ハラスメント時代、上司はもう教えてくれない。

腕を組むビジネスパーソン

「新しい職場に配属されたけれど、上司は何も教えてくれない。あーあ、完璧にハズレだな」

――それ、本当にハズレ上司のせいでしょうか?

かつて、知識やノウハウは職場で教わるものでした。しかし、いまはその「当たり前」が劇的に変わっています。なぜならば2025年現在、上司は “教えにくい状況にある” からです。

叱ればパワハラ、詰めればメンタルケア案件。指導することそのものがリスクとなり、企業側も上司側も、誰もが慎重にならざるをえない時代です。

その一方で、AIはすでに指導不要な人材として静かに台頭中。もしあなたが、誰かに育ててもらうことを前提に働いているなら、そのポジションは真っ先にAIに奪われてしまうかもしれません。

本コラムでは、変わりゆく職場の構造と、あなたが、自分自身をどう育てていくべきかを解説します。誰も育ててくれない時代をどう乗り越えるか、一緒に考えていきましょう。

上司はなぜ教えてくれなくなったのか

「昔はもっと、上司が仕事のノウハウを教えてくれた」――そんな声を耳にすることがあります。では、なぜいま上司は教えてくれないのでしょうか?

理由のひとつは、指導=リスクという構造の変化です。

以下に、詳しく説明しましょう。

2020年6月に「職場におけるパワーハラスメント対策」が大企業で、2022年には中小企業で義務化され、企業のハラスメント対策は必須になりました。*1

そのため、パワハラ相談件数は2020年から2023年までに、約3.4倍ほど急増したといいます。*2

すると、「部下への指導やコミュニケーションを躊躇した経験がある上司は8割強」という調査結果も報告されるようになりました。無用なトラブルを避けるためです。*3

こうした背景から、多くの管理職は「部下への指導が、いつパワハラと受け取られるかわからない」というリスクを、常に意識せざるをえなくなっています。

たとえ善意のフィードバックであっても、受け取り方ひとつで問題化しかねない時代。結果として、上司は細心の注意を払って言葉を選び、できるだけ指導を避け、防衛的になってしまうのです。

つまり、上司は「教えない」のではありません。

「教えにくくなっている」のです。

それが、いまの職場のリアルだと言えるでしょう。

部下のことを考えながら頭を抱える上司

あなたを代替するかも? AIの存在

「教えにくくなっているなんて大迷惑。こっちはちゃんと教えてほしいのに」

そう考えるのは当然のことです。しかし、注意も必要です。なぜならば、いま私たちの身近には、いろいろ教えなくてもいい賢い働き手がいるから。

つまり――それはAIのことです。

世界経済フォーラムの最新調査「The Future of Jobs Report 2025」には、雇用主の40%がAI自動化による人員削減を予定していると示されています。*4

AIは感情に左右されることがなく、権利を主張することもなく、新しい指示にもすぐ対応してくれます。しかも、すでに大量のデータがインプットされており、検索から分析、アウトプットまで、人間の何倍ものスピードで処理してくれます。

まさに、「教えなくても賢く素直に動ける働き手」として、すでに現場で確実に存在感を高めているのです。

逆に、AIに代替されやすいのは、以下のような人材だと言えるでしょう。

  • 自主的に学ぼうとしない
  • 常に権利は主張する

つまり、「上司は何も教えてくれない。ハズレ上司に当たっちゃった」などと言いながら何もしないでいると、AI時代では「最もリスクの高い存在」になってしまうのです。

だらけるビジネスパーソン

これから残るのは「自走する人」だけ

前出の「The Future of Jobs Report 2025」には、今後の労働市場で需要が高まるソフトスキルとして、以下要素が挙げられています。*4

  • 分析的思考力
  • 創造的思考力
  • レジリエンス
  • 柔軟性
  • 機敏性
  • 好奇心と生涯学習

ここから読み取れるのは、社会が学び続ける姿勢や変化に適応する力を求めているということ。したがって、これから目指すべきは「自走する人」だと言えるでしょう。

――育てられる側から、自らを設計し育てていく側へ。

その意識転換こそが、これからのキャリアを左右するかもしれません。

笑顔で談笑するビジネスパーソン

自走力獲得に必要な「3つの設計思考」

では、「自ら学び・動ける自走力」はどうすれば身につくのか?――そのカギは、学びを偶然に任せず、自分で「設計」することにあります。

AIに代替される人の共通点は「受け身であること」。逆に、変化の激しい環境で成果を出す人は、学びの流れを自分でコントロールしています。

ここで紹介する「3つの設計思考」は、その土台をつくるためのものです。やり方自体はシンプルですが、すべて「上司や環境に依存せず、自分で知識と行動を循環させる仕組み」になっています。

