スランプ状態にお困りではありませんか? 成績が伸び悩んでいる。湯水のごとく湧き出ていたアイディアがさっぱり浮かばなくなってしまった。何をしてもうまくいかず、人生そのものが低迷している……。
なすこと全てが空回りして改善の兆しも見えない状況が長引けば、どんな人でも心身ともにすり減ってしまうでしょう。そんなスランプ状態に陥ってしまったら、できるだけ早く抜け出したいものですよね。ここではスランプとは何かを掘り下げながら、克服するためのコツをご紹介します。
- スランプとは
- スランプに陥る原因
- イチローもスランプになった
- 作家はスランプになりやすい?
- 勉強のスランプ脱出方法
- 仕事のスランプ脱出方法
- 「人生のスランプ」から脱出する方法
- スランプを脱出するための名言
スランプとは
スランプの語源である英単語の「slump」とは、「どさりと落ちる」「はまりこむ」など、それまでの状態から急落して不調になることを意味する言葉です。このスランプについて、青山学院大学教育人間科学部教育学科教授の鈴木宏昭氏らは、「成績や課題の遂行時間が最高のレベルに達した後、新たに記録が更新されるまでの停滞状態」と定義し、その進行過程を次のように説明しています。
スランプは、パフォーマンスの横ばいが長く続く「プラトー(plateau)」、パフォーマンスがそれまでの水準より低下する「後退」、低下したパフォーマンスが回復し記録を更新するまでの「脱出」を含む。
(引用元:鈴木宏昭, 大西仁, 竹葉千恵「スキル学習におけるスランプ発生に対する事例分析的アプローチ」, 人工知能学会論文誌, 2008年23巻3号SP-A, pp.86-95.)
また、スランプと似て非なる言葉に「プラトー」があります。鈴木氏らによるスランプの説明にも出てきた「プラトー」とは、心理学用語の「高原現象」のこと。学習過程において一時的に進歩が停滞し、学習の進行過程を数量的にグラフで表した「学習曲線」が水平となって高原のような形に見えることから、こう呼ばれるようになりました。もし、パフォーマンスが同じ状態で続いていて後退はしていないと思い当たる人は、「プラトー状態」にあるのかもしれません。
他にも、停滞を示す言葉として「マンネリ」があります。「マンネリ」とは、同じやり方を惰性的に繰り返すことで新鮮味や独創性を失った状態のこと。ルーティンワークなど毎日決まった仕事や勉強 の繰り返しに退屈している人は、もしかしたら「マンネリ」状態を感じているのかもしれません。
スランプに陥る原因
スランプに陥る原因を3つ、取り上げてみたいと思います。
真剣に努力している
スランプ状態を引き起こしている原因としてまず、高い目標を達成するため真摯に努力していることが挙げられます。TOEICや司法試験など難度の高い試験に取り組んでいたり、仕事で一番の営業成績を上げるため努力していたりするからこそ、思うように目標を達成できないときにスランプを感じるのです。
法律の資格・公務員試験専門の受験指導校である「伊藤塾」塾長で弁護士の伊藤真氏は、スランプについて次のように語っています。
「スランプは頑張った証」ですよね。スランプを「定義」してみると、「『自分の努力に見合うだけの成果が上がっていない』と自分が感じている状態」のことです。ということは、「努力をしていない人」にスランプはこないんです。
(引用元:ダイヤモンド・オンライン|スランプになったら安心していい!?【伊藤真×白川敬裕】(第2回) 太字による強調は編集部が施した)
スランプは、真剣に取り組んでいる人にしか現れない「努力の証拠」なのです。
知識の急激な増加
勉強や経験を積み重ねることによる知識の急激な増加がスランプの原因になることもあります。社会心理学者の岡本浩一氏は、急激に増加した知識と「スキーマ」との乖離(かいり)がスランプの大きな原因になると指摘しています。
「スキーマ」とは、過去の経験や自分を取り巻く環境に基づいて作られた「認知の枠組み」のこと。人は、「スキーマ」を利用し自分の動きを予測しながら行動に移します。けれども短期間に膨大な知識を得ると、従来の「スキーマ」が通用しなくなります。その結果、必要な知識を探し出すのに時間がかかったり、状況にふさわしい行動が選択できなくなったりして、スランプが発生するのです。
