最良の販促チャネル」として機能しているからです。百貨店や自社ECとは異なり、@cosmeはすでに「コスメを買いたい」という強い購買意欲を持ったユーザーが集まる場所です。しかも国内最大のクチコミデータを持つため、どの商品がどのターゲットに響くかを精度高く把握できます。メーカーからすれば「広告を出したときの投資対効果が最も高い媒体の一つ」という位置づけです。あるメーカーが「デパートやドラッグストアとは別の、@cosmeという新たなジャンルができた」と評したのも、こうした独自のポジションを認めているからです。
「リテールメディア」とは何ですか?他のビジネスでも使える概念ですか?
リテールメディアとは「小売業者が自社の顧客データや店舗スペースをメーカー・ブランドの広告媒体として活用するビジネスモデル」です。@cosmeはその典型例ですが、実は私たちの身近にも多くの例があります。スーパーがPOSデータをメーカーに販売する、ECモールがブランドの広告を掲載する、コンビニがデジタルサイネージで広告収入を得る——これらはすべてリテールメディアの一形態です。重要なのは「顧客が集まる場所には広告価値が生まれる」という原理で、自社のサービスに顧客データが蓄積し始めた段階でB2Bの収益化を検討できます。
@cosmeのビジネスモデルで、最も真似しにくい部分はどこですか?
「クチコミの蓄積量と信頼性」です。@cosmeは1999年創業以来、約25年にわたって積み上げてきた国内最大のコスメクチコミデータベースを持っています。このデータの量と質は後発が短期間で追いつけるものではありません。物理的な店舗やECは資金があれば作れますが、「ユーザーが信頼してクチコミを書き続ける文化」は一朝一夕には構築できません。逆に言えば、自社のサービスで「ユーザーが自発的に声を残したくなる仕組み」を早い段階で作ることが、長期的な競争優位の源泉になります。
*1|FashionSnap「アイスタイル2026年第2四半期は売上高21.2%増 アットコスメのリテール事業がけん引」(2026年2月21日)。2026年6月期上期(第2Q累計)連結売上高前年比21.2%増・営業利益23.0%増・マーケティング支援事業売上高60億4,800万円(前年比28.9%増)・リテール事業売上高308億2,600万円(前年比20.7%増)・吉松CEO「リテール事業を拡大することでユーザーとの接点を最大化させ、そこで蓄積されたデータをマーケティング支援事業で活用するという当社独自のビジネスモデルが好循環に入っている」・「デパートやドラッグストア、専門店ではなく@cosmeという新たなジャンルができた」というメーカーの声を確認。なお2026年6月期第3Q累計:売上高596億9,400万円(前年比19.7%増)・営業利益28億8,400万円(同23.0%増)・マーケティング支援事業売上高89億6,800万円(前年比27.0%増)
*2|アイスタイル公式プレスリリース「@cosmeベストコスメアワード2024」(2024年12月)。「@cosmeベストコスメアワード」はクチコミ情報をもとに支持された商品を表彰する賞・「殿堂入り」は複数回1位にランクインしメンバーからの支持を不動のものとしたアイテム・WEB上のクチコミランキングが店舗の棚構成に反映される「データが物理化する」仕組み・買い手の声が売場の編集権を握るという@cosmeの設計思想を確認
*3|アイスタイル公式プレスリリース「関西初のフラッグシップショップ『@cosme OSAKA』、9月1日グランドオープン」(2023年9月1日)。@cosme OSAKA(大阪梅田・ルクアイーレ3F・2023年9月1日開業)・売場面積約893㎡/270坪・取り扱いブランド数約500・商品数約1万2,000点・「@cosme OSAKAセールスランキングタワー」(店舗で今売れている商品をランキング形式で展示)・「ほぼすべての商品を自由に試せる環境」という売場設計・ブランドの垣根を越えた比較体験・@cosme TOKYOに次ぐ旗艦店という位置づけを確認
▼ 新人さんのためのマーケティング講座 Season8
現代のマーケティングの本質を事例で深掘りしていきます。
- 第1回:「消せない・加工できない・失敗するかもしれない」——そのカメラが、なぜ世界で売れ続けるのか
- 第2回:アシックスの靴は、何も変わっていない——それなのに、なぜ世界が熱狂しているのか
- 第3回:コスメは「数ヶ月で廃盤」が常識のはずだった——リップモンスターに何が起きているのか
- 第4回:「高すぎる」という声を無視し続けるアパホテルが、3期連続最高益を叩き出す理由
- 第5回:なぜZOZOは、アパレル不況のなかで取扱高過去最高を更新し続けられるのか
- 第6回:フェイラーは何も変えていない——それなのに、なぜ若者が抽選に殺到するのか
- 第7回:「カードが使えない、まとめ買い専用」——それでも週末に駐車場が満車になるロピアの構造
- 第8回:年200店舗ペースで首都圏を包囲するまいばすけっとの、誰も真似できない方程式
- 第9回:「お行儀のいい大学広報」を捨てた近畿大学に、何が起きたのか
- 第10回:スタジオアリスはなぜ、2段階値上げをしてもなお週末の店舗が埋まり続けるのか
- 第11回:シャトレーゼはなぜ、物価高の2026年に「安くて美味しい」を維持できるのか
- 第12回:「ホームセンター」という定義を捨てたカインズに、何が起きているのか
- 第13回:営業利益193%増・累積損失一掃——エスコンフィールドが「野球場」の概念を破壊した方法
- 第14回:千葉ジェッツはなぜ、Bリーグ史上初の売上50億円を叩き出せたのか
- 第15回:広島の夜に、帰ってきた歓声。——エディオンピースウイング広島が証明した記憶のマーケティング
- 第16回:ネットのクチコミが「棚」になった——@cosmeが売上596億円を叩き出す「二階建てプラットフォーム」の構造(本記事)
岡 健作(おか・けんさく)
株式会社新恵社代表取締役/スタディーハッカー(現(株)イングリッシュカンパニー) 創業者。
1977年生まれ、福岡出身。同志社大学卒業。2010年に創業。「Study Smart(合理的に学ぶ)」をコンセプトに、科学的知見に基づく英語パーソナルジム「ENGLISH COMPANY」を設立し、人気ブランドへと成長させる。 事業拡大の要として、自らオウンドメディアとSNSの編集長を兼任。オウンドメディアは最大500万PV、Instagramでは月間700万PV、フォロワー27万人規模のメディアにするなど、広告費に依存しない集客モデルを確立する。現在はその知見を活かし、「企業の認知獲得の専門家」として、論理とデータに基づいた再現性の高いメディア戦略・ブランディング論を発信している。
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