悩みは “切り崩す” ことで答えが出る。ビジネスで「哲学」が役に立つワケ

ビジネスと哲学

ビジネスの問題を解決しようとする過程で、壁にぶち当たることはありませんか? 

解決策を立ててもうまくいかない。解決策がわからない。そもそも、問題が何なのかはっきりしない……。こんなモヤモヤを晴らしたいとき、じつは役に立つのが「哲学」なのです。

哲学とは「問う」こと

哲学と聞くと、「小難しい」「実生活では役に立たない」といったイメージを抱くかもしれません。しかし、「哲学」というものはもっと単純なのです。哲学者の中島義道氏は、著書にこう書いています。

哲学の大きな特徴は、足元にころがっている単純なこと——そのテーマはおのずから決まってくるのですが——に対して、(中略)徹底的な懐疑を遂行することです。

(引用元:中島義道(2001),『哲学の教科書』, 講談社.)

哲学とは、ひたすら問うこと。「私はどう生きるべきか」ではなく、「“私” とは何だろう」「“生きる” とは何だろう」「“こうすべき ”としている価値観は、思い込みではないだろうか」というように、単純な物事への問いを繰り返し、真理に迫っていく学問なのです。

そして、哲学の思考法は、仕事や日常の問題にも応用できます。難しい問題に直面したとき、一問一答形式で答えを出そうとするのではなく、問題自体を小さく切り崩していくことで、本当の問いと答えが見えてくるのです。

ビジネスと哲学02

哲学思考法で問題を見つめる

たとえば、いま「会議でもっといい意見を出したいが、どうすればいいか」と悩んでいるとします。すぐにビジネス本に答えを求めたとして、根本的な解決になるでしょうか。一度立ち止まって、哲学の思考を試してみましょう。

哲学者としてコンサルティングを手がける吉田幸司氏は、哲学をビジネスに活かす「哲学シンキング」を提唱しています。「哲学シンキング」は以下の4つのステップ。

  1. 片っ端から問いを集める
  2. 問いを分類し、優先順位をつける
  3. ひとつひとつの問いを掘り下げる
  4. 真の問題を捉える

この手順で「会議でもっといい意見を出したい」という悩みを見つめていきましょう。

ビジネスと哲学03

1. 片っ端から問いを集める

はじめに、大元の問いに関連する新たな問いをたくさん作ります。問いを切り崩す作業です。このとき、それぞれの問いの良し悪しは気にしないでください。ありきたりでも突飛でも、何でもかまいません。

「今までの自分はどうだったか?」
「会議において、“いい意見” とは何か?」
「どんな意見が求められているか?」
「いい会議とはどんなものか?」
「自分は、仕事仲間にどう思われているか?」
「自分以外で、誰がどんないい意見を出していると思うか?」

2. 問いを分類し、優先順位をつける

次に、たくさん出した問いを2〜4つほどのグループに分けます。

  • 問題そのものの意味を問うもの
    「会議において、“いい意見” とは何か?」
    「いい会議とはどんなものか?」
  • 実際の会議について
    「どんな意見が求められているか?」
    「自分以外で誰がどんないい意見を出していると思うか?」
  • 職場での自分について
    「今までの自分はどうだったか?」
    「自分は仕事仲間にどう思われているか?」

そして、グループに優先順位をつけ、先に考えるべき問いを決めます。ここでのコツは、大元の問いから遠いものを優先することです。大元と同じようなことについて考えても、らちが明きません。本当の問題は、かけ離れたものや、屁理屈に見えるものにこそ潜んでいるのです。

  1. 問題そのものの意味を問うもの
  2. 職場での自分について
  3. 実際の会議について

3. ひとつひとつの問いを掘り下げる

2で決めた順に、ひとつひとつの問いについて考えていきます。

【問題そのものの意味を問うもの】であれば、以下のような具合です。

「会議において、“いい意見”とは何か?」
→まじめな意見は本当に良いのか? 
突飛な意見が活かされた場面は? 
意見そのものではなく、意見の扱い方に良し悪しがあるのでは? 

「いい会議とはどんなものか?」
→今まで「いい」と感じた会議は? 
「よくない」と感じた会議との違いは? 
そもそも会議に良し悪しはあるのか? 

哲学の思考で大切なのが、前提を疑うことです。

たとえば、「現在のフランス王は禿だ」という文の前提は「現在、フランスには王がいる」。しかし、実際は、現在のフランスに王はいませんから、「現在のフランス王は禿だ」という文は成り立たないことになります。

このように、前提は思い込みの種になります。問いを見つめるときも、「“いい意見” について考えているが、そもそも意見に良し悪しはあるのか?」と、前提を探し出して疑ってみましょう。視点をガラリと変えられます。

4. 真の問題を捉える

長くなるので割愛しましたが、3でひとつひとつの問いをさらに深めていくと、徐々に核心に近づきます。

「的確な意見を出さなければいけないと思っていたが、突飛な意見のほうが会議を活発にするのでは?」「たくさん意見を出したいと思っていたが、自分には意見をまとめる役割のほうが向いているのでは?」など、「会議でもっといい意見を出したい」ばかり考えていては思いつかなかった発見が得られるのではないでしょうか。

このように、大元の問題に隠れた真の問題を捉えることができたら、ようやく具体的な解決策を導けます。「非常識に思える意見も遠慮せず言ってみよう」「会議の中での役割を意識してみよう……」など、たどり着く答えは人それぞれです。

***
吉田氏は「哲学は、『考え方/思考』の総合学」だと言います。一見実用性がないように思える哲学も、そのエッセンスはビジネスに役立つのです。問題解決に行き詰まったとき、ぜひ「哲学」してみてください。

(参考)
吉田幸司(2020)),『「課題発見」の究極ツール 哲学シンキング 「1つの問い」が「100の成果に直結する」』, マガジンハウス.
中島義道(2001),『哲学の教科書』, 講談社.
Wikipedia|前提

【ライタープロフィール】
梁木 みのり
大学では小説創作を学び、第55回文藝賞で最終候補となった経験もある。創作の分野のみでは学べない「わかりやすい」「読みやすい」文章の書き方を、STUDY HACKERでの執筆を通じて習得。文章術に関する記事を得意とし、多く手がけている。

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