プラトーやマンネリによるモチベーションの低下
勉強や練習を続けていると、成長の伸び悩みや同じことの繰り返しによる「飽き」が原因でモチベーションが下がり、スランプ状態になることがあります。「プラトー状態」は、習得した一定のスキルの成熟が原因で現れる一時的な停滞状態です。プラトー時に努力をやめてしまうと、スランプに陥ってしまいます。
また、長く同じことを繰り返すことは「マンネリ状態」を招きます。仕事や勉強に退屈し飽きることによってやる気がわかず、スランプ状態になってしまうこともあるでしょう。
イチローもスランプになった
元メジャーリーガーのイチローも現役時代、スランプに陥っていたそう。年間200本安打の連続記録を保持していたイチローは、2011年の打撃不振によりオールスターゲームへの出場とゴールドグラブ賞を初めて失います。
オールスターゲームとは、ファンによる投票や監督の推薦により選抜されたメジャーリーガーのみが参加できる、野球選手にとってまさに夢の舞台。またゴールドグラブ賞は、守備に卓越したメジャーリーガーが、各ポジションにつき1人ずつ各チームの監督・コーチの投票によって選出されるという、栄えある賞です。
10年連続で手にしてきたこの「夢の舞台」と「栄誉」をともに失う原因となった過酷なスランプについて、当時のイチローは次のように語っています。
全然うまく行かなかった去年と比べ、今年はかなり行けるという感触はある。でも結果は違う。その紙一重のところで、スランプが3週間続いている
(引用元:gooテレビ番組|プロフェッショナル仕事の流儀 特別編「イチロースペシャル2012」)
イチローはスランプから脱出する刺激を必要としたため、環境を変えることにします。そしてシアトル・マリナーズとの5年契約が終了したのを機に、2012年7月、ニューヨーク・ヤンキースへ移籍。40歳を目前に控えた決断でした。その結果としてスランプを克服し、見事なプレーでチームに貢献。イチロー自身11年ぶりとなる地区優勝を果たしました。
スランプに悩まされつづけても諦めず、大きな成功をつかんだイチロー選手。私たちもイチロー選手を見習い、スランプを乗り越えたいものです。
作家はスランプになりやすい?
作家にはことさら「書けない」というスランプにはまりやすいイメージがありますよね。そんな作家たちは、どのように苦しいスランプを経験し克服しながら、作品を生み出し続けているのでしょうか。
スランプは、書くための下積み時代
『蹴りたい背中』によって芥川賞を最年少で受賞した綿矢りさ氏は、大学の授業で学んだ文学に関する膨大な知識がプレッシャーとなり、以前のように小説が書けなくなってしまったそう。作品を最後まで完成させられなかったり書いても編集者にボツにされたりと、深刻なスランプは6年にも及びました。
スランプ状態の間、綿矢氏はアパレル店員やコールセンターの従業員など作家業とは異なる仕事を経験していました。未知の世界や人に触れていくうちに、気分転換でき視野がひろがって、また小説を書けるようになったそうです。そしてスランプを脱出後、2012年には『かわいそうだね?』で大江健三郎賞を最年少受賞するなどの快挙を達成し、今も精力的に執筆活動を続けています。
綿矢氏にとって、低調だった6年間は「後からやってきた下積み期間」であり、今ではスランプを経験して良かったと思っているそうです。
スランプは、「神を生む力」が得られるとき
狂言師・野村萬斎氏が主演を務め、フィギュアスケートの羽生結弦氏が五輪を連覇した演技の楽曲で有名な映画『陰陽師』。その原作者である夢枕獏氏も、スランプにみまわれることがありました。
書けなくなる原因としては、アイディアが枯渇するなど作家としての能力によることもあれば、親族の死やトラブルなど、環境によることもあったそうです。スランプ中でも締め切りを前に必死に書き続けた結果、作品の質が変化し仕事が減ってしまうこともあったとのこと。
考えに考えて、そのときのぼくの感覚を言葉にするならば「脳が鼻から垂れるまで」考える。こうやって考え抜くことで、「神を生む力」が得られるんです。言い換えれば、小説のアイディアを生み出す力ですね。
(引用元:夢枕獏(2015),『秘伝「書く」技術』, 集英社インターナショナル.)
