最強の振り返りメソッド「KPT法」で、失敗を反省するどころか、長所も希望も見つかった話

最強の振り返りメソッド「KPT法」で、失敗を反省するどころか、長所も希望も見つかった話

日々の失敗を反省し改善していくことで、人は成長できるわけですが、なかには「失敗するとひどく落ち込んでしまい、反省するのがつらい」という人もいるはず。ですが、そんな人でも「KPT法」という振り返りのフレームワークを使えば、前向きに日々の振り返りができ、改善につなげることができますよ。

今回は、KPT法とはどういうもので、どんなメリットがあるのかを、わかりやすく解説していきます。筆者が実際にKPT法をやってみましたので、その模様も画像つきでご紹介しましょう。

KPT法とはなにか

KPT法とは、取り組んでいる仕事や活動を改善するための振り返り方法のひとつ。現状を見直す際に、Keep(このまま継続すること)」「Problem(課題)」「Try(解決策)という3つの項目、すなわち「KPT」を書き出し、今後どうするかを考えるものです。シンプルな手法でありながら、ひとりでも集団でも活用できるうえに、仕事以外のプライベートな取り組みなどにも使うことができる、じつに優秀な振り返り方法です。

開発手法の一種であるアジャイルソフトウェア開発のコンサルタントで、『これだけ! KPT』を著した天野勝氏によれば、KPT法の原型はアメリカのコンピュータープログラマーであるアリスター・コーバーン氏が発案したのだそう。

コーバーン氏が提唱した「反省会の出力サンプル(Sample poster from reflection)」の中で、「Keep these」「Problems」「Try these」というキーワードが使われており、それがKPT法の起源です。これをもとに、「Keep」「Problem」「Try」の3つのセクションを使った振り返り術「KPT(ケプト)」を考案したのが、天野氏が所属する永和システムマネジメントの代表取締役社長を務める平鍋健児氏。

平鍋氏は、「コーバーン氏から教えてもらった」というKPT法をアジャイル開発の現場で多用し、2005年にはすでに「KPT法のヘビーユーザー」だと公言しています。同氏によれば、アジャイル開発においてKPT法は欠かせないもの。スピード感を重視し、短期間での開発を繰り返して改良を重ねるためには、KPT法による改善策の洗い出しが大変効果的なのです。

それが現在では、ほかの業種のプロジェクト運営などはもちろん、仕事以外のチームの能率アップや個人での生活の見直しなど、あらゆるシチュエーションで活用されています。

KPT法による振り返りの手順

KPT法での振り返りは、以下の手順で行ないます。ひとりでも複数人でも、基本的なやり方は変わりません。ただ、KPTの各項目を何に書き出すかは、振り返りを行なうシチュエーションに適したものを選びましょう。手帳などの紙ホワイトボードはもちろん、パソコンでまとめることも可能です。

KPT法の手順
  1. 【図1】のように線を引き、スペースを「Keep」「Problem」「Try」の3つのセクションに分けます。スペースの区切り方と3つの項目の割り当て方はこの形がもっとも一般的であり、この後の作業効率や表としての見やすさを考えても、この形が理想的です。
  2. 「Keep」の欄に「うまくいったこと・このまま継続すること」を書き出しましょう。このとき、色つきのペンを使用したり、色つきの付箋に記入して貼ったりすれば、視認性を高くすることができます。
  3. 「Problem」の欄に「課題・問題点」を書き出しましょう。色つきのペンや付箋を使用する場合は、「Keep」と区別しやすい異なる色を使ってください。
  4. 「Keep」と「Problem」の内容を受けて、「Try」の欄に「新たに実践すること・問題や課題の解決策」を書き出しましょう。
  5. 3つのセクションに書き出したものを再考して整理し、表を完成させます。
  6. 「Keep」「Problem」「Try」それぞれで挙がったことを、その後アクションとして実行していき、結果を再度KPT法で振り返りましょう。

    KPT法による振り返りの手順

    【図1】(図は筆者にて作成、以下全て同じ)

2回目以降の振り返りの際には、前回作成したKPTの表を引き続き使用し、改良や取捨選択を行なうことで、表をブラッシュアップしていきます。たとえば「Try」の欄に関しては、実践できたものは「Keep」に移動し、不要だと感じたものは削除する、などといった更新作業が必要です。

