モヤモヤを整理して見える化する方法|「構造化思考」のフレームワーク

考えている様子

「なぜ会議は思ったように進まないのか?」「なぜ仕事の悩みは尽きないのか?」――その問いに対して、「原因は『見えない』ことにある」と答えるのは、スタートアップ企業の立ち上げなどに関わりながら、武蔵野大学で起業家精神を育むアントレプレナーシップ学部の教授を務める荒木博行さん。そうしたモヤモヤした状況から脱するには、荒木さんが提唱する「構造化思考」が有効だと言います。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

【プロフィール】
荒木博行(あらき・ひろゆき)
株式会社学びデザイン代表取締役。住友商事、グロービス(経営大学院副研究科長)を経て株式会社学びデザインを設立。株式会社フライヤーなどスタートアップのアドバイザーとして関わるほか、武蔵野大学、金沢工業大学大学院、グロービス経営大学院などで教員活動も行なう。音声メディアVoicy「荒木博行のbook cafe」、Podcast「超相対性理論」のパーソナリティーを務めるとともに、一般社団法人うらほろ樂舎のラーニング・デザイナー、株式会社COASにおけるホースコーチング・プログラムディレクターも務める。『裸眼思考』(かんき出版)、『独学の地図』(東洋経済新報社)、『自分の頭で考える読書』(日本実業出版社)、『世界「失敗」製品図鑑』(日経BP)、『藁を手に旅に出よう』(文藝春秋)、『見るだけでわかる! ビジネス書図鑑』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書多数。

判断軸や論点が可視化されるだけで、議論の質は向上する

新著『頭の中を整理して見える化する方法 構造化思考のレッスン』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を通じて私が提唱しているのが、タイトルにもある「構造化思考」です。ここで言う構造化とは、「複雑なモノや情報を、目的に最適なかたちで視覚的にわかりやすくまとめること」を意味します。

私が構造化の重要性に気づいた背景には、自分自身の経験があります。たとえば、社会人であれば、ミーティングがうまく進まず停滞してしまうような状況は誰もが経験していると思います。そのような状況では、「私はこう思う」「いや、それは違う」といった空中戦になりがちで、最終的に声が大きい人が勝つということがよく見られます。それでは、多様な視点が無視されたり心理的安全性が低下したり、そもそも結論が妥当とは言えないものになったりするなど、多くの不具合が生じます。

でも、そんなときに、論点や判断軸が可視化されるだけで、議論の質が大きく向上するというケースもよく見られます。実際、私自身もそういった状況を何度も目にしてきました。だからこそ、構造化思考のポイントは「可視化」にあると考えます。

オンオフ問わず、誰しもがひとつやふたつは悩みを抱えているはずですが、悩みにさいなまれるのは、悩みが可視化されておらずその正体がはっきりしていないからです。逆に、私の悩みはこういうものだ」と認識することさえできれば、解決策を考えるという動きにつながっていくのです。

もうひとつ、可視化の重要性を示す例を挙げてみましょう。ビジネスにおいて重要な思考法のひとつに、「クリティカルシンキング」があります。日本語で「批判的思考」を意味しますが、批判するにも題材が目に見えていなければ批判しようがありません。クリティカルシンキングを実践するにも、題材を批判できる状態にする、つまり可視化することが大前提となるのです。

判断軸や論点が可視化されるだけで、議論の質は向上すると語る荒木博行さん

構造化思考実践のためのフレームワーク「構造化の5P」

では、構造化思考について具体的に解説していきます。構造化思考は、私が「構造化の5P」というフレームワークに沿って進めます。

【構造化の5P】
Purpose          :目的(なんのために構造化するのか?)
Piece               :断片(具体的にはなにがあるのか?)
Perspective    :視点(目的と断片をつなぐキーワードは?)
Pillar                :支柱(どのくらいの単位でまとめるのか?)
Presentation   :表現(最適なビジュアル形式は?)