アイディアが浮かばなくなったら、夢枕氏はとにかく死ぬほど考えます。ソファに寝転がりながら、1時間でも2時間でも考えるべきことに集中していると、突然ポロッとアイディアが出てくるのだそうです。
夢枕氏は、「一生やると覚悟を決めればスランプは怖くない」と言います。一生続くスランプはなく、過ぎてしまえば人生における風景の一部分でしかないのだから、怖がらずに続ける努力をすることが大事なのだそう。
「一生続くスランプはない」……納得のいく言葉です。私たちもこの言葉を胸に、スランプを重く捉えすぎないようにしたいものですね。
勉強のスランプ脱出方法
「やればできる」という自信を高める
大事な試験のため朝から晩まで勉強しているのにスランプに陥り、思ったような結果が出せない状況が続いたら、不安や心配で勉強が手につかなくなってしまうこともあるでしょう。
スランプ状態から脱出するにはまず、「10分間、机に向かって椅子に座る」「教材を5分間音読する」など、自分の意志で確実に達成できる目標を立ててみてください。それを、簡単なものから徐々にレベルを上げながら実行することで、「やればできる」という自信が高まり、自然と勉強への意欲が出てきます。
受験生専門外来「本郷赤門前クリニック」院長で医学博士の吉田たかよし氏曰く、勉強のスランプから脱するために最も必要なのは、自分の意志で勉強できるのだと信じる「自己効力感」を高めることなのだそうです。勉強のスランプを克服するために、確実にできる課題をクリアすることで1段ずつ自信を高めてみませんか?
ひたすら勉強に没頭する
もし成績が伸び悩んでいるものの下がってはいないなら、「プラトー状態」にあるのかもしれません。「プラトー状態」のときにやる気を失って勉強から離れてしまうと、成績が下降し一気にスランプ状態になってしまいます。
「プラトー状態」を自覚できたなら、諦めてはいけません。学習方法がマンネリ化していないか見直し、やり方を変えてみるなど脳に新鮮な刺激を与えて勉強へのモチベーションを上げていきましょう。
「記憶力世界選手権」において、「記憶力のグランドマスター」の称号を日本人で初めて獲得した池田義博氏は、「プラトー」とは、習得した知識をうまく使いこなすため試行錯誤をしている脳にとって非常に大事な時期で、大きく飛躍できる前兆であると述べています。
このプラトーの期間中、脳は知識を整理して使える形に作り変える作業を行っています。この知識の熟成期間を経ることで、頭の中の知識は使える知識として整理された形になるのです。
(引用元:ダイヤモンドオンライン|天才にもおとずれるプラトーの正体とは?)
