
部下をしっかりと支える「面倒見のいい上司」でありたい――。そのような理想がじつは部下の成長を妨げると指摘するのは、トヨタ自動車、TBS、アクセンチュアを経て戦略コンサルタント、データサイエンティストとして活躍する山本大平さん。「いま」という時代背景を踏まえながら、部下を成長させるためにリーダーが実践すべきマネジメント術を伝授してもらいます。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
【プロフィール】
山本大平(やまもと・だいへい)
戦略コンサルタント/データサイエンティスト。F6 Design 代表取締役。トヨタ自動車に入社後、TBSテレビ、アクセンチュアなどを経て、2018年に経営コンサルティング会社F6 Designを設立。トヨタ式問題解決手法をさらに改善しデータサイエンスを駆使した独自のマーケティングメソッドを開発。企業/事業の新規プロデュース、リブランディング、AI活用といった領域でのコンサルティングを得意としている。近年では組織マネジメントや人材育成といった人事領域にも注力。
マイクロマネジメントでは部下は成長しない
いま、リーダーの立場にある人のなかには、部下にとって「面倒見のいい上司」になろうと考えている人もいるでしょう。いいことのように思えるかもしれませんが、それはおすすめできません。面倒見がいい上司をどう定義するかにもよりますが、あらゆることを細かく指導する、つまりマイクロマネジメントをする上司のもとでは、部下は「指示待ち症候群」になるだけで成長しません。
なにをやってもハラスメントだと言われるような風潮のなかでは、いまの若手社員の多くは、温室育ち化しやすくなります。彼ら彼女らには、「上司が教えてくれて当然」「マニュアルを用意してくれて当然」「やり方を教えてくれて当然」といった姿勢が見られます。それゆえに自らで考える機会がなくなり、その結果として若手の成長機会を奪うことにもなります。
また、そんなマイクロマネジメントの弊害は、部下の成長機会を奪うだけではなく「上司の今後の時間も奪っていること」につながるのです。そして、そんな状態が横行している会社は、企業全体としても生産性を欠き成長できません。
マイクロマネジメントは部下の成長を奪うだけではなく、会社の成長を奪うのです。
また一方で、そうした若手は責任を自らでとろうとしません。なんらかの失敗をしたとしても、「上司であるあなたの指示に従っただけ」「それで失敗したのだから、あなたのせいですよ」と思っているわけです。
自分で考えて実行して失敗したとなったら、そこから得られる学びも多いでしょう。でも、「自分の失敗ではない」「自分には責任はない」と考えているのですから、そうした学びを得ることもありません。当事者意識のない「ただの評論家」ということですから。

質問には「?」で返して部下の思考を促す
部下が成長しないとなったら、それは部下個人の問題にとどまりません。チームのパフォーマンスを高めていかなければならないリーダーにとっても死活問題になるのです。
だからといって、いきなりマイクロマネジメントをいっさいやめてすべてを部下に任せるのも会社としてリスクがあります。温室育ちの若手にとっては大きなカルチャーショックとなり、精神的に大きなダメージを負うことだってしばしば。結果として、会社を辞めてしまう、あるいは徒党を組んでそんな風潮をつくり出す危険性も考えられますよね。
そう考えると、そのような場合には、ある程度の細かい指示を出しつつも、「部下自身に考えさせるためのコミュニケーション」が必要ではないでしょうか。
やることは簡単です。部下からの質問に対して「?」で返すだけです。
部下が「これ、どうしたらいいですか?」と聞いてきたら、「どうしたらいいと思う?」と返す。そして部下の返答があったら、さらに「じゃあ、もしこうなったらどう対応する?」「その対応にどんなメリットがある?」「どんなデメリットがある?」というようにさらに質問を重ねて、部下の思考を促します。
ポイントは「部下の返答(アイデア)に対して、メリットとデメリットを確認する」ことです。その際、「How」と「If」を軸に質問していきます。
もちろんこれは、突き放す行為ではありません。「あなたも仕事でお金をもらっているプロでしょう」という姿勢で、部下自身に考えさせる、実行させるように導くのです。その結果、失敗に終わることもあるでしょう。でも、そのように自発案での実行結果として「恥」をかくことでしか人間は自ら内省することはありません。人間は「恥」をかかないと成長できない生き物ですから。
そうした「恥(=成長機会)」のマネジメントをするために、リーダーのみなさんに意識しておいてほしいのは、私が「口2耳8」と呼んでいるスタンスです。すべてを細かく指導する場合、あれやこれやと指示を出すために、極端に言えば「口10耳0」のスタンスになります。そこで「口2耳8」と意識しておくと、細かく指導しすぎることを抑えられるわけです。
やり方を知っていても答えなんて教えてはいけません。先ほど述べたHow/If論法で「?」を投げかけ、部下が自ら転びながらも答えに辿り着かせるように仕向けてください。そのためには「口2耳8」のマネジメントスタンスが肝要だと気づくでしょう。

部下のスケジュール管理はしない
それから、「部下のスケジュール管理をしない」のも、部下の成長を促すためのポイントです。若手に対しては、「あれ、どうなっている?」と上司側からスケジュールを確認するのがよく見られるケースです。それはまさしく、面倒見のいい上司ですよね。でも、スケジュール管理まで上司任せの部下が成長することはまずありません。
ですから、なんらかの仕事を担当させるなら、実際に「着手する前の初期段階」で、ゴールから逆算して「この日までにあれをする」「この日までにこれをする」というマイルストーン(目標達成のための重要な中間点)を部下自身に資料で提示させましょう。
ただし、そのマイルストーンが実現不可能なものであるなど事前に予見できる場合には、「これ、本当に実現できる?」「もしできなかったらどこの日程でリカバーする?」というように、やはり「?」で返して考え直させるようにしてみてください。そうして、成果につながる解像度の高いスケジュールを組むトレーニングを積ませるのです。
このコミュニケーションは、あくまで「着手事前」に行ないます。最初から最後まで「口0」のマネジメントスタンスでは与えた仕事は破綻してしまいますから、リーダーは着手事前に「口2」を消費します。
そして最後に、「これらのマイルストーンが遅れるときは、すぐに相談に来るように」とだけ伝えます。この宣告により、スケジュール管理は自ずと部下自身が主導してやらなければならなくなります。そうすることで初めて「部下の成長機会を与える」といったサステイナブルなマネジメントが仕組み化できるようになってきます。ここで言う仕組み化とは「逸脱できない環境」ととらえていただいてもかまいません(笑)
ただ、若手の場合にはやはり失敗してしまうことも多いでしょう。そうしたときは、上司であるみなさんには、部下のミスで迷惑をかけた関係各所にフォローや謝罪するなど、部下の知らないところで、つまり裏側で支援してあげてほしいと思うのです。そのような上司こそが、本当の意味で「面倒見のいい上司」なのではないでしょうか。

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清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
