アメリカの実業家ジェームズ・W・ヤング氏は、1940年刊『アイデアのつくり方』の中でこう言いました。「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何物でもない」。
しかし、ただ「組み合わせろ」と言われても、具体的にどんなものをどう組み合わせればいいアイデアが生まれるのかわからないですよね。
オリジナリティに富んだアイデアを生み出したいあなたのために、既存の要素の組み合わせ方を3つご紹介します。
似ているものと組み合わせる「等価交換法」
1つめは「等価交換法」という方法。考えたい課題を、それと等価なもの(性質が似ているもの)と置き換えて考えます。手順は以下のとおりです。
- 課題を決める。
- 等価なもの(似ているもの)を探して、置き換える。
- 置き換えたものの性質を、もとの課題に取り入れたらどうなるか考える。
この等価交換法について、経営コンサルティングを手がけるマネジメント研究所代表の菊田富雄氏は、いたってシンプルだが活用範囲の広い発想法だと述べています。また、起業支援ネットワークNICe代表理事の増田紀彦氏いわく、短時間でアイデアを生み出せる方法のひとつだとのこと。
等価交換法ではどのようにして発想するのか、例を示しましょう。たとえば、「スイーツの新商品を考案したい」という課題があるとき。スイーツは甘い食べ物ですから、等価なものとしてフルーツと置き換えてみます。フルーツの特徴は、「ヘルシー」「ビタミンが豊富」「朝食にもなる」などでしょうか。これを課題に取り入れると、カロリーや栄養バランスに気を遣ったスイーツ、デザートだけでなく食事としても食べられるスイーツなどが考えられるかもしれません。
あるいは、「やる気が出る勉強法を考えたい」という課題があるとき。楽しくてやる気が出るものとしてゲームを思い浮かべ、勉強と置き換えたとします。そうすると、こなしたい参考書をいくつかのステージに分け、「全部クリアしてラスボスを倒すぞ!」とモチベーションを上げる、などという方法が考えられるでしょう。やり方によってはチーム戦なども考えられそうです。
組み合わせの第一歩は、似ているものどうしから始めてみるといいかもしれません。
“こじつけ” で突飛なアイデアを生む「ブルートシンク」
2つめは「ブルートシンク」という方法です。「brute」とは、「獣」「理性によらない」という意味。その名のとおり、理性で考えず、無作為に組み合わせてこじつけるという発想法なのです。等価交換法より難易度は上がりますが、よりアイデアの幅が広がります。手順は以下のとおりです。
- 課題を決める。
- 日常のなかから無作為にものを選ぶ。単純・視覚的・連想の幅が広いものがよい。
例)石鹸(泡、清潔、におい…)、うちわ(涼しい、持ちやすい、絵柄…)など - 課題との関連性を強制的に考える。
メンタリストDaiGo氏によると、無関係なものどうしの組み合わせによって大胆な飛躍を生み出せるのが、ブルートシンクの特長。その好例としてDaiGo氏が挙げるのが、ガラス製法としていま一般的となっているフロートガラス法です。
ガラスメーカーであるNSGグループの解説によれば、かつては、いまのガラスのような両面が平らで厚さも均等なガラスをつくることは難しかったそう。そんななか1952年、イギリスのガラス製造会社に勤めていたアラステア・ピルキントン氏が、夕食後の皿洗い中に水に油が浮かんでいるのを見て、ガラスを液体に浮かべて製造する方法を思いついたのだとか。その後試作を繰り返し、液体に浮かべてガラスを平坦にする方式を確立したと言います。「ガラス製造」と「皿洗い」という、まったく関係のないものどうしの組み合わせにより、画期的な製造法が生まれたというわけです。
では、私たちのビジネスや日常の課題を、ブルートシンク法によって解決してみましょう。たとえば、旅行についてのブログを定期的に書いているとします。次はどんな話題で書こうか迷ったとき、ふと目に入ったのは部屋の窓。窓から発想を膨らませると、「部屋のなかから外を見る」というヒントから「旅行をしていなかった頃の自分から、いまの自分を見たらどう見えるか?」という話題が、あるいは「開けて換気する」というヒントから「落ち込んで気分を入れ替えたいときには、どこへ行くのがおすすめ?」などという話題が考えつきます。
あなたも、大胆なアイデアを生み出したいと思ったときはブルートシンク法を試してはいかがでしょうか。
組み合わせはなんでもアリ「△△は、◯◯という考え方」
3つめは、博報堂フェローのひきたよしあき氏が著書『5日間で言葉が「思いつかない」「まとまらない」「伝わらない」がなくなる本』で提案している方法をご紹介しましょう。等価交換法、ブルートシンクよりもさらにカジュアルで、なんでもありな方法です。それは、「△△は、◯◯という考え方」というかたちの仮説を立てること。
手順は以下の通りです。
- 課題を決める。
- 「△△(課題)は、◯◯という考え方」という仮説をつくる。◯◯はなんでもよい。
- いくつかつくって、使えそうなものを試す。
仮説は「切り口」だと、ひきた氏は言います。思いもよらない切り口で課題を考えると、オリジナリティあふれるアイデアが生まれるのだとか。ですから、○○には「えっ、そんな切り口で行ける!?」と言いたくなるような思いきった言葉を入れてみましょう。
たとえば、「ユニークなスピーチの原稿をつくる」という課題があるとき。ただ伝えるべきことを詰め込むだけでは、なんのおもしろみもないものになってしまいます。そこで、「スピーチは、◯◯という考え方」と勝手に仮説をつくってみるのです。「スピーチは、ランチという考え方」という仮説ならば、手軽さ=聞きやすさや、腹八分目ならぬ話八分目を意識してみるのはどうでしょう。あるいは、「スピーチは、消毒という考え方」としてみると、想定されるデメリットをひとつずつ潰していくような構成が考えられるかもしれません。
◯◯に入れるものは、本当になんでもいいそうです。課題がビジネスに関するものでも、◯◯には動物を入れてもスポーツを持ち込んでも、抽象的な言葉を入れてもOK。日常的な課題に、世界経済や歴史の一場面を絡めてダイナミックに仮説を立ててもおもしろいでしょう。
「そんなアイデアよく思いついたね」と周囲から一目置かれそうな、「△△は、◯◯という考え方」。ぜひ実践してみてください。
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等価交換法、ブルートシンク、「△△は、◯◯という考え方」。アイデアづくりに行き詰まったとき、ぜひこの3つを試してください。きっと、考えもつかなかった組み合わせ方に出合えるはずです。
(参考)
Wikipedia|アイデアのつくり方
ニューズウィーク日本版|「アイデアは既存の要素の新しい組み合わせ」とヤングは言った
マネジメント研究所|等価交換法
日本政策金融公庫|起業家応援マガジンVOL.76(2016年10月26日)
Moアイデア事務所|アイデアマップ ブルートシンク法
Weblio英和辞書|brute
ログミーBiz|今日から使える発想術 突飛なアイデアを生み出すコツは?
NSGグループ 100周年記念サイト|Story2 フロート製法の発明と技術導入
ひきたよしあき (2019), 『博報堂スピーチライターが教える 5日間で言葉が「思いつかない」「まとまらない」「伝わらない」がなくなる本』, 大和出版.
【ライタープロフィール】
梁木 みのり
大学では小説創作を学び、第55回文藝賞で最終候補となった経験もある。創作の分野のみでは学べない「わかりやすい」「読みやすい」文章の書き方を、STUDY HACKERでの執筆を通じて習得。文章術に関する記事を得意とし、多く手がけている。