「プラトー状態」でも、勉強へのモチベーションが上がるよう学習内容を工夫し、レベルアップを目指しましょう。
長時間のプレッシャーから脳を解き放つ
TOEICやハードルの高い資格試験などで重いプレッシャーにさらされているうちにストレスをため、スランプに陥ってしまうこともありますよね。短期間のプレッシャーであれば、集中力を生み出すなどプラスの面もあるのですが、長引くプレッシャーは脳を疲弊させ、身体の免疫系にも悪影響をおよぼすストレスを引き起こしてしまいます。そのような状況を改善するために、脳をプレッシャーから解放する気分転換法を練習してみましょう。
勉強が行き詰まってしまったら、「席を立ってストレッチをする」「好きな本を読む」「取り組んでいたものとは異なる分野の勉強に切り替える」「部屋を出てティータイムを楽しむ」など、自分に合った気分転換法を実行してみてください。ストレスを発散できれば、勉強の効率が上がってスランプから脱出できるかもしれません。
脳科学者の茂木健一郎氏も、勉強が得意だったのは上手に気分転換をしていたからだと振り返っています。
考えてみれば、かつて私が勉強が得意だった理由も、この気分転換が上手かったからです。(中略)短時間勉強に集中して、後はパッと気分転換をする人の方が、勉強や仕事の効率はいいのです。(中略)なんでもいいので自分なりの気分転換法を分かっていれば、脳にプレッシャーはかかりません。
(引用元:茂木健一郎(2013),『幸福になる「脳の使い方」』, PHP研究所. 太字による強調は編集部が施した)
過度なストレスはスランプのもと。適度に気分転換をして、勉強のスランプを回避しましょう。
仕事のスランプ脱出方法
営業スランプには、メンタルを上げるツールが効果的
営業成績が下がり、「また失敗するかも」というネガティブ思考から「営業スランプ」にはまっていませんか?
そんな場合には、お客様から寄せられた「感謝の言葉」や、自分の仕事にやりがいを感じたときの嬉しいエピソードなどを紙に書き出してみましょう。そして、いつでも取り出すことができるよう、手帳やお財布などに入れておいてください。気分がふさいでメンタルが下がったときに紙を見返せば、好調だった頃の感情を思い出し気分を高めることができるでしょう。
大手ハウスメーカーに在籍中、全国営業成績1位の業績を何度も達成した元トップセールスマンで営業サポートコンサルティング代表取締役の菊原智明氏も、さっぱり売れない営業マン時代があったそう。けれども、営業活動にはノウハウよりもメンタルが大事であることに気づき、メンタルを良い状態に保つ工夫をするようになってから業績を上げることができるようになり、トップセールスマンへとのし上がったのです。
菊原氏は、「あなたが担当で良かった」「君だから購入を決めた」など、お客様から言われて嬉しかった言葉を手帳に書き出し、不調を感じたときに眺めたり口に出して読み返したりして元気をもらっていたそうです。苦しい「営業スランプ状態」を抜け出すために、メンタルを上げるツール作りをぜひお試しください。
接客スランプを感じたら、ありがちな営業トークにひと工夫
営業トークが空回りし、売り上げが下がってスランプになることはありませんか? 「接客スランプ」に陥ったら、今使っている営業トークがマンネリ化していないか一度見直してみてください。
例えばアパレルショップなどで、「これ、よく売れているんですよ」「私も持ってます」「ちょっとしたパーティーに使えますよ」などよく耳にする営業トークがありますよね。このようにありきたりなフレーズをそのまま使っても、「他人とかぶりたくない」「その服を着るシチュエーションがイメージできない」など、かえって購買意欲を下げる結果になるかもしれません。
そこで、ちょっとひと工夫してみましょう。「よく売れている商品」と、「かぶらない可能性が高い商品」をあわせて紹介する。「私も持ってます」と言う場合には、着てみたり使ってみたりした実際の感想も付け加えてみる。「ちょっとしたパーティー」としては、「結婚式の二次会」のほか、「コンサート」や「おしゃれなレストラン」のようにドレスコードが想定される場など、お客様がその洋服を着ているシチュエーションを具体的にイメージできるような情報も伝えてみましょう。
お客様が商品を買う喜びを感じられる、相手のニーズに応えようとする丁寧な営業トークならば、信頼を得て自然と売り上げにつながっていくのではないでしょうか。
