「しっかり考える」。口で言うのは簡単ですが、いったいどうすればそうできるのでしょうか。『東大教授の考え続ける力がつく 思考習慣』(あさ出版)という著書を上梓した、東京大学先端科学技術研究センター教授・西成活裕(にしなり・かつひろ)先生は、仕事においてしっかり考えるためには、「大局力」と「場合分け力」というふたつの力が欠かせないと語ります。それぞれどんな力なのでしょうか。それらを磨く方法とあわせて解説してもらいました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
しっかり考えるために欠かせない、「大局力」と「場合分け力」
仕事で成果を挙げようと思えば、しっかり考えなければならないということは言うまでもないでしょう。思いつきだけで仕事を進めていては、大きな成果は挙げられません。でも、しっかり考えるとは言っても、その中身も重要です。もちろん、ただ単に時間をかけて考えればいいというわけではありません。特に仕事においてしっかり考えるために重要となる力のひとつに、「大局力」があると私は見ています。
大局力とは「全体を俯瞰して見る力」のこと。目標達成に向かって進み始めたつもりでも、見当違いの方向に進んでしまっては、目標達成に至りません。正しい方向を知るために、全体を俯瞰する大局力が重要なのです。
また、目標達成までの道のりは一本道とは限りませんから、きちんと分岐点を見つけて正しいルートを選択することも重要。そういう意味では、大局力に加えて、「物事を分類して選び取る力」である「場合分け力」も仕事において求められる力のひとつです。
みなさんには大局力と場合分け力が備わっているでしょうか? 以下のテストでチェックしてみてください。
答えは「6通り」です。みなさんの結果はどうでしたか? 正解に達するには、まず全体像を把握する必要があります。そうして、START地点、GOAL地点がそれぞれどこであり、どのようなルートがあるのかを大まかに把握しなければなりません。さらに、GOAL地点に向かって進むうちに分岐点を見つけて、ルートを適切に分けて選び取ることも求められます。
大局力と場合分け力に欠けているために起こるよくないこと
では、大局力と場合分け力に乏しい人にはどんなよくないことが起きるでしょうか。ひとつ、例を考えてみましょう。大きな契約を控えた大事なクライアントをある場所からある場所まで、わけあって徒歩で案内することになりました。相手は大事なクライアントですから、気分を損ねさせてしまうことなど許されない状況です。
ですから、そのクライアントとの契約や、それによって構築される今後の自分のキャリアといったものの全体像に目を向けておくことが大切です。それができていれば、クライアントを案内するという単純な仕事の重要性もおのずとわかるというもの。もちろん、実際に案内するルートの全体像を把握しておくことも大切ですし、そのなかで分岐点となりえるあらゆる可能性を想定しておくことも求められます。
もし、途中でクライアントが「喉が渇いたなあ」とつぶやいたとしたらどうですか? 大局力や場合分け力がある人なら、クライアントの喉が渇く可能性をあらかじめ想定しているため、「少し先に喫茶店がございますので、休憩いたしましょう」というふうに対応できます。クライアントに「この人は自分のことをきちんと考えてくれている」と感じさせることができ、信頼を得ることもできるでしょう。
一方、大局力と場合分け力に欠けている人は事前の想定ができていませんから、的確で迅速な対応ができません。「ちょっとお待ちください!」と焦って調べ始める姿に、クライアントの評価は大きく下がってしまうでしょう。
もちろんこれはあくまでひとつの例ですが、あらゆる仕事において大局力と場合分け力が求められるということです。全体像を把握できないままでは、まるで見当違いの方向に進んでしまう可能性が高まりますし、仕事を進める過程で適切な選択ができなければその仕事が失敗に終わる可能性が高まります。
大局力を高めてくれる「Google Earth」
では、どうすれば大局力と場合分け力を高められるのか。大局力向上のために私からおすすめしたいのは、「Google Earth」です。みなさんも一度は使ってみたことがあると思います。Google Earthを起動すると、最初は地球全体の衛星画像から始まります。これ以上ない「大局」ですよね(笑)。
でも、大局力が優れている人は、ただ遠くから全体を眺めているだけではありません。その対極にある、物事を細かいディテールまで見る力も備えていることが多いのです。そこで、Google Earthを使って今度はある地点にぐーっとズームインしてみましょう。
そのように、ズームインとズームアウトを繰り返すことで、対極力に必要な視点と細かいディテールまで見る視点の双方を自然と身につけられると私は見ています。
一方の、場合分け力向上におすすめしたいのは、プログラミングです。「まったくの専門外だよ……」と思った人も安心してください。いまは、子どもがプログラミングを学ぶためのおもちゃのようなツールがたくさん販売されています。たとえば、パソコンやタブレットで入力したプログラムでロボットを動かすといったものです。自分が意図したとおりにロボットを動かすには、「もし光があたっていたら右に進む」「障害物を感知したら左に避ける」と場合分けをする必要があります。
プログラムには、「もし〜だったら〜する」という指示をする「If〜Then〜」という条件式が欠かせません。プログラムとはまさに場合分けそのものの積み重ねですから、プログラミングに親しむことで場合分け力が磨かれるのです。
【西成活裕先生 ほかのインタビュー記事はこちら】
とことん頭を使える人がもつ「7つの考える力」。特に社会人が高めるべきは “この2つ”
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【プロフィール】
西成活裕(にしなり・かつひろ)
1967年1月8日、東京都生まれ。東京大学先端科学技術研究センター教授。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、博士(工学)の学位を取得。その後、山形大学、龍谷大学、ドイツ・ケルン大学理論物理学研究所を経て現職。ムダどり学会会長、MUJI COLOGY!研究所所長などを併任。専門は数理物理学。さまざまな渋滞を分野横断的に研究する「渋滞学」を提唱し、著書『渋滞学』(新潮社)は講談社科学出版賞などを受賞。2007年JSTさきがけ研究員、2010年内閣府イノベーション国際共同研究座長、文部科学省「科学技術への顕著な貢献2013」に選出、東京オリンピック組織委員会アドバイザーにも就任している。日本経済新聞「あすへの話題」連載、日本テレビ「世界一受けたい授業」に多数回出演するなど、多くのメディアでも活躍している。近著に、『東大の先生! 文系の私に超わかりやすく高校の数学を教えてください!』『東大の先生! 文系の私に超わかりやすく数学を教えてください!』(ともにかんき出版)などがある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。