「最近、残業ばかりしている」
「仕事は定時に終わらせて、夜は勉強を進めたいのに今日も残業だ……」
リモートワークの導入やDX化など、働き方が変化している昨今。
一方で、いつも残業することになってしまう……という人もいるのではないでしょうか。
経済協力開発機構(OECD)が公開している2023年のデータによると、日本のひとりあたりの平均年間労働時間は1611時間。OECD加盟国のなかでもっとも労働時間が短いドイツの1343時間に比べると、268時間の差があります。*1
さらに、ドイツは労働生産性でも日本を上回っています。公益財団法人 日本労働生産性本部の調査では、2023年の1時間当たりの労働生産性はドイツが96.5ドル、日本が56.8ドルでした。*2
つまり、ドイツのビジネスパーソンは、短い労働時間で日本の1.5倍以上の成果を生み出しているということです。
日本のビジネスパーソンも、ドイツでの働き方から学ぶことがあるのではないでしょうか。
本記事では、効率のいいドイツ式の働き方のポイントと、日本のビジネスパーソンが取り入れるべき実践方法をご紹介します。
ドイツ式効率のいい【時間管理術】
ダラダラと仕事をしていては、労働時間が伸びるばかりで生産性があがりません。短い時間で成果を出すには、「いつ・何をするか」といった時間管理が重要です。
ドイツに10年以上駐在し、ドイツ式ライフスタイルコーチとして講演などを行なう西村栄基氏は、現地のビジネスパーソンが「脳のリソースの限界を認識し、時間帯によって効果的に業務を分散している」と言います。*3
たとえば「電話が鳴り、雑談やミーティングが断続的に行われているオフィスでは、集中力の維持は困難」であることから、7時から8時頃に出勤して、静かな環境で集中して仕事をする人が多いそう。ドイツでは、午前中は「最も創造性が高まる時間なので、新しいものを生み出すクリエイティブなタスクに使うべき」という考え方が根付いているのです。*3
そして「朝の集中タイムで得たアイデアや成果を基に」、午後には会議や商談といったコミュニケーションをとると言います。西村氏は、早い人は午後3時半には一日の業務を終えていたと現地での様子を振り返っています。*3
ドイツでは、職場の状況や集中力の変化に合わせて、タスクの順番を調整することで効率化を果たしていると言えるでしょう。
日本での実践方法
日本に住む私たちが、生活リズムや就業時間を前倒しにするのは難しいかもしれませんが、時間帯ごとにタスクを振り分けることはできそうです。集中力や創造性の高まる午前中は、アイディアを出したり文章を書いたりする作業にあて、午後に話し合いや単純作業をするといった具合です。
タスクを振り分けるときは、リストを活用するのがおすすめ。ドイツ在住のジャーナリストである熊谷徹氏は、現地では次のようにリストを取り入れている人が多いと述べています。
退社する時には、次の日に達成するべき課題を、箇条書きにして自分の机の上に置いておく。すると、翌日出社してきた時に、何を仕上げればよいか一目瞭然で分かる。その日は、課題リストに記した事柄だけに集中する。課題をやり終えたら、線を引いて消す。 *4
つまり、ToDoリストを前日のうちに書いておき、翌日「今日のタスクは……」と考える時間を削減しているのです。これによって、集中力の高い貴重な朝の時間を無駄にせずに済みます。
また、タスクごとに「午前」「午後」と取り組む時間をメモしたり、午前と午後でリストを分けたりすることで時間管理もしやすくなるでしょう。
ドイツ式効率のいい【会議術】
打ち合せや商談など、人と会って行なう業務が多く「時間の短縮が難しい」と感じている人もいるでしょう。しかし、ドイツ式の仕事術では、会議も効率化が可能です。
前出の熊谷氏は「ドイツ人は長いミーティングを嫌う」ため、「どんなに長くても1時間以内で終える」と言います。会議を簡潔にするために「事前に会議の議題を書き出して全員で共有」しているそうです。*4
たとえば、会議の日程を共有するときに「営業成績の報告と翌月の目標発表」といったように議題も連絡するといった具合です。
話し合う内容が事前にわかっていれば、それらが済んだ段階で会議を終わらせることができます。議論がわき道にそれても軌道修正がしやすいですし、新たな課題が上がっても「次回の会議までに整理して結論を出す」と伝えればいいのです。
また、議題を書き出しておくことは、会議のあとに議事録や報告書が必要な場合にも役立ちます。前出の西村氏によると、ドイツ人の同僚は「会議前に、あらかじめ議事録のテンプレートを作って」いたそう。*3
日時や参加者、議題などを事前に書いておき、会議中にそれらを埋めていくことでリアルタイムで議事録ができるのです。この方法なら、あとから資料を見返して議事録を書くよりも時間がかかりません。
テンプレートのなかでも「特に重要なのは、アクションアイテム(会議で決定されたやるべきこと)」だと述べる西村氏。「会議の最後に、参加者全員で確認し、合意を得」ることで、会議で決まったことや今後の課題を明らかにできます。*3
これは議事録の正確さだけでなく、会議を次の行動につなげるためにも重要です。
日本での実践方法
会議は複数の人が参加するため、すぐにドイツ式の会議方法を取り入れるのは難しいでしょう。そこで、まずは自分が主導するチームのミーティングや上司と1対1の面談、担当しているクライアントとの打ち合わせなど、小規模から実践するのがおすすめです。
チームミーティングであれば、事前に議事録のテンプレートをつくり、そこへ記載してある議題をメンバーに共有します。ミーティング中に話し合いの内容を書き加えて、すべての議題に対するアクションアイテムの合意を得たら終了とします。
会議を効率化するには、議題のリストアップや議事録のテンプレート作りといった準備が重要です。自分の実践できる範囲から取り入れてみてください。
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今回ご紹介したドイツ式の仕事術は、タスクの振り分けや議題のリストアップなど、事前準備にかかわるものが中心となっています。仕事をする前の準備にこそ、効率化のヒントがあるのです。
作業や話し合いに取り掛かる前にひと手間を加えることで、労働時間を短縮しながら成果を出せるようになるでしょう。ぜひ試してみてください。
※引用の太字は編集部が施した
*1 OECD|Hours worked
*2 日本生産性本部|労働生産性の国際比較2024
*3 西村栄基(2024), 『ドイツ人のすごい働き方 日本の3倍休んで成果は1.5倍の秘密』, すばる舎
*4 TCG REVIEW|最終回 ドイツ流の働き方から学ぶ、「働き方改革」へのヒント
藤真唯
大学では日本古典文学を専攻。現在も古典文学や近代文学を読み勉強中。効率のよい学び方にも関心が高く、日々情報収集に努めている。ライターとしては、仕事術・コミュニケーション術に関する執筆経験が豊富。丁寧なリサーチに基づいて分かりやすく伝えることを得意とする。