アパレル企業に在勤中、その接客手腕によって不採算店舗の立て直しや店長の育成に携わっていた「売り場コーディネーター」の平山枝美氏も、はじめは声かけですら難儀している販売員でした。けれども営業トークにひと工夫するようになってから業績をあげ、トップの売上を誇るまでになっていたそうです。
私が研修などでオススメしているのは、「販売員の“あるある言葉”は避ける」ということです。つまり、「ふつうの人がよく言いがちで、売れる販売員がほとんど言わない言葉を避ける」という方法です。まずはこれを意識するだけで、上手く接客できるようになります。
(引用元:日本実業出版社|「私も持っています!」ではお客は買ってくれない【著者インタビュー】 太字による強調は編集部が施した)
失敗を分析し、成功者から学ぶ
仕事で長いあいだ成功が続いていたのに、ある時期から従来のやり方が通用しなくなって業績が下降し、スランプ状態に陥ってしまうこともあるでしょう。スランプに陥ったら心を落ち着けて、「次のステップに進むための、学びの時期が来たのだ」と考えてみてください。
まずはスランプの原因となっていることを書き出してください。それから職場で成功している人や、うまくいっていた頃の自分自身のやり方を思いつく限りリストアップしてみましょう。それを客観的に分析することで、改善すべき点と取り入れるべき良いアイディアを見つけることができます。あとは、考え出したアイディアを実行してみてください。
スポーツ心理学者の児玉光雄氏は、イチローの考え方を分析した著書の中で、失敗からヒントを見つけ出し改善し続けることが成功への道であると述べています。
人間の脳は、失敗の中から何かヒントをつかんで、それをフィードバックし、同じ失敗をしないようにするという働きをもっている。(中略)あきらめないで改善し続ければ、最終的に壁を突破して成功にたどり着ける。(中略)逆境こそ壁を突破する飛躍のチャンスなのである。
(引用元:児玉光雄(2018),『イチロー式突破力』, ゴマブックス.)
イチローもスランプのときに行っていたという上記の方法を活かして、スランプを飛躍のチャンスに変えてみてください。
ルーティンワークを自分流にアレンジする
毎日同じような仕事の繰り返しに飽きてしまい、モチベーションが下がってスランプ状態に陥ることもあるでしょう。マンネリが原因でスランプを感じているのであれば、仕事に新鮮な刺激を加える工夫をおすすめします。
習慣化コンサルタントの古川武士氏も、ルーティンワークに変化と刺激を与えることが、「マンネリ状態」を脱するために必要であると説いています。
仕事で退屈になり成長を実感できていないのは、いつも通りに仕事をこなすだけで、新しく変化領域へ踏み出すような「挑戦をしていない」からに他なりません。自分の能力以上の挑戦の場があれば、退屈感は消えて、リスクと刺激がやってきます。
(引用元:Study Hacker|変化のない毎日に飽き飽きしてない? 仕事のマンネリから脱却するための “ほんの少しの” 心がけ。 太字による強調は編集部が施した)
例えば、作業時間が短縮できるような手順を模索してみてください。もし仕事の効率化に成功して時間の余裕が生まれたら、新しい需要のある仕事にチャレンジしてみましょう。新しい行動を起こすことでモチベーションが上がれば、スランプを脱出する一歩を踏み出せるはずです。
「人生のスランプ」から脱出する方法
自分とは違う別の世界に触れてみる
何をやってもうまくいかず、「人生のスランプ」を感じるときには、普段とは違う別の世界に触れてみませんか? 慣れ親しんだ世界とは異なる見方や考え方に触れると、自分を客観視でき色々な切り口から柔軟に問題点を考えられるようになります。
2018年に国民栄誉賞を授与された将棋棋士の羽生善治氏も、苦しいときには別の世界に触れ自分を客観視することが大切だと説いています。
切羽詰まった時、苦しい時には、自分がいるところとは違う世界に触れるのがいいかもしれない。自分の前にある壁をぶち破るための、状況を変えるためのヒントが詰まっていることがある。
(引用元:羽生善治(2010),『羽生善治の思考』, ぴあ株式会社. 太字による強調は編集部が施した)
例えば、普段読んでいるものとは異なるジャンルの本を読んでみたり、休日にいつもは行かない場所に足を向けてみたりなど、通常とは違った世界をのぞいてみてはいかがでしょう? スランプ状態を打開できるヒントが見つかるかもしれません。
「こうあるべき」という縛りを手放してみる
自分が思い描いていた「理想」と「現実」のギャップのせいでストレスをためていませんか? 「自分にふさわしい大学」「自分の能力に見合う仕事」など欲の数だけ存在する「理想」を、いったん手放してみてはいかがでしょう?