振り返りをするタイミングや頻度に決まりはありませんが、KPT法は定期的に、なおかつなるべく短いスパンで行なったほうがよいとされています。たとえば、1日を終えた夜や1週間の終わり、仕事をひとつ終えたときやプロジェクト終了後など、区切りのいいタイミングで実践すれば、振り返りもしやすいはずです。

KPT法の良いところはどんなところなのか

KPT法を使った振り返りには、ただ頭を抱えて反省会をするのに比べ、良い点がいくつもあります。実際、多くの有識者や著名人がKPT法を推奨。

たとえば、リーダー研修などを手がけるポテンシャルビジョン代表でタイムマネジメントコーチの山本武史氏は、「個人でもチームで使える魔法のフレームワーク」と絶賛しています。また、ソフトウェア開発を行なうソニックガーデン代表取締役社長で組織改革に関する著書がある倉貫義人氏も、「非常にシンプルだが強力な手法」と述べるなど、KPT法は優れた振り返り術として高く評価されているのです。

KPT法の良いところはどんなところなのか

具体的には、以下の点がKPT法の大きなメリットといえます。

メリット1. 問題を客観的に整理できる

KPT法では、反省内容を頭で考えるだけではなく文字で書き出すので、問題を可視化できるというメリットがあります。その際、「Problem」以外に「Keep」と「Try」も書き出すため、さまざまな角度から現状に向き合うことに。良くなかった点を挙げるだけの反省とは違い、良かったことやチャレンジすることも考えアウトプットすることになるので、状況を客観的に整理することができるのです。

メリット2. 全員が「Problem」に向き合える

企業のプロジェクトチームなどといった組織でKPT法を実践するときは、ホワイトボードなどに表を作成して、会議形式で意見を出したり書き込んだりする場合が多くなります。やっていることは普通の会議とほとんど同じように思えますが、じつはひとつ大きな違いがあるのです。

それは、参加者全員が同じ方向を向いて話し合うことができるという点です。会議では、立場や人間関係によっては、ほかの人の反応が怖くて正直な意見が言えないことがありますよね。また、他人と異なる意見を出すと、その人との関係が気になってしまう、なんてことも。このように、通常の会議では「vs人」の構図になってしまいがちです。

ですが、KPT法では課題や問題点を人に対して述べるのではなくて表に書き込むので、「vs Problem」という構図になります。さらに、「まずは書き出してみて、それからブラッシュアップする」というのがKPT法のスタイルなので、反対意見や他人の反応を気にすることなく自由に発言することが可能。全員が目の前の表に向かって、気がねなく話すことができるというわけなのです。

メリット3. 前向きに反省ができる

特に、ひとりでKPT法を行なう場合のメリットとして、「前向きに反省ができる」という点があります。振り返りといういわば「反省会」をひとりで行なうと、自分の失敗や良くない点ばかりに目が向きがちで、どうしてもネガティブな気持ちになってしまうもの。しかし、KPT法では、問題を客観的に見られるだけでなく、最初に「Keep」を書き出すため、ポジティブな気持ちで振り返りができるのです。

また、KPT法の表には「Try」の欄があるというのもミソ。企業へのインターネット戦略支援などを手がけるシナップの取締役・クリエイティブディレクターの大川貴裕氏によると、ひとりでKPT法を行なう際は、もっとうまくできている自分、つまり「Try」した自分を想像して楽しむのがよいのだそう。「反省点もあったが、次からはこうすればいい」と考えながら「Try」の内容を明確に書き出すことが、モチベーションアップにつながるのですね。

つまり、ポジティブに自らを高められるKPT法は、ミスに落ち込みがちな人に最適な振り返り術なのです。KPT法を行なえば、たとえ失敗したり壁にぶつかったりしても、悪い点ばかりに気を取られずに済みます。それらはむしろ自分が成長するチャンスだと、肯定的に考えることができるでしょう。

もちろんこのことは、チームでKPT法を行なう場合にも当てはまります。大川氏いわく、KPT法の良いところは「Problem」だけにフォーカスした「ダメ出し会」にならないところ。「Keep」をおさらいすることで、メンバーの気持ちが前向きになる効果があるそうですよ。

