日々の勉強に勤しんでいる大学生や、毎日多くの仕事に追われているビジネスパーソンの皆さん。集中力が長く続かず、思うように勉強や仕事が捗らない……。こんな悩みを持っている方はいませんか。できれば集中力が高い状態をずっと維持したいものですよね。
でもじつは、人間の脳は長い時間集中できるようにはできていません。したがって、この限りある集中力を上手に発揮するために考えるべきは、集中力の維持の仕方ではなく、オンとオフのスイッチをうまく切り替えて “意識的に” 集中力をコントロールすることなのです。
そこで今回は脳科学の観点から、ここぞという場面で集中力を発揮するための “切り替え術” をご紹介していきます。
“切り替える” に才能は要らない
オンとオフを切り替えると言われても、自分には難しそうだ……。そう思われる方も中にはいるかもしれませんね。しかし脳科学者の茂木健一郎氏は、自身の著書『脳を最高に活かせる人の朝時間』の中で、以下のように述べています。
切り替えベタは生まれ持ったその人の性格ではありません。何度も繰り返し訓練して、回路を鍛えているか否かといった、じつに単純な要因が大きいのです。
(引用元:茂木健一郎 (2013),『脳を最高に活かせる人の朝時間 頭も心もポジティブに』, すばる舎.)
では、ここで出てくる「回路」とはいったい何なのでしょうか。じつは私たちの脳には、何もせずぼーっとしているときに起動するデフォルト・モード・ネットワーク(Default Mode Network:以下DMN)という脳内ネットワークがあるのです。
DMNの働きは、大きく分けて2つあります。1つめは脳のアイドリング。自動車のアイドリングを想像すればわかりやすいかと思いますが、来たるべき次の行動に備えて脳のエンジンをつけたままにしておくのです。2つめは脳のメンテナンス。直前までのインプットしていた内容をいったん整理し、様々な場所に散らばった過去の記憶とつなぎ合わせることで、脳内を最新の状態にアップデートしています。
自分では単純にぼーっとしたりダラダラしたりしているつもりでも、脳は意外と活発に動いています。「ちょっと疲れたな……」と感じたら、ただぼーっとするのではなくDMNの働きを “鎮める” 行動を取る。アイデアに詰まって集中力が途切れてしまったら、あえてぼーっとしてDMNを “起動させる”。このような切り替えをすることで、後の勉強や仕事のここぞというときに大いに集中力を発揮できるようになりますよ。
集中力アップのための脳の切り替え術
それではここからは、今日からできる3つの実践的な行動をご紹介していきます。
1. 瞑想をする
瞑想を生活の中に取り入れるのは、脳のオフ状態への切り替えを習慣づけできる方法のひとつです。アイデアに行き詰まったときは、DMNの助けを借りて脳内を一度整理しましょう。
茂木健一郎氏は、呼吸をゆっくり整えながら5~10分ほど続けることを推奨しています。心と体を休める効果があるだけでなく、不安や悩みに負けそうな場合のメンタルトレーニングとしても有効だそうですよ。
2. 昼寝をする
“昼寝” と言うと罪悪感を覚える方もいるかもしれませんね。しかし最近の研究によれば、たった10分間の昼寝を取ることで脳がずっと明晰になり、注意力も上がるのだそう。自宅で勉強しているのであればベッドで少し横になる、オフィスで仕事をしているのならば休み時間に少しだけ目を閉じるなどし、思いきって脳そのものを休ませてしまいましょう。
ちなみに、ただ脳をリフレッシュさせるだけでなく、アイデアが求められる作業をしたい場合は、10分間ではなく90分間の睡眠が必要です。オフィスで実践するのは少し難しいかもしれませんが、自宅で作業をするときのために、ぜひ頭に入れておいてくださいね。
3. 全く別のことをやってみる
茂木氏は息抜きとして、よくイラストを描いているのだそう。勉強や仕事とは関係のない全く別のことをやってみることで、「なぜ、こんなことをしているのだろう?」という本質的な行動原理を、直前までの行動の文脈から脳が探り出します。それが、集中力が再度復元するのに役立つと、茂木氏は述べています。
たしかに、行き詰まってしまった状態で思考を前に進めようとしても難しいものがありますよね。それまで取り組んでいた作業から一度離れてみることで、思考が良い具合に整理され、リフレッシュな状態で作業を再開できますよ。
*** 私たちがやるべきことから気を逸らしている時間は、じつに1日の46.9%に及ぶと言われています。スケジュールの中に意識的にオフ状態を取り入れて、生産性の高い充実した1日を過ごしましょう。
(参考) Harvard Business Review|Your Brain Can Only Take So Much Focus 茂木健一郎 (2013),『脳を最高に活かせる人の朝時間 頭も心もポジティブに』, すばる舎. 茂木健一郎 (2017),『膨大な仕事を一瞬でさばく 瞬間集中脳』, すばる舎. 日経サイエンス|浮かび上がる脳の陰の活動 DIAMOND ONLINE|「脳のアイドリング」が人間を最も疲れさせる DIAMOND ONLINE|「何もしてないのにダルい…」には、こんな脳科学的メカニズムがあった