ノーベル物理学賞を受賞したリチャード・P・ファイマン氏も、若い頃にスランプを経験した一人です。大学教員に就職したものの、周囲の期待に反して業績を上げられず、何をしても楽しめないという沈んだ日々を過ごしていたそう。けれどもある日、以前のように研究を楽しむことにしようと開き直ることで、「研究の価値」という縛りから自分を解放し人生のスランプを克服したのです。
茂木氏は、スランプに陥っていた頃のファイマン氏のように「理想の自分」と「今の自分」がかけ離れている人ほど、強くストレスを感じていると指摘しています。
自分自身に対して、「今の私は理想とする自分像からはほど遠い」と不平不満を抱いている人は、その時にやっている仕事もあまり上手くいっていない場合が多いようです。その反対で、ファイマンのように「今、ここ」を楽しんで幸福を感じている人は、良い仕事をします。脳のパフォーマンスが上がるのは、その時にしていることに本人が完全に浸りきり、集中して楽しんでいる時です。
(引用元:茂木健一郎(2013),『幸福になる「脳の使い方」』, PHP研究所. 太字による強調は編集部が施した)
自分を縛り付けていた思い込みから自由になれば、「今」を楽しめるようになって、いつの間にか人生のスランプを克服しているかもしれませんよ。
20分間公園で過ごしてみる
過度なプレッシャーからくるストレスで、スランプ状態になっていたら、公園で過ごしてみませんか?
公園の植物は四季折々の違った景色を見せてくれますし、子どもからお年寄りまで、様々な人が集います。さわやかな風を受けながら変化に富んだ風景を眺めているだけでリラックスでき、脳は新鮮な刺激を受けて活性化します。また、自分を取り巻く環境とは異なる世界に住む人々と同じ空間に身を置くことで自分を客観視することもでき、スランプを克服するアイディアが浮かぶかもしれません。
アラバマ大学バーミンガム校・作業療法学科の研究者らの調査では、20分ほど「都市公園」で過ごすことで「幸福感」が改善するという結果が報告されています。
研究に参加した94人は、公園を訪問する直前と直後に主観的幸福(SWB)を評価する短いアンケートを記入し、公園訪問中は加速度計を装着して、身体活動レベルを追跡されたそう。その結果、公園訪問前後のSWBや、生活満足度スコアなどが、有意な改善を示したそうです。
(引用元:Study Hacker|ストレスだらけのビジネスパーソンに20分間の「公園滞在」をすすめるワケ。)
公園などの緑地で過ごすとストレスの緩和が期待できそうです。人生にスランプを感じているのなら、20分ほど公園を散歩してみませんか?
スランプを脱出するための名言
スランプを好機に変えるイチローの言葉
自分が絶好調なのはスランプのとき
(引用元:児玉光雄(2018),『イチロー式突破力』, ゴマブックス.)