「思考を可視化する」と言うと、たとえばマトリクスやロジックツリーのような図にすることをイメージする人も多いのではないでしょうか。でも、なんでもかんでもマトリクスやロジックツリーにすればいいわけではありません。「なんのために構造化するのか」という「目的」次第で、最適なビジュアル形式も変わってくるからです。

たとえば、誰に対してどのような場面で使う構造なのか、それらの違いによっても、ざっくりしたものでもいいこともあれば、精緻なものでなければならないこともあります。だからこそ、見当違いなビジュアルのアウトプットをしないためにも、最初のステップとして目的を明確化することが絶対に欠かせないのです。

続いてのステップが、「断片」です。一例として、「いま抱えているタスクを構造化して整理する」という目的を設定したケースで考えてみましょう。タスクを整理するにあたって必ずやらなければならないのは、どのようなタスクがあるのかをすべて洗い出すことです。なぜなら、整理すべきものが見えていないのに整理することなどできないからです。これがまさに断片にすることを意味します。

構造化思考実践のためのフレームワーク「構造化の5P」について語る荒木博行さん

4つのステップを踏めば、最適なビジュアルはおのずと見えてくる

そうしてタスクをすべてリストアップしてみました。すると、「これとこれは同じようなたぐいのタスクだ」とか「これだけが仲間外れ」といったことが見えてきます。それらが、3つめのステップの「視点」を見つけるためのヒントになります。この例で言えば、たとえば「タスクの緊急度」といったものが視点となりえます。

4つめのステップは、「構造をどのような単位でまとめるのか」を意味する「支柱」です。タスクを緊急度という視点で分けるにも、緊急度の大小の2段階、大中小の3段階、あるいは1〜5の5段階に分けることもできます。どのような単位でまとめるのが最適なのかも、目的次第となります。

ただ、シンプルであるに越したことはないので、基本的に支柱は少ないほうがいいでしょう。仮に「100に分ける」ことにしたら、分けてまとめるだけでも大変ですし、100もの数になったものは「まとめた」とはとても言えません。認知の限界に達し、むしろ混乱してしまうだけでしょう。

最後に、ようやく「表現」を考えます。ここまでの4つのステップを踏んでいれば、どのようなビジュアルにすればいいかはおおよそあたりをつけられます。ただし、その判断をするためにも、マトリクスやロジックツリーのほか、ベン図、フロー図、ピラミッド図など、ビジュアル形式のバリエーションは知っておく必要があることもお伝えしておきます。

「構造化思考」のフレームワークについてお話くださった荒木博行さん

【荒木博行さん ほかのインタビュー記事はこちら】
最優先するべきタスク、合ってますか? 最終アウトプット力を高める「構造化思考」
「広げて、上がって、下がる」思考管理術。構造化思考で「視点」を整理すれば、やるべきことが見えてくる(※近日公開)
学びの専門家が語る「経験から最大限の学びを得られる人」になるための最重要習慣
質のいい学びが長く続く “理想の学び方”。「将来のために何を学ぶべきか?」は考えないほうがいい
仕事のパフォーマンスが上がる「効率的で実践的で即効性のある学び」を得るためのシンプルなコツ

構造化思考のレッスン

構造化思考のレッスン

  • 作者:荒木博行
  • ディスカヴァー・トゥエンティワン
Amazon
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)

1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

会社案内・運営事業

  • 株式会社スタディーハッカー

    「STUDY SMART」をコンセプトに、学びをもっと合理的でクールなものにできるよう活動する教育ベンチャー。当サイトをはじめ、英語のパーソナルトレーニング「ENGLISH COMPANY」や、英語の自習型コーチングサービス「STRAIL」を運営。
    >>株式会社スタディーハッカー公式サイト

  • ENGLISH COMPANY

    就活や仕事で英語が必要な方に「わずか90日」という短期間で大幅な英語力アップを提供するサービス。プロのパーソナルトレーナーがマンツーマンで徹底サポートすることで「TOEIC900点突破」「TOEIC400点アップ」などの成果が続出。
    >>ENGLISH COMPANY公式サイト

  • STRAIL

    ENGLISH COMPANYで培ったメソッドを生かして提供している自習型英語学習コンサルティングサービス。専門家による週1回のコンサルティングにより、英語学習の効果と生産性を最大化する。
    >>STRAIL公式サイト