(1)情報源はあえて絞る

情報があふれる時代、手当たり次第では深い理解や応用ができません。少数の信頼できる情報を繰り返し使うほうが、知識が一貫して積み上がり、行動に直結します。

たとえば営業スキルを伸ばしたいなら、一定期間(たとえば1〜3か月程度)以下のような絞り込みが有効です。

<情報過多で迷走しないための方法>

  • 信頼できそうなビジネス書を1冊選び、繰り返し読む
  • 動画なら、ひとつのシリーズに絞って継続視聴
  • SNSやブログでは、ひとりの発信者だけを追ってみる

「自分にとって理解しやすい」「実践のヒントがある」「共感できる」など、自分なりの基準でOKです。広く浅くではなく、狭く深くが、学びを確かなものにします。

(2)学びは翌日アウトプット

インプットした知識は、使うことで初めて「自分の武器」に変わります。24時間以内にアウトプットすれば、知識が定着し、実務への移行がスムーズになります(記憶は24時間以内に半分以上失われるとされるため *5)。

<知識をすぐ武器化するための方法>

  • 雑談のなかで「そういえば最近こんなことを学んだんだけど…」と話題にしてみる
  • 会議や打ち合わせで、学んだ視点を少しだけ加えてみる など。

ポイントは、完璧に理解していなくてもやってみること。実際に言葉にしてみることで、「自分がどこまで理解できているか」が浮き彫りになるでしょう。

(3)週1セルフレビュー

学びは「改善の連続」です。小さな失敗や違和感を早期に察知し、原因を特定すれば、成長速度は加速します。週1回の振り返りは、自走の軌道修正機能になります。

<学びの軌道修正のための方法>

  • 今週、何に迷った? どこで止まった?
  • それは知識の不足? やり方? 気持ちの問題?

たとえば、会議でうまく意見を言えなかったなら、「 考えがまとまっていなかった?」「反対されるのが怖かった?」などと内省してみましょう。次にやるべきこと、気をつけるポイントなどが明確になります。週に1度、簡単に書き出しながら行なってみてください。

「選ぶ」「使う」「振り返る」という循環は、他者の都合や環境に左右されず、自らを成長させるための最小構成の仕組みです。日々この流れを回し続ける人こそ、AI時代でも価値を発揮し続けられるでしょう。

***
「教えてもらえない時代」は、裏を返せば「自由に学べる時代」。自分だけの学び方を見つけ、自走力を武器に変化を楽しむキャリアを築いていきましょう。 

(参考)

*1: 厚生労働省|北海道労働局|労働施策総合推進法の改正(パワハラ防止対策義務化)について
*2: 株式会社エデンレッドジャパン|【社労士監修】パワハラ防止法|中小企業義務化で相談件数急増!定義・罰則も
*3: ダイヤモンド・コンサルティングオフィス合同会社のプレスリリース|「ハラスメント」トラブル回避のため、部下への発言を躊躇する上司が8割強【ハラスメント調査(管理職編)】
*4: World Economic Forum|The Future of Jobs Report 2025
*5: Universität Leipzig|H. Ebbinghaus (1885): Über das Gedächtnis - VII. Das Behalten und Vergessen als Funktion der Zeit.

【ライタープロフィール】
こばやしまほ

大学では法学部で憲法・法政策論を専攻。2級FP技能検定に合格するなど、資格勉強の経験も豊富。損害保険会社での勤務を通じ、正確かつ迅速な対応を数多く求められた経験から、思考法やタイムマネジメントなどの効率的な仕事術に大変関心が高く、日々情報収集に努めている。

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