チームリーダーの役割は多種多様ですが、その最たるものとなると、メンバーのパフォーマンスを最大化させて目標達成に導くことでしょう。しかし、「言うは易く行なうは難し」ということわざもあるように、その実現は簡単ではありません。主にZ世代など若手社員の研修に定評がある人材育成コンサルタントの北宏志さんは、その鍵は「心理的安全性」にあると語ります。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
【プロフィール】
北宏志(きた・こうじ)
1983年8月9日生まれ、北海道出身。人材育成コンサルタント。株式会社ポールスターコミュニケーションズ代表取締役。大学卒業後、立命館大学に関係する中高一貫校で社会科教諭として6年間勤務。その後、「ララちゃんランドセル」を製造・販売する株式会社羅羅屋に転職。中国での3年間の駐在中は経営幹部として部下80名を束ね、中国国内の売上を3年間で9.7倍に拡大させ黒字化させる。帰国後、日本とアジアの架け橋となって教育をよりよくしていきたいという思いから、人材育成コンサルタントとして独立。Z世代の若手社員の研修を中心に全国35都道府県で1,000回以上の登壇実績をもち、これまでの受講生は2万5,000名を超える。受講者のやる気スイッチを入れる熱血講師として定評があり、「研修業界の松岡修造」の異名ももつ。大手企業や各種団体から依頼される研修・セミナーのリピート率は90%超。著書に『新しい教え方の教科書』(ぱる出版)、『ビビリの人生が変わる 逆転の仕事術』(三才ブックス)がある。
心理的安全性がない組織は、大きな損失を被る
若手の柔軟な発想から斬新なアイデアを提案してほしい――。多くの上司がもつ願いかもしれません。実際に期待するようなアイデアが出てくるのかどうかは、どこに違いがあるのでしょうか。
これは、部下のパフォーマンスを最大化できる組織とそうでない組織の違いと言ってもいいでしょう。結論から言うと、部下のパフォーマンスを引き出せる組織には、いわゆる「心理的安全性」が担保されているという特徴が見られます。
心理的安全性についてはいまさら解説不要かもしれませんが、「組織のなかで自分の意見や考えを安心して発言できる状態」のことであり、端的に言えば「安心感」です。「〇〇部長だったら、多少的を射ていない意見だって聞いてもらえる」といった安心感があれば、部下は忌憚のない意見を言うことができます。
一方、逆に心理的安全性がなかったらどうでしょう? 部下の頭のなかに原石のようなアイデアがあったとしても、「『もっと練ってから提案しろ』なんて言われないかな」「自分ではおもしろいと思うけれど、馬鹿にされるかもしれない」「『どうせ実現できないだろう』と言われたらどうしよう」といった不安から、思いきった提案をできなくなります。
そうして、本来であれば大きな成果につながったかもしれないアイデアの芽を摘んでしまうことになりかねないのです。もちろんそれは、組織にとっては大きな損失にほかなりません。
優秀なリーダーは、部下と一緒に最適な答えを探す
では、肝心の心理的安全性をつくるにはどうすればいいでしょうか。これには、リーダーシップに対する認識が関わります。日本でリーダーシップと言うと、「先陣を切ってメンバーを束ねて引っ張る力」といったイメージが強いかもしれません。おそらく、「リード(lead)」の「導く、引いていく」という意味合いの印象によるのでしょう。
しかし、リーダーシップに関する研究が進んでいる欧米では、リーダーシップは、チームを機能させることではなく「個人の力」が重視されます。つまり、リーダーシップとは、「私についてこい」「言うとおりにすればいい」とただ上から引っ張り上げるようなことに限らず、部下の主体性を活かすようなかたちで部下に好影響を及ぼす力のことでもあるのです。
後者の考え方で部下に接するケースであれば、まずは部下の考え方をしっかりと確認することも、優秀なリーダーに見られる姿勢です。「指示通りに動けばいい」では、部下は主体性を発揮できません。部下は「自分の考えを言ったところで意味がない」と考えるようになり、心理的安全性はどんどん低下してしまうでしょう。
そうではなく、「この件、どのように進めたいと考えたの?」と部下自身の考えを聴くのです。そのなかでなんらかの問題が見えたなら、「なるほど、でもそれだとこういうリスクもあるかもしれないね」とか、あるいは「こういう考え方だってあるよ」のように、課題を指摘したりアドバイスをしたりしながら一緒に最適な答えを探すスタンスであれば、部下は萎縮せずに自分の考えを話してくれるようになるはずです。
もちろん、場合によっては、力強く部下を引っ張る姿勢も求められます。先のコロナ禍がその典型でしたが、大きな災害などが起きてビジネスをめぐる状況が大きく変わったようなときには、「とにかくいまだけは指示通りに動いてほしい」「このやり方で苦境を乗りきるぞ!」というようなスタンスも必要でしょう。ですが、それはあくまでも緊急時の対応であり、心理的安全性を高めるという意味では部下の声に耳を傾ける姿勢が基本となります。
自分のことを知ろうとしない上司を信用する部下はいない
また、心理的安全性をつくり上げるうえでなによりも大切なのは、「部下のことを知る」ということです。部下の立場から考えてみてください。自分のことをほとんど知らないし知ろうともしない、心理的に距離のある上司に対して、「この上司にはどんな意見を言っても大丈夫だ」なんて思えるでしょうか?
私のリーダーシップ研修やマネジメント研修では、上司である人たちに対してそれぞれの部下のフルネームや入社の動機、将来の夢や目標、現在の関心事、休日の過ごし方、現在の悩み、仕事のモチベーションなどを書き出してもらっています。すると、部下のフルネームすら書けないという人だって決して少なくないのです。
ですから、1on1ミーティングなどでの対話から、まずは部下をしっかり知ることから始めましょう。そして、そうして知った情報については、メモしておくのも大切です。
多くの部下を抱える上司であればちょっと大変かもしれませんが、これも部下の立場から考えればわかることです。毎回同じような質問をされて、「それは以前にも答えたよ……」と思うことが続けば、上司への信用は揺らいでいくでしょう。
逆に言うと、「そういえば、1年前にはこんな将来の目標について語っていたよね」とか「いまも社内でやりたいことって変わってない?」といった言葉によって、「上司は自分をわかろうとしてくれている」と部下が感じるだけでも、パフォーマンス向上につながる心理的安全性はぐっと高まっていくのだと思います。
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清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。