KPT法の良いところはどんなところなのか:前向きに反省できる

実際にKPT法で振り返りをやってみた

では、筆者が実際に個人での振り返りをKPT法で実践してみましたので、その工程を解説していきましょう。

今回筆者が振り返ったテーマは3つ。1つ目は「パソコンでの仕事が思うように進まず残業が長引いた」です。体調が悪いわけでもなかったのに、パソコンでの仕事がどうにもスムーズに進まず、定時になっても終わらなかったので、残業をしました。しかし、それでもやはり仕事がはかどらず、結果的にかなりの残業をすることになってしまったのです。

まずは【図2】のように、「Keep」の欄に「今後も続けるべきこと」を記入します。

「Keep」の欄に「今後も続けるべきこと」を記入する

【図2】

仕事上の悩みや不明点を解消するために、同僚が過去に仕上げた仕事を参考にしたという点は、良いことだと思ったので、「Keep」欄に記入しました。また、休憩時間の使い方や食事への気配りも、良かったと言っていいと思います。

これで「Keep」への記入が終わりました。次は【図3】のように、「Problem」の欄に課題と思える点や問題点を書き出していきます。

「Problem」の欄に課題と思える点や問題点を書き出していく

【図3】

まず、真っ先に問題として挙がったのが睡眠不足です。また、神経質かつ完璧主義であることや、残業ぐせがついてしまっていることも問題であると考え、書き入れました。

では最後に、「Try」の欄に新たに始めることや挑戦することを記入していきます。

「Try」の欄に新たに始めることや挑戦することを記入

【図4】

完璧を目指さない、という点はすぐに出てきました。また、「Keep」にある「ご飯を食べすぎない」という点に着目し、「もう少し食べたほうが頭が働くのではないか」と考え、適切な食事を取ることも入れてみました。さらに、「Keep」に記載した「同僚の仕事を参考にする」だけでなく、上司などにもアドバイスを求めて良いのではないかと感じ、そのことを「Try」に加えました。

これでKPT法での振り返り表は完成です

同じ手順で作成した、2つ目のテーマ「疲れて早めに寝ようとしたのになかなか寝つけなかった」のKPT表は【図5】のようになりました。

「疲れて早めに寝ようとしたのになかなか寝つけなかった」のKPT表

【図5】

3つ目は「予定を確認したらダブルブッキングしてしまっていた」という出来事の振り返りです。

「予定を確認したらダブルブッキングしてしまっていた」という出来事の振り返り

【図6】

なお、パソコンではなく、メモ帳と付箋を使ってKPT法での振り返り表を作ると【図7】のようになります。内容は1つ目のテーマ「パソコンでの仕事が思うように進まず残業が長引いた」です。

メモ帳と付箋を使ったKPT法

【図7】

いつでも書き込むことができ、付箋を剥がしたり別の欄に貼り直すことも簡単にできるので、ひとりでKPT法を行なう場合はこちらの方法でもよいと思います。今回実践した振り返りは1回のみでしたが、KPT法は定期的に継続していくことが大事なメソッドです。メモ帳でもパソコンでも、自分が手軽に触れられるフォーマットで表を作成しましょう。

KPT法を実践した感想

今回、自分が改善したいと思ったことについて3パターンのKPT法を行なってみました。一言で感想を言えば、純粋に良い振り返り術だと感じましたが、実践する過程で新たに気づいたことや、作成した表を踏まえて行動するなかで改めて発見できたこともありました。それらをまとめると、以下のようになります。

感想1. 「Keep」を記入することで、自己肯定感がアップする!

最初に「Keep」を記入することが、思っていたよりもずっと有意義に感じられました。あくまで、良くない部分を改善するためのメソッドだと思ってKPT法に取り組んだはずなのに、「Keep」の欄を記入していたら自らの良い部分をいくつも認識できて、前向きに反省できただけでなく、自己肯定感がアップする感覚がありました。

感想2. 「とにかく書いてみる」ことに価値がある!

3つ目のテーマの「予定を確認したらダブルブッキングしてしまっていた」を振り返っていたときに、「Problem」に書くことがなかなか思いつきませんでした。なぜなら、もともと筆者はきちんとスケジュール管理をしているつもりだったから。「Keep」に書くことはすぐに思いついても、よくない点がなかなか浮かばなかったのです。

しかし、表を完成させたときに感じたことが2つありました。1つは、このように書くべきことを考えて捻出する行為が、自らを省みるという意味でとても大事なのだということ。もう1つは、KPT法は何度も繰り返し行なうものなのだから、とりあえず書いてみることに価値があるということです。あまり慎重になりすぎずに思い切って書いてみて、やはり違うと感じたら次回修正していけばよい、と気づけました。気楽な気持ちで振り返りができるところも、KPT法の良さだと感じました。

感想3. 「Try」を考えるときには「Keep」も意識するといい!

