「メンター」と「老害」の違いはどこにある?──優秀な人がやりがちな“残念な伝え方”

優秀な人がやりがちな“残念な伝え方”についてお話しくださる前田康二郎さん

経験や実績を積んだ優秀な人が、周囲に対してアドバイスをするのは自然なことです。しかし、その言葉に無自覚な「マウンティング」が潜んでいたら、せっかくのアドバイスも残念なものになりかねません。『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)の著者である前田康二郎さんは、メンターになる人と老害になる人を分ける分岐点は、「自分語り」をするかどうかにあると語ります。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

【プロフィール】
前田康二郎(まえだ・こうじろう)
1973年生まれ、愛知県出身。流創株式会社代表取締役。エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後、中国での駐在業務ののちに独立。現在は、利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行なっている。Podcast番組「THE VENTURE 〜ベンチャーで成功するための101のマインドセット〜」パーソナリティー。『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP)、『「稼ぐ、儲かる、貯まる」超基本』(PHP研究所)、『図で考えると会社は良くなる』(クロスメディア・パブリッシング)など著書多数。

若い世代であっても「老害」をしてしまうこともある

近年、よく見聞きするようになった「老害」という言葉ですが、じつはこの言葉が一般化したのは1970年代に遡ります。高度経済成長期のなかで大きく変化していく日本をめぐる状況に、年長の経営者や役員が対応しきれず、結果的に不祥事を起こすような問題を意味する言葉だったのです。

しかし、現在、一般的に認識されている意味は異なります。私自身は、「年齢や社歴、業務経験歴、実績などが少しでも上にある人が下の人に対していわゆる『上から目線』で行動を起こし、結果として相手に不快感を覚えさせる振る舞い」のことを老害と定義づけています。

老害と言うと、その字面から中高年層が若い世代に対して起こす問題と認識している人がほとんどだと思いますが、先の定義から言えばそうとは限りません。入社2年目の若手社員が1年目の社員に対して起こすこともありますし、年功序列制や終身雇用制が崩壊して転職市場が活況となっているいまなら、中途入社の年上の後輩に対して年下の先輩が起こすこともありえます。

若い世代であっても「老害」をしてしまうこともあると語る前田康二郎さん

老害をする人は、メンターと呼ばれる人と一致する

老害を起こしがちな人には明白な特徴が見られます。老害をする人は、「メンター」と呼ばれる人と一致するのです。シンプルに言えば、優秀で仕事ができる人です。過去に数十人のビジネスパーソンにインタビューをしたなかで、老害だと思われる人の出身大学や役職、仕事の経歴といったものを聞けば聞くほど、「私だったらその人の話を聞いてビジネスについて勉強したい」と思わされました。

そこから、「メンターにも老害にもなりえる人」と、「メンターにも老害にもなりえない人」に二分されるのだと考えたのです。優秀な素質をもっていてそのままメンターになれる人もいるけれど、そんな人も一歩間違えば老害にもなってしまうということです。

基本的には、ほとんどの人が一度はメンターになります。仕事の知識がまったくない入社1年目の段階では、メンターでも老害でもありません。しかし、2年目となると、新たに入社してきた1年目の後輩のメンターになります。たいていの場合、8割くらいの人は、後輩の相談に乗ったりアドバイスをしたりして、そのままメンターとして振る舞うことができます。

ところが、2割くらいの人は、2年目からでも1年目の後輩をなじるなど、老害を始めてしまうのです。そう言うと、若いみなさんのなかにも、「自分は大丈夫かな?」と思った人がいるかもしれません。

メンターとコミュニケーションをとっている様子

老害は自分を主役にし、メンターは他人を主役にする

老害をする人がもつ特徴はさまざまですが、代表的なもののひとつは、あらゆることに「点数をつけようとする」というものです。

優秀な人だからこそ、相手や物事の欠点もよく見えるからなのでしょう。相手を思えば、その欠点を指摘してあげることも大切です。しかし、その伝え方が問題なのです。その問題とは、「自分」を主語にして自分語りを始めることにあります。

たとえば、部下なりに一生懸命に作成した企画書に対して、「全然駄目だね、せいぜい50点というところ」「私だったらこうする」といった具合です。つまり、「あなたは50点で私は100点」「だから私のほうが優れている、私が正しい」と伝えているのです。たとえそのアドバイスが理にかなったものだとしても、言われたほうからすれば不愉快でしかありません。

一方、メンターになる人は、自分語りをしません。まずは「自分なりによく考えてつくったんだね、おつかれさま」と相手をほめたり労ったりしたうえで、「ただ、こうしたらもっとよくなって、(あなたが)評価されると思うよ」というように、あくまでも相手を主語にして伝えます。部下の立場から考えれば、どちらの上司をメンターとして慕いたくなるかは言うまでもないでしょう。

自分自身が老害にならないか心配な人は、たとえばグルメ情報サイトやECサイトの自分のレビューを振り返ってみてもいいと思います。老害をする人は、「自分こそが正しい」と思っていますから、5点満点で1点をつけるなど厳しいレビューを書き込む傾向があります。「私はこれまでにこんな高級レストランで食事をしてきたが、この店は……」と苦言を呈しながら、「自分がいかにすごい人間か」と自慢しようとするのです。

対してメンターになる人はむやみに点数をつけようとしませんから、レビューを書き込むこと自体が少ない傾向にあります。もし書き込むとしても、1点をつけるようなことはしません。高得点をつけたうえで、先の例ではありませんが「ここが改善されるともっとよくなる」とか、あるいは「このすばらしいお店をもっとたくさんの人に知ってほしい」など、店の人間やほかの利用者のメリットになりえる書き込みをするのです。

あなたは、「相手のため」という建前で、ただの自分語りや自慢をしていないでしょうか? そこが、将来的にメンターになるか、それとも老害と言われる人になるかの大きな分岐点です。

優秀な人がやりがちな“残念な伝え方”についてお話しくださった前田康二郎さん

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メンターになる人、老害になる人。

メンターになる人、老害になる人。

  • 作者:前田康二郎
  • クロスメディア・パブリッシング(インプレス)
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【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)

1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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