結果が残せず失敗ばかりしている「スランプ状態」でも、逃げ出したい気持ちをぐっとこらえてください。実はスランプの中にこそ、人生を飛躍させるヒントが転がっているものなのです。
イチローはスランプを学習の絶好の機会ととらえ、うまくいかない問題は何か、どうすれば解決できるかを必死に考えていたそうです。とことん考えた結果として飛躍のためのヒントをつかみ、着実にレベルアップしていきました。皆さんも、「スランプこそレベルアップのチャンス」と自分に言い聞かせてモチベーションをあげ、飛躍のためのヒント探しをしてみてください。
山中伸弥氏の成功を引き寄せる心がけ
人間万事塞翁が馬
(引用元:山中伸弥(2018),『走り続ける力』, 毎日新聞出版.)
予想とは違う結果が大発見につながったり、失敗だと思ったことが成功の元になったりということ、ありますよね。iPS細胞の開発過程でも、一度失敗だと思った実験で生まれたマウスがiPS細胞開発の成功につながりました。
ノーベル生理学・医学賞の受賞者で京都大学iPS細胞研究所所長の山中伸弥氏は、物事が順調に進んでいるときは「悪いことの始まりではないか」と用心し、物事が思うように進まないときや、好ましくない出来事が起きるときこそ、「この先きっと良いことにつながる」と考えるよう心がけているそうです。今あなたが経験している辛いスランプは、未来の飛躍につながっているのだと信じて力を蓄えていきましょう。
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スランプ状態にあるのは、高い目標に向かって頑張っているからこそ。行き詰りを感じたら別の世界に触れたり、公園を散歩してみたりなどして心の安定をはかることが大切です。
また、スランプは「飛躍へのヒント探し」ができる時期。成功例と比較してうまくいかない原因を冷静に分析してみましょう。人生のステップアップにつながるスランプ克服のコツを、ぜひ試してみくださいね。
(参考)
岡本浩一(2014),『スランプ克服の法則, PHP研究所.
児玉光雄(2018),『イチロー式突破力』, ゴマブックス.
児玉光雄(2016),『最高の自分を引き出すイチロー思考』, 三笠書房.
羽生善治(2010),『羽生善治の思考』, ぴあ株式会社.
山中伸弥(2018),『走り続ける力』, 毎日新聞出版.
吉田たかよし(2015),『受験うつ―どう克服し、合格をつかむか』, 光文社.
夢枕獏(2015),『秘伝「書く」技術』, 集英社インターナショナル.
茂木健一郎(2013),『幸福になる「脳の使い方」』, PHP研究所.
鈴木宏昭, 大西仁, 竹葉千恵「スキル学習におけるスランプ発生に対する事例分析的アプローチ 」, 人工知能学会論文誌, 2008年23巻3号SP-A, pp.86-95.
コトバンク|slump
コトバンク|高原現象
All About|ダイエットや勉強の停滞期…「プラトー期」の突破法
コトバンク|マンネリズム
早稲田ウィークリー|後編芥川賞作家綿矢りさの12年―小説家として、母として、いま思うこと
コトバンク|スキーマ
ダイヤモンド・オンライン|天才にもおとずれるプラトーの正体とは?
ダイヤモンド・オンライン|トップ営業マンがどん底から抜け出すときの意外な「メンタル操縦術」
日本実業出版社|「私も持っています!」ではお客は買ってくれない【著者インタビュー】
Study Hacker|変化のない毎日に飽き飽きしてない? 仕事のマンネリから脱却するための “ほんの少しの” 心がけ。
Study Hacker|ストレスだらけのビジネスパーソンに20分間の「公園滞在」をすすめるワケ。
logmi Biz|手術が苦手で逃げ出した、鬱病にもなった―ノーベル賞・山中伸弥氏が高校生に贈った言葉は「人間万事塞翁が馬」
【ライタープロフィール】
上川万葉
法学部を卒業後、大学院でヨーロッパ近現代史を研究。ドイツ語・チェコ語の学習経験がある。司書と学芸員の資格をもち、大学図書館で10年以上勤務した。特にリサーチや書籍紹介を得意としており、勉強法や働き方にまつわる記事を多く執筆している。