「Try」の欄には、これから新たに始めるべきことや意識するべきことを記入していくのですが、このときに「Problem」の欄だけではなく、「Keep」の欄にもヒントが隠れていることを実感しました。問題点を改善するだけではなく、自らのよい点をさらに磨いていくように意識することが、ポジティブな振り返りのコツだということでしょう。

KPT法を実践した感想

感想4. KPT法を行なうと、希望を見つけられる!

KPT法での振り返りをやってみて、今まで気づかなかった改善への希望を見つけられたことによる嬉しさを強く感じました。「Problem」の欄ばかりが埋まって落ち込むのではないかと思っていたら、むしろ「Try」や「Keep」のほうがスラスラと出てくるので、いわゆる「反省会」という感覚にはまったくなりませんでした。

感想5. ピンポイントなテーマにするのがコツ!

KPT法のコツをひとつ挙げるならば、「あまりテーマを大きくしない」ことではないかと思いました。今回筆者が振り返ったようなピンポイントなテーマでも、書き出すことは十分にありました。ですので、たとえば1日の過ごし方すべてをひとつのKPT法の表にアウトプットしようとすると、膨大な量の情報であふれてしまうでしょう。

KPT法のよい点であるシンプルさを損なわないためにも、「仕事について」「プライベートについて」「友人関係について」などといくつかのジャンルに分けたうえで、テーマはなるべく具体的にして表を作成することをおすすめします。

感想6. 頭の中が整理されて、行動しやすくなる!

KPT法を実践したあとは、表に記入した内容を意識しながら実際に生活をしてみました。すると、早くも翌日から、スムーズに意識改革や行動の改善が実行できたように思えます。悩みや課題を一度KPT法でアウトプットして可視化したので、頭の中が整理されて行動するのがとても簡単になったのだと思います。

感想7. 振り返ったあとは、3つの項目すべてを意識することが肝心!

KPT法での振り返りの後は、つい「Try」に書かれた新たな取り組みばかりに意識が向いてしまいます。ですが、そのせいで普段できていたことが疎かになったり、問題点が改善できなければ意味がないことに気がつきました。つまりは、「Try」以外の項目も同じように大切なのです。「Keep」に書かれたことはきちんと続けて、「Problem」に書かれたことは改善できるように努力しなければいけない。そう実感しました。

***
ミスをして落ち込んだときに、自らのどこが悪いのかを振り返るのが苦手な人もいるでしょう。ですが、KPT法を行なえば、アウトプットをするだけでも気持ちが楽になり、悲観的にならずに客観的に自分を分析することができます。書き出してから次の行動に移すまで、ネガティブになるどころか楽しさを感じられるので、落ち込みやすい人でも続けていきたいと思えるはずです。

とてもシンプルだからこそ、頭の中を整理しやすいうえに煩わしさを感じることもないKPT法は、どんな立場の人でも気軽に生活に取り入れることが可能な、まさに「万能な振り返り術」だと思います。自らを変えられずに頭を抱えているなら、ぜひ一度KPT法を試してみることをおすすめします。

(参考)
天野勝 (2013),『これだけ! KPT』,すばる舎.
株式会社永和システムマネジメント|inside esm アジャイルの実践者たち
オルタナティブ・ブログ|An Agile Way KPTを使ったプロセス改善
Wikipedia|アジャイルソフトウェア開発
マイベストプロ香川|【WLBコラム】『【第8条】振り返りを習慣づけよ!(KPT法)』生き方改革vol20
Social Change! ソニックガーデン SonicGarden 倉貫義人のブログ|ふりかえりメソッド「KPT」の基本とはじめ方
DoRuby|生産的な振り返り方法「KPT」について
SINAP - 株式会社シナップ|BLOG ヒトリKPTのススメとそこからふりかえるKPTのコツ

【ライタープロフィール】
武山和正
Webライター。大学ではメディアについて幅広く学び、その後フリーのWebライターとして活動を開始。現在は個人でもブログを執筆・運営するなど日々多くの記事を執筆している。BUMP OF CHICKENとすみっコぐらしが大好き。

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