「この資料、作成お願いできますか?」 「今度のプロジェクトのマネジメントを頼みたいんだけど……。」 「次の飲み会の幹事、お願いできないかな?」
優秀な人には、いつだって仕事の依頼が降りかかります。 そんな時、あなたはどんなふうに反応していますか? 時間がない、忙しい、正直余裕がない、そんなふうに考えながらも、結局「はい! やっておきます!」と答えているのではないでしょうか。
仕事を引き受けることは、そんなに難しいことではありません。でも、断ることは、その何倍も難しいものです。今回は、なにが本質的に大事なのかを見極め、「断る」ための技術を伝授しましょう。
あなたにしかできない仕事はまずない
仕事をなんでも引き受ける人は、他人からの評価を下げたくないあまり、NOと言えなくなっている傾向にあります。また「自分がやらなければこの仕事は終わらない」と考えているのではないでしょうか。
しかし一旦考えてみてください。あなたの取り組もうとしている仕事は、あなたでなくては本当にできない仕事ですか? あなたが病欠した時、職場を離れた時、誰か代役としてその仕事をスムーズに終わらせてくれた、なんてこと、思い返してみれば結構あるのでは?
とはいっても、いきなり仕事を断って誰かに放り投げる……というのはハードルが高いはず。ですから、まずは振られた仕事を共有して、負担を減らす、ということを考えてみましょう。どんな仕事であったとしても、孤独に頑張り続ける必要性はないのですから。
対面コーチングやモチベーションアップ研修のプロフェッショナルである藤由達蔵氏は、著書の中でこう述べています。
私たちが一人できることなどはたかがしれています。仕事はとくに、他人との連携、協力、協働、共鳴がなければ成立しません。知恵がなければ、誰かに借りればいいのです。(中略)「自分一人」という殻を破り捨てて、世界を味方につけて進んでいきましょう。
(引用元:藤由達蔵著(2016),『結局、「1%に集中できる人」が全てを変えられる』, 青春出版社.)
自分しかできない、一人でやらなくちゃ、と考えるのではなく、だれにでもできるはず、誰かと一緒にやろう、というふうに思考を切り替えましょう。
自分から取りに行くか? と自問する
そうはいっても、自分の成長のためには全ての仕事を断るわけにはいきません。ビジネスパーソンであれば、やりたい仕事や、挑戦してみたいプロジェクトだってあるでしょう。そうしたことには、積極的に時間と労力を投資すべきです。
しかしここで問題になるのが、人間はしばしば「やりたい」を捏造するという事実です。
何か面倒な仕事や重めのタスクを振られたとき、自己正当化のために「いや、でもこの仕事は前からやりたいと思っていたし……。」「これは自分の成長のためになるから……。」といった具合に、「やりたいの捏造」をはかるのです。
耳が痛い人もいるかもしれませんね。とくに、人には「授かり効果」という心理学上のバイアスが働くことが知られています。授かり効果とは、「自分が所有するモノのほうを、所有していないモノよりも、その価値を高く評価する」という現象です。
こんな実験があります。ランダムに選んだ被験者の半数にマグカップを与え、残りの半数には与えないでおきます。そこで、所有したグループには、いくらでそのマグカップを手放すか尋ね、所有していないグループにはいくらでマグカップを手に入れたいか尋ねました。
すると、所有しているグループは「約5ドルもらえないとマグカップを手放さない」と答えたのに対し、所有していないグループは「マグカップを手に入れるのに約2.5ドルなら払ってもいい」と答えたのです。
このように人間は、自分のすでに持つものに価値を感じてしまいます。仕事だって同じ。任せられた仕事には、なんらかの価値があるのではないか、と思い込んでしまうのです。そこから逃れるためには、どの仕事なら受ける、どの仕事なら断る、という明確な判断基準が必要となってきます。
おすすめは、マグカップの実験と同じ質問を自問してみることです。
思わぬチャンスが舞い込んでいたとき、「このチャンスを逃したらどう感じるか? 」を考えるかわりに、「もしまだこのチャンスが手に入っていなかったら、手に入れるためにどれだけのコストを払うか? 」と考えるのです。
(引用:高橋璃子著 (2017),『マンガでよくわかるエッセンシャル思考』, かんき出版.)
この仕事をやらなかったら……? と考えると、もったいなく感じてしまうもの。そうではなく、この仕事を手に入れたいか? と考えるようにすることで、今の自分が本当にやらなければいけない仕事を見極められるようになるはずです。
でも、負荷をかけないと成長できないのでは?
これまでこの記事が紹介したことは、読んでみればなんてことはない、非常にシンプルで常識的なことだとわかります。しかし、読んでいてこう感じた人もいるのではないでしょうか。
「断る力は、すでに実力のある優秀な人が使うべき人なのではないか。まだ実力の伴わない若い人は、まずは限界を超える負荷をかけ、なんでもかんでもやってみることからはじめるべきなのではないか」と。
確かに、そうした一面もあるかもしれません。成長のためには、負荷をかけることは必須です。しかし、それは何を目的に掲げるか、どんなことを成し遂げたいか、という目的設定によって変わるのではないでしょうか。
成長というのは、何か1つ目標を決めないと定義できません。サッカー選手を目指す子供が野球の練習をしても、成長とは言えません。目標に対して前進したか否かによって、その行動が成長に繋がるかどうかが定義されるのです。
けれども、仕事になるとそれを忘れてしまう人があまりに多いと感じます。
例えば営業成績でナンバーワンになることが目標なのに、他の部署の先輩から急に振られた仕事をこなすことや、会社の飲み会のセッティングを毎回任せられることは、果たして本当に「成長」と言えるのでしょうか。
もちろんこの場合でも、先輩の歓心をかうことで昇進のロードマップが描きやすくなる、という思考と意思決定をしているのなら問題はありません。何も考えずに仕事を引き受けてしまうことが問題なのです。
まずは、自分の中で「どんなことを成し遂げたいか」という目標を改めて考えてみてください。そしてその目標からあまりにも外れた仕事に関しては、「断る」勇気を持ちましょう。あまり重要でない仕事や雑用から解放されることで、本来の仕事に集中することができるはずです。
*** 明確な判断基準を自分の中に持ち、きちんと断る。この力を身につければ、きっとあなたのワークライフも楽しくなりますよ。
(参考) 藤由達蔵著(2016),『結局、1%に集中できる人」が全てを変えられる』, 青春出版社. 高橋璃子著(2017),『マンガでよくわかるエッセンシャル思考』, かんき出版. 毎日新聞社MACS|#79 授かり効果